転校してきた七不思議。〈ヤンデレ恋愛怪異奇譚 〉

創作屋 鬼聴

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天文学部の肝試し

天文学部の肝試し

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始まりは、高校2年生の初夏の夜。
天文学部の部活中の事だった。

私達、天文学部の部員6人はその日も
旧校舎の屋上に望遠鏡を立て
星を眺めていた。

新校舎の屋上は鍵が掛かっている為、
旧校舎の屋上に忍び込み
こっそりと活動するのが
私達、天文学部の定番だったのだ。


屋上に立てられた数台の望遠鏡の間を、
夜特有の涼しく爽やかな風が吹き抜ける。

空は綺麗に晴れ渡り、
ここらが田舎なのもあって星がよく見えた。

あの日は
とても良い夜だったのを今でも覚えている。


私が今週分の星の観察と
レポートをひと段落させた時
部長が声を上げた。

まだ少年ぽさの残る高い声が屋上に響く。


「はーい部員達ー!注目!!

本日!!肝試しを開催する!!
各自!望遠鏡を仕舞ったら集合ー!」


それを聞いた部員達は
大盛り上がりだった。私を除いて。

「うわ!聞いた?マコちゃん!!
肝試しだって、
めちゃ楽しそーだね!」

クラスメイトの
京子ちゃんは私に笑いかける。
けれど私は苦笑いで返した。

肝試しなんて…怖いし…不謹慎だし…
正直あまり褒められたものでは無い。
できれば参加したく無いというのが
私の本音だった。

「ええ…?私はやめとこっかな…?
そういうのはちょっと…」

そう言った私に部員達がワラワラと
集まってきて部長が私の肩を叩いた。


「おいおい、いずみ
ビビるなって!
旧校舎での肝試しが出来るのは
今年限りなんだぜ?やろう!?」


いのり先輩は
私の肩を持って陽気に笑う。

飯島 祈いいじま いのり先輩は
3年D組所属で、うちの部長。

肩まで伸びた真っ白い若白髪を
低い位置で束ねている眼鏡の男子だ。

人当たりが良くて、世話好きで、
良い人だけど…
正直に言うと、ちょっと変な先輩だ。

他のみんなも私を取り囲み
口々に「大丈夫だよ!」「やろうよ!」
等と説得してくる。

副部長も、京子ちゃんも
隣のクラスの安田も奥田も、

もうみーんな。

特に祈先輩は押しが強い。

「い、いやですよ…
祈先輩はオカルト好きだから
良いでしょうけど…不謹慎ですよ…」

そこまで言うと祈先輩に
また背中をパンと叩かれた。

「オレはただのオカルト好きじゃないぞ!
由緒ある霊能一族!
飯島家の中のオカルト好きだ!!

だから、大船に乗ったつもりでいろって!大・丈・夫!」

祈先輩は六角形を半分に切ったような
変な形のメガネをクイっと上げると
爽やかに笑った。


『飯島家』はこの辺のお年寄りには
有名な霊媒師の一族だ。
彼は遠縁ながらその家の出なんだとか…

本当かどうかは分からないけど、
先輩はなんだか誇らしげだ。

その誇らしげな祈先輩の後ろで
副部長がボソッと言う。

「でも、祈には霊感とか何もないんだよね」


「おいおい!余計なこと言うなよ!
気にしてんだから!!

ま!とにかく泉もやろう!な!
お願い!!」


祈先輩は子犬の様に目を輝かせて
私の手を握る。


「…えぇ~…うーん…」


口籠もっていると
他のみんなからも、もう一押し。


「そうだよ、マコちゃん!
一緒にやろう!きっと楽しいよ!」


「そうそう!若者は楽しまないと!」


「こんな機会滅多にないですよ!」


「やろうぜ!まさかビビってんのか?」


『ねぇ、やろうよ。』


他の部員にも
次々に背中を押されて私はため息をついた。


「はぁ…もう…
わかったよ!しょうがない…
付き合うよ…」


私が参加すると聞いて
みんなは大喜び。
試合に勝った後のバスケ部員みたいに
ハイタッチしたりしていた。


こうして、私は渋々
天文学部の肝試しに
参加することになったのだ。

部員全員が望遠鏡を片付け終えると
早速会議が始まる。


「で!肝試しって何やんの?」


副部長がニコニコしながら首を傾げる。
すると祈先輩が間髪入れず話し始めた。

「何ってもちろん!
うちの旧校舎の噂を試すに
決まってんだろ?!!」


「あ!アタシ知ってるー!
貞夫の噂ですよね!

旧校舎の鏡の!」


元気よく京子ちゃんが手を上げて答えた。
そんな楽しい話題でもないだろうに…

私はそんなことを考えながら
またまた溜息をついた。

そんなことはお構いなしで
祈先輩は意気揚々と話をつづけた。

「知らない奴もいるだろうから、
まずは、語りからだな!

千代香ちゃん蝋燭持ってきて!!」


「はいはい」


千代香副部長が大きな備品用のリュックを
漁ると既に用意されていたのか
中から赤い蝋燭が出てくる。

その蝋燭に火がつけられると
私たちは火が消えないように
蝋燭を囲んで円形に座った。

屋上の床のコンクリートは
硬く、ヒヤリとしていて
スカート越しでもそれがよくわかる。

みんなのソワソワした6つの顔が
蝋燭に照らされて
夜の闇にボウと浮かび上がるのが見えた。
 

あぁ…
いかにも怪談話をしますって感じだ。
…嫌だなぁ…


「じゃあ、始めようか

我が八咫神やたがみ学園、
七不思議の一つ!

"大鏡のメンシキくんの噂"を!!」


祈先輩は嬉しそうに
ニヤニヤしながら眼鏡を光らせた。


あぁ、ここで帰っておけばよかった…


いや…もうこの時点で
手遅れだったのかもしれない。


免色メンシキくんは
既に私を見つけてしまっていたんだから。

















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