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番外編・後日談 A SEQUEL
◆ 『トビラ』リリースβ版『黄金色のトビラを閉めろろ』上
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『黄金色のトビラを閉めろ!』上
※正式リリースされた想定の『後日談』
某のゲストキャラとのPvP(プレイヤーキル)戦
色々あったが何だ、なんとかコードネーム『MFC』たる俺達がデバッカーとして開発に関わる事になったこのゲームハード、なんとかβ版のリリースに扱ぎ付けたのな。
レッドフラグなんてバグが出たり何だりで苦労した事を思えばやっぱ、ちょっと感慨深くなるってもんだよ。まぁでもこれくらいの苦労はどんなゲーム開発にだってある話だろうな、グチっぽくなるからこれ以上は言わない。
広報係でもある俺達の活動もありまして、事前人気や評価もそれなりのものを頂いております。が、マイナスな批評も無い訳じゃぁない。
ゲームは発売してからも山がある、これからがある意味開発者としての山場なのかもな。
そのために俺達は採用されて働いているんだし……。
そう、俺達は『トビラ』の中で、システム管理者の一人として裏方仕事をやらにゃぁならない。
もうテストプレイ時のような、好き勝手やってるヒマは無いんだよな。
所が、
β版のサービス開始カウントダウンの中、そんな俺の思いとはよそに。
開発チームの高松さんが、ゲームオタクである俺達に特別ボーナスをくれるって話になっていた。
いや、夏と冬のボーナスはフツーに貰いますが、その他にだな。
特別イベントとして、あるサービス内容に特別ゲスト参加するように取り計らってくれたって訳。
つまりだ、俺達はβ版サービス開始時にスタッフじゃなくて、特別にプレイヤーに戻っても良いって意味だ。
そこで、それぞれのセクションに散会していた『トビラ』仲間達に再会して、早速だがβ版でドコにログインするかの相談をする事になった。
待ち合わせは当然とゲーセン。
待ち合わせにはここが一番もってこいだ。何しろ、待ち合わせ時間を守らない奴らが大半だからな……俺含む。というか、仕事の関係もあってうまく分単位で合わせるのが難しいっていう事情も無い訳じゃない。その点、ゲーセンならヒマをもてあます事は無い。
俺達は、重度のゲーマーだ。
「っても、あたしはアーケードはあんまりやらないのよ?」
とか言ってアインさん、可愛い顔して何ですかそのアフォなテトリス某機のスコアは。ハイスコアの桁が違ぇ。
「んー、割とパズルゲームは得意なの」
……それは得意というレベルじゃないと思われ。
「おいヤト!お前、ちょっとこっち来い!」
乱暴な声に振り返ると、テリーが不機嫌な形相で手招きしている。
目の前にあるのは……絶賛起動中の某3D対戦ゲームバージョン11.7。
「あの女、どうにかしろ!」
あー……アベルと対戦してたのか。
ヤバいぞ、奴もある意味ヤバいからな。女伊達らに甘く見るとエラい目にあう。もう読み合いなんてレベルじゃないからな、……反射神経で抜けやがる。
「手加減してよ?このシリーズはゴハチからやってないんだから」
って、それは相当にブランクがあるって話じゃねぇか。そんな奴に勝てないなんて、
「手加減したのか現役?」
「うっせぇ、こいつ色々メチャクチャだ!見学させろ、癖が分からん」
ガラ悪い兄さんが絡みやがります。何より人相が悪い。リアル格闘技もやってるから体格も良いもんで、一見すると関わり合いを避けたくなる様な風貌なんだよなコイツ。
椅子を跨いで座り込み、コインを投入する俺。
「阿部瑠と勝負しようだなんて考えるなよ」
「何だとコラ?」
勝負師にはケンカを売る一言の様だな。しかし実際コンパネの鬼であるアベルには、ある意味ハメとチキンも正当法だぜ、まともに戦っても無駄。何今の?って感じで技から抜けられるは、そのタイミングで?って所で技出して当てて来るは、挙句に変な新規コンボ生み出してくるわでハチャメチャすぎて『読み合い』に慣れていると逆に死ねるんだよ。
……そんなこんなで、ゲーセン待ち合わせは俺達には都合はいいのだが、いかんせん1時間押しは当たり前になる訳だ。
俺とアベルの白熱した対戦の向こうでは、狙撃シューティングに興じるマツナギを見学していたレッドがヒマそうにしている。……奴のジャンルは始めると1時間では終わらないゲームが多いからな。おとなしく待ちでいるようだ。
「あ、携帯が鳴ってる」
マツナギがイベントシーンのわずかな隙にポケットから携帯電話を取り出し、レッドに投げる。
「って、どうするんですか?」
「メージンからだから取って」
「やぁ、俺で最後?」
ボムを炸裂させてナッツが振り返る。そのまま放置、自機が爆破。ナッツは今は、主にシューティング系のスコアラーだ。
「いいの?まだ残機あるわよね?」
「スコアがいまいちだからいいや」
訳の分からない理由だと思う無かれ。スコアラーには重要な所なのだよ。一機失うかどうかでステージ構成やクリア後の残機ボーナスなんかが響いて来る。捨てゲーになっていても進める場合は、ナッツの場合稼ぎ効率などを色々試したりしているのだ。
立ち上がったナッツは、そろった面子を見回して目をしばたく。
「あれ、メージンは?」
「現役学生の大変な所でね、今回は試験があるからどうしても参加する算段が付けられそうに無いんだって」
「そういうお前はどうなんだよ」
マツナギは苦笑して、テリーの突っ込みにそっぽを向く。
「あたしは……勉強してもしなくても結果一緒みたいなもんだからいいんだ」
「ナギ、お前留年するつもりか?」
「しないよ、意地でも4年で卒業する」
マツナギとメージンは学生だからな、俺達と違って会社員ではなくアルバイター契約だ。更に言えばメージンはまだ高校生。大学進学を控えた大変な時期らしくて、残念だがこればっかりは無理に参加しろとは言えない。
……何しろ今回は、β版を『遊ぶ』ための相談だ。
遊ぶと言っても、その後継続的にログイン出来るわけではない。必然的にシナリオに関わり一つの結果、すなわちクリアを目指した方がいいんじゃないか、という話になった。
使い慣れたキャラクターで『トビラ』へログイン。
テストや、各セクション用の別キャラを持ってる奴らもいるが、やっぱりここは初代だろ。
「久しぶりね、あんたのその間抜け顔みるのも」
早速攻撃的なご挨拶だなアベル。俺だってそんな不良少女のごとき赤髪のテメェとは久方ぶりだよ。
「何言ってる、こいつの面はリアルでも間抜けだ」
「うっせぇな、間抜け間抜けって、俺の顔のどこが間抜けだよ」
「これが基本的な『間抜け顔』って事かもしれません」
悪ふざけか?悪ふざけだよな?リーダー苛めはお前らの悪ふざけだと思いたい。
「すごいわねヤト、間抜け基準顔として認定されたりして」
「いいねぇ、僕のセクションで今、グリーン権限プランのデフォルト弄ってるんだけど、広報部キャラクターパーツ公開ってのは面白そうな企画だよ」
「ふーん、間抜け顔っていうデフォルト設定がヤトの顔だ、とか?」
「いーかげんにしろよお前ら、」
さてさて、久しぶりのデバッカーパーティにテンションが上がってきた所ですが……ちゃきちゃきイベントをおっぱじめよう。
ぶっちゃけ、こうやってこっちの世界でぐだぐだするのも面白いんだがな。
この面子で顔を合わせる機会は今やあんまり無い事だし、充実した体験をしたい所だ。
広報部所属として、そこの所後に素材使用するつもりだし。
へっへ、抜かりはありませんぜ。
「では、今回の依頼内容を確認します」
鬱蒼とした森、どんよりと曇った空。
獣道を歩き出しながらレッドが地図を広げる。
「この森の奥に住む邪術師が禁忌魔法によって違法に『扉』を開けました、この扉より来た者達の勢力が急激に拡大しています、世界保全のために『扉』を閉めなければいけません」
β版サービス開始とともに始まった、グリーンフラグイベントの一つだ。
このシナリオは本来グリーン権限プランで入った人達が取り掛かるべきイベントなのだが、ブルー権限も干渉して良い事になっている。そしてもう一つ込み合った事情で言うと、イエロー権限イベントが絡む上級イベントなのだ。
「よっしゃ、やってやるぜ」
「あたしたちで扉、閉めちゃっていいのかい?」
「まぁそれがシナリオ的なクリア条件ですからね。ぶっちゃけ違法扉を開く魔法使いってのはこの世界普遍ですから。あっちこっちにいるものです」
と、若干遠い目をして見せるレッド。
そうだな、そこらへんに一人居る通り、普遍なんだろーな。
巨大な建物は城、だな。
攻守しやすいような強固な作りの建物だ。周りには堀があり、城の立つ敷地は完全に孤立している。イベント展開にはもってこいの場所だろう。
「あー、いるいる、沢山いる」
遠目の魔法でナッツが楽しそうに言っている。
まぁ沢山居る事は、俺のフツーの視力でも分かるぜ。
「どうします、いきなり斬り込むのもどうかと思いますが……」
「でもアレだろ、奴らには奴らのシナリオがある訳だろ?ブルーフラグである俺達の事、どんな風に認識してやがるんだ?」
「そればっかりは……彼らと話してみない事には分かりませんよ」
実は、ある程度の知識制限が掛かるんだよなぁ。本来そのあたりの設定、開発者である俺達はすでに知っている筈なんだがどうしても『思い出せない』のだ。
今回ログインしている世界は、そういう特殊仕様になっている平行異世界になっていて、主にブルーフラグでこの世界を楽しんでいる人を基準にしたグランド・タイムには一切影響を与えない仕様となっている。 勿論、リコレクトなどにも色々制限が掛かっていて、アクセス出来るデータベースが限られている。そういう場合は『システム的に分からない』のではない、知る努力をしなければ分からない様になっている。
故に、分からん事はこのシナリオの世界の上で独自に調べていくしかない。
相変わらず……アドリブ必須な世界だぜ。
具体的に云うと、ブルーフラグの場合はイエロープランという特殊なログイン形態に乗っかる形でイベントを体験出来ているイベントだ。
本来はグリーンプランがサブクエストとして『お手軽』に『冒険』を楽しむ為に意図的に作られた『シナリオ』であり『世界』だからこそ、権限が高い分自由度が高いブルーフラグはは『キャップ』……上限が課せられるような形で制限を受けてしまう。
ふいと、今更ながら思う。
サービス開始にともない、ブルー権限で新規参入した連中はこの世界の事、どう思うんだろうな。
ログアウト後の評価が楽しみだが、怖いというのもぶっちゃけある。
ブルーとグリーンの二つのプランでログインすると、この世界を『仮想』または『現実』としての仮認識が可能なんだ。
実際問題どっちがリアルでどっちがバーチャルか、という結論は無い。そんなもん、結論付ける問題じゃぁないと俺は思うからな、個人の自由って奴だよ。
しかしてイエロープラン、黄色というよりは黄金色の光沢を持った旗を立ててのイエロー権限ログインはちょっと事情が違う。
奴らは自意識でアドリブをかます事は出来ない。仮想か現実かという区別もしない。そういう仕様の、特有な干渉の仕方をする。よって俺達がこの八精霊大陸一般人に取るべき態度で、あの沢山敷地内をウロウロしている『ゴールドフラグ』の連中に接しなければいけない。
というか、そうしないと話が通じないのだ。
端的に言えばこうだ。
黄金旗が頭上にある連中には、自分らがゲームしているという感覚が……無い。
彼らが部外者である俺達を敵視するかどうかは……イエロー権限で作られてログインしている奴らの仕様と、シナリオによる。
それは事前に知れる場合も在れば、全く分からずゼロから手探りの場合もある。
俺らはブルーフラグだから……特に補足情報も無くこの世界にやってきている。
「問題の違法トビラの位置は?」
「魔法で探るのも危険だな、相手も魔法使いだからそのあたりの感知は高そうだし……」
「やはり、乗り込んでいって聞くしかないかしらねぇ」
アインはテリーの肩の上で首を回す。
「面倒よ、戦う羽目になったら戦うしかないわ」
「あー……いくら黄金旗とは言えいきなり殺し合いってのもなぁ……」
俺はかつて、赤旗乱立敵だらけという事態に慄いた事を『リコレクト』して頭を掻く。
「イエロー権限によるプランは元々、そういう血生臭いシナリオ向けに開発されたプランですよ」
まぁそれ言ったらどーしようもないんだがな。
要するに……元々八精霊大陸は自由度の高いゲームではあるけれど、よりプレイヤー同士の戦い、PKあるいはPvPなどと呼ばれる行為に特化させたシナリオが展開できるように作られたプランなのだ。
あ?何それ?
話が長くなるから分からん奴は詳しい事は各自ググれ。
死んだらキャラクター完全ロストだからPKはリスク高いだろ?でもそういうゲームしたい連中も多いから、キャラクターロストの危険性を下げた娯楽として、イエロー権限シナリオというのが開発された背景がある。
降りていた桟橋を渡る。
不思議と、その近辺には人影が無い。問題の城を見学した所からこの堀に掛かる桟橋が、ぐるっと回って反対側だったりしたので、ゴールドフラグの連中に気が付かれない様に森の中を迂回した。
それで若干の時間をロスしたが、当然これは『スキップ』されている。
「……静かですね」
城から死角になる位置に着き、中を探る。一応俺ら、最低限の警戒魔法は仕込んである。
インスニは基本な、とはいえリアル異世界設定だからもっと細かい設定が必要だ。
姿を見えにくくしたり、音を消したりする魔法を行使するだけで、魔法を使ってるという目には見えないが分かる人には分かる歪みがあるんだと。魔法使い系は大抵がこの歪みを察知してしまうらしいので、あまり強力な魔法で隠れてるのも逆に目立ってしまうのだそうだ。
魔法感知があるようなら、姿隠しや音消し魔法は即座に切れるようにエンチャット対応だ。
俺ら結局、デバッカーしてた時のキャラがそのまま残っているので割りと法外に強い設定のままだったりするのだが、今回はそれで遊んで良いというお達しが来ている。
割と俺達は、今回のβ版の特別ゲストとして最大の『敵』設定にされている可能性も、無きにしも非ずだな。
「血の匂い」
ふっと風に乗ってきた空気を吸い込んで、マツナギが口を押さえた。ナッツとアイン、アベルがそろそろと桟橋の門から中の敷地をのぞく。
「やだ、早速死人が出てるし」
その言葉に俺も中を覗き込むが、その途端眉間に走る電撃の様な刺激。これは、殺気!
感覚系は無駄に鋭い。……鍛えられましたからねぇ。
皆一斉にソレを感知したようで首を引っ込めたら、途端氷の矢が飛んで来て地面や栗木の門に突き刺さっているではないか。
「入り口は一つ、完全に見張られていますか……良い統率体がいるようですね」
あの氷矢トラップで死人が出たのか……一瞬しか見れなかったとはいえ、刃物で切られた様な傷が無い気がして死因が分からなかったが、恐らくこれだな。
堅い栗木材に鋭く突き立っていた矢が目の前で空中に四散した……魔法攻撃、だろうな。
「関心してる場合か、早速死者って、どういうこった?」
「仲間割れ?」
レッドは顎に手をやり首をかしげた。
「……事前に情報を得る、という方法が使えないので僕、リクレクト出来る事が無いんですよ。一人誰かを捕まえて、彼らの事情を聞きだしたい所ですねぇ」
入り口は一つ、完全に俺達の来訪はバレている。
今更こそこそしたってしゃーないからな。 俺は剣の柄に手を掛けて構えた。
「行くぞ?」
一同無言で頷いた。よし、久しぶりにパーティーの先頭で盾役をやりますか。
踊り出す、飛んでくる氷の矢を叩き落し前に駆け出す。続いてアベルとマツナギが続き、その影に隠れてレッドとナッツが続いた。テリーはいつもの通り殿だ。
「魔法矢は……一人からの攻撃ですか」
「あそこだ!」
ナッツが城の上階から矢を飛ばす人影を見つけ、トレース魔法を打ち込もうとしたが……何かの障壁に弾かれた様で小さく舌打ちする。
「魔法使いの防御機能がちゃんと仕事してるね、」
とりあえず魔法矢は直線軌道で飛んでくる、城門にへばりつけば死角になるから必然と、攻撃が止んだ。
しかし大きな鉄の扉は内側からの仕組みで開く様で、押してもダメ、引くにも取っ手が無い。
「別の入り口を……」
探そうと言おうとしたが、その途中少し遠くで歓声らしき声が聞こえた気がして顔を上げる。
足音、それも大勢。
城の外壁に沿って回りこんで迫り来る、沢山の黄金旗キャラクター達が……俺達めがけて走ってくる、その音だった。
奴らはすでに『獲物』を抜き放っている。
これはどういうこった?
「ちょちょ、ちょっと?」
と言いつつ俺も剣を抜いた。迷っていたらヤられる、それは悟った。
奴らは割りと殺気立っているが……あの城の中から感じた殺気に比べたら全然幼稚だ。なんだろう、レベルの違いって奴だろうか?上から覗いていた奴の方が強敵と感じたのか。
サービス開始しょっぱじめである今、激しいレベルの差がプレイヤーに生じているのはありえないはずだが……?……あ、俺達は除く。
「待て、俺達は戦いに来たんじゃない!話し合おう……」
剣を抜いた手前、説得力が無いが一応これが社交辞令だ。
「侵入者は排除するッ」
「どあぁあッ!」
案の定、押し寄せてきた連中は問答無用で斬りかかって参りましたよ!
あっという間に30人程に取り囲まれた。
が、ダメだこいつら、素人だ!
7人相手に30人が一斉に襲い掛かったらどうなるのか、分かって無い!
ましてや、そんなに広い所じゃないのだよここは!?
城門前はあっという間に阿鼻叫喚図と化した。
俺達はいいじゃん?割とこっちの世界では付き合い長いし、少数で大勢を相手にした経験もあるし、大勢で一人を相手に立ち回った事だってある。
「統率がいまいちですね、違う種類の群れが交じり合っている」
レッドの解析を聞くまでも無い、だって奴ら、誰が敵で誰が味方なのかてんで判別ついて無い!
おかげで俺達は楽して30人の群集を片付ける事が出来てしまった。狂乱の舞台はものの数十分って所だな。
「ふぅ……」
悪いが遠慮なく斬らせてもらったぜ、魔法使いなんかも混ざっていたがそれに対してレッドも容赦なく攻撃魔法で対処したようだな。瞬時に氷漬けにされたものがいくつか転がっている。
「怪我人は?」
「出るか、こんな素人集団相手に」
年齢制限的な問題で、今回の『平行異世界』では血の表現切り替えもあったはずだが……それシステムで認識しないようになってんのかな、どんな感じだったかよく覚えていない。
「まぁ、相手が悪かったのね。これで多少はこの世界のルールを理解して懲りるでしょ」
確かに相手は悪すぎるよな、俺達はヘタすりゃ最強最悪の『敵集団』なんだし。
違法『扉』を潜ってやって来た異端設定の彼らは、戦闘不能と同時に金色の粒子に分解して空気中に溶けて消えていった。
……綺麗な情景に感じるかもしれないがそうでもない、肉体が崩れていく様子は割とリアルで気持ち悪いと感じるな、不思議と嫌悪感が残る。
『リコレクト』する。
知識を引き出す思い出すコマンドだ。
黄金旗を頭上に持つ奴らは、統率キャラクターすなわち『ヘッド』が落ちるとゲストは全員ログアウトする。がしかし、ヘッドが健在であればヘッドはある程度のリスクを負って、ゲスト達を再度ログインさせる事が出来る。
これは、……最低限もたらされる、イエロー権限についてのシステム知識か。
って事はいきなりヘッド自ら先頭に出て来たりはしまい、こいつら全員ゲストキャラだな。
「ふむ、良いヒントを貰っちゃったね」
ナッツが辺りを見回し、消えずに残っている気絶者を指差した。
「あれ?あれはどうして残っているんだい?」
「あれは多分、ヘッドだからだよ、」
なる程、そういう事か。
いや、しかし早速ヘッドが『死んでいる』状況は良く分らないが……死人に口は無いのだからこれはどうしようもない。ご愁傷さまです。
恐らく、あの残っているヘッドの中の人はゲーム終了ログアウトになっている事だろう。
さっきも言った通り攻略的な問題から、俺達ブルー権限はこの世界に持ってこれる知識には制限を受けている。
だがこれで一つ解明した、黄金旗のヘッドも死ぬと強制ログアウトになってキャラクターを『この世界』においてはロストするんだ。
このルールはブルー、グリーン、等しいシステムだって事だな。
強制でも正常でも、一度ログアウトするとコンティニューするには次の日を待たないといけない。何しろプレイヤーは寝ている。
残念ながらログアウトで目を覚ます仕様には、成って無い。
ヘッドが落ちると当然、ゲストも全部落ちる。
ゲストは死んでもヘッドが健在なら条件付でコンティニューが可能だが……。
「再スタートはどっからだろうな?」
「それは、当然『扉』から、でしょうね」
レッドは俺の言葉ににやりと笑って答えた。
「どうやら、僕らは完全に敵として認識されている様です」
「……らしいな」
とすると、ここは腹をすえて攻略に励むべきか。俺は小さくため息を漏らて剣を収める。
「30人のゲストか……何人ヘッドがいるんだろうな」
「各イベントには参加上限値があります。イエロー権限の平均ゲスト所持率は5人、コミュニティを作るにはまだサービス開始から日が浅いので、予測ではせいぜい3人参加が限度かと」
「ってことは?」
俺はレッドとナッツを伺う。俺は軍師じゃねぇ、おバカな振る舞いでも許されている立場だ。一々考えなくても考える作業は別の奴らがやる。
「一つの集団(レギオン)が3人で構成される比率が高い場合、単純に計算すれば30人のゲストは大凡15人のヘッドで構成されている事が予測できるね」
30人全員掻き消えた。ゲストはほぼ参加してきていない。
「しかし30人のヘッドが一人ずつゲストを出して様子見をした、という可能性も無い訳ではありません。……問題なのはヘッド同士の意思疎通。30人ものゲストが突然襲いかかってきた事、そのタイミングからして、ヘッド自体を統率する個体の存在が疑われます」
「それで、どういう方向性で行くんだ」
テリーが拳を掌に打ち付けて聞く。レッドはにっこり、というよりはニヤリに近い笑みを浮かべて城を見上げた。
「ジェノサイドで行きましょう。相手もそういうのをお望みのようですので」
「ゲストを叩いていたって進展しないんじゃないの?」
と、アベル。ナッツはそうでも無いよと苦笑する。
「ヘッドはゲストの再召喚にある程度のリスクを負うからね、何度も無制限にゲストを呼べるわけじゃないんだ。力押しで行けば必ずヘッドまで当たる」
アベルは肩をすくめ、マツナギと目配せして言った。
「このゲームの売りである、戦略性はどこにいったのよ」
「戦略を敷くのは彼らです、僕らはそれを突破する方ですよ。僕ら、そういう『ゲスト』参加な訳でしょう?」
※正式リリースされた想定の『後日談』
某のゲストキャラとのPvP(プレイヤーキル)戦
色々あったが何だ、なんとかコードネーム『MFC』たる俺達がデバッカーとして開発に関わる事になったこのゲームハード、なんとかβ版のリリースに扱ぎ付けたのな。
レッドフラグなんてバグが出たり何だりで苦労した事を思えばやっぱ、ちょっと感慨深くなるってもんだよ。まぁでもこれくらいの苦労はどんなゲーム開発にだってある話だろうな、グチっぽくなるからこれ以上は言わない。
広報係でもある俺達の活動もありまして、事前人気や評価もそれなりのものを頂いております。が、マイナスな批評も無い訳じゃぁない。
ゲームは発売してからも山がある、これからがある意味開発者としての山場なのかもな。
そのために俺達は採用されて働いているんだし……。
そう、俺達は『トビラ』の中で、システム管理者の一人として裏方仕事をやらにゃぁならない。
もうテストプレイ時のような、好き勝手やってるヒマは無いんだよな。
所が、
β版のサービス開始カウントダウンの中、そんな俺の思いとはよそに。
開発チームの高松さんが、ゲームオタクである俺達に特別ボーナスをくれるって話になっていた。
いや、夏と冬のボーナスはフツーに貰いますが、その他にだな。
特別イベントとして、あるサービス内容に特別ゲスト参加するように取り計らってくれたって訳。
つまりだ、俺達はβ版サービス開始時にスタッフじゃなくて、特別にプレイヤーに戻っても良いって意味だ。
そこで、それぞれのセクションに散会していた『トビラ』仲間達に再会して、早速だがβ版でドコにログインするかの相談をする事になった。
待ち合わせは当然とゲーセン。
待ち合わせにはここが一番もってこいだ。何しろ、待ち合わせ時間を守らない奴らが大半だからな……俺含む。というか、仕事の関係もあってうまく分単位で合わせるのが難しいっていう事情も無い訳じゃない。その点、ゲーセンならヒマをもてあます事は無い。
俺達は、重度のゲーマーだ。
「っても、あたしはアーケードはあんまりやらないのよ?」
とか言ってアインさん、可愛い顔して何ですかそのアフォなテトリス某機のスコアは。ハイスコアの桁が違ぇ。
「んー、割とパズルゲームは得意なの」
……それは得意というレベルじゃないと思われ。
「おいヤト!お前、ちょっとこっち来い!」
乱暴な声に振り返ると、テリーが不機嫌な形相で手招きしている。
目の前にあるのは……絶賛起動中の某3D対戦ゲームバージョン11.7。
「あの女、どうにかしろ!」
あー……アベルと対戦してたのか。
ヤバいぞ、奴もある意味ヤバいからな。女伊達らに甘く見るとエラい目にあう。もう読み合いなんてレベルじゃないからな、……反射神経で抜けやがる。
「手加減してよ?このシリーズはゴハチからやってないんだから」
って、それは相当にブランクがあるって話じゃねぇか。そんな奴に勝てないなんて、
「手加減したのか現役?」
「うっせぇ、こいつ色々メチャクチャだ!見学させろ、癖が分からん」
ガラ悪い兄さんが絡みやがります。何より人相が悪い。リアル格闘技もやってるから体格も良いもんで、一見すると関わり合いを避けたくなる様な風貌なんだよなコイツ。
椅子を跨いで座り込み、コインを投入する俺。
「阿部瑠と勝負しようだなんて考えるなよ」
「何だとコラ?」
勝負師にはケンカを売る一言の様だな。しかし実際コンパネの鬼であるアベルには、ある意味ハメとチキンも正当法だぜ、まともに戦っても無駄。何今の?って感じで技から抜けられるは、そのタイミングで?って所で技出して当てて来るは、挙句に変な新規コンボ生み出してくるわでハチャメチャすぎて『読み合い』に慣れていると逆に死ねるんだよ。
……そんなこんなで、ゲーセン待ち合わせは俺達には都合はいいのだが、いかんせん1時間押しは当たり前になる訳だ。
俺とアベルの白熱した対戦の向こうでは、狙撃シューティングに興じるマツナギを見学していたレッドがヒマそうにしている。……奴のジャンルは始めると1時間では終わらないゲームが多いからな。おとなしく待ちでいるようだ。
「あ、携帯が鳴ってる」
マツナギがイベントシーンのわずかな隙にポケットから携帯電話を取り出し、レッドに投げる。
「って、どうするんですか?」
「メージンからだから取って」
「やぁ、俺で最後?」
ボムを炸裂させてナッツが振り返る。そのまま放置、自機が爆破。ナッツは今は、主にシューティング系のスコアラーだ。
「いいの?まだ残機あるわよね?」
「スコアがいまいちだからいいや」
訳の分からない理由だと思う無かれ。スコアラーには重要な所なのだよ。一機失うかどうかでステージ構成やクリア後の残機ボーナスなんかが響いて来る。捨てゲーになっていても進める場合は、ナッツの場合稼ぎ効率などを色々試したりしているのだ。
立ち上がったナッツは、そろった面子を見回して目をしばたく。
「あれ、メージンは?」
「現役学生の大変な所でね、今回は試験があるからどうしても参加する算段が付けられそうに無いんだって」
「そういうお前はどうなんだよ」
マツナギは苦笑して、テリーの突っ込みにそっぽを向く。
「あたしは……勉強してもしなくても結果一緒みたいなもんだからいいんだ」
「ナギ、お前留年するつもりか?」
「しないよ、意地でも4年で卒業する」
マツナギとメージンは学生だからな、俺達と違って会社員ではなくアルバイター契約だ。更に言えばメージンはまだ高校生。大学進学を控えた大変な時期らしくて、残念だがこればっかりは無理に参加しろとは言えない。
……何しろ今回は、β版を『遊ぶ』ための相談だ。
遊ぶと言っても、その後継続的にログイン出来るわけではない。必然的にシナリオに関わり一つの結果、すなわちクリアを目指した方がいいんじゃないか、という話になった。
使い慣れたキャラクターで『トビラ』へログイン。
テストや、各セクション用の別キャラを持ってる奴らもいるが、やっぱりここは初代だろ。
「久しぶりね、あんたのその間抜け顔みるのも」
早速攻撃的なご挨拶だなアベル。俺だってそんな不良少女のごとき赤髪のテメェとは久方ぶりだよ。
「何言ってる、こいつの面はリアルでも間抜けだ」
「うっせぇな、間抜け間抜けって、俺の顔のどこが間抜けだよ」
「これが基本的な『間抜け顔』って事かもしれません」
悪ふざけか?悪ふざけだよな?リーダー苛めはお前らの悪ふざけだと思いたい。
「すごいわねヤト、間抜け基準顔として認定されたりして」
「いいねぇ、僕のセクションで今、グリーン権限プランのデフォルト弄ってるんだけど、広報部キャラクターパーツ公開ってのは面白そうな企画だよ」
「ふーん、間抜け顔っていうデフォルト設定がヤトの顔だ、とか?」
「いーかげんにしろよお前ら、」
さてさて、久しぶりのデバッカーパーティにテンションが上がってきた所ですが……ちゃきちゃきイベントをおっぱじめよう。
ぶっちゃけ、こうやってこっちの世界でぐだぐだするのも面白いんだがな。
この面子で顔を合わせる機会は今やあんまり無い事だし、充実した体験をしたい所だ。
広報部所属として、そこの所後に素材使用するつもりだし。
へっへ、抜かりはありませんぜ。
「では、今回の依頼内容を確認します」
鬱蒼とした森、どんよりと曇った空。
獣道を歩き出しながらレッドが地図を広げる。
「この森の奥に住む邪術師が禁忌魔法によって違法に『扉』を開けました、この扉より来た者達の勢力が急激に拡大しています、世界保全のために『扉』を閉めなければいけません」
β版サービス開始とともに始まった、グリーンフラグイベントの一つだ。
このシナリオは本来グリーン権限プランで入った人達が取り掛かるべきイベントなのだが、ブルー権限も干渉して良い事になっている。そしてもう一つ込み合った事情で言うと、イエロー権限イベントが絡む上級イベントなのだ。
「よっしゃ、やってやるぜ」
「あたしたちで扉、閉めちゃっていいのかい?」
「まぁそれがシナリオ的なクリア条件ですからね。ぶっちゃけ違法扉を開く魔法使いってのはこの世界普遍ですから。あっちこっちにいるものです」
と、若干遠い目をして見せるレッド。
そうだな、そこらへんに一人居る通り、普遍なんだろーな。
巨大な建物は城、だな。
攻守しやすいような強固な作りの建物だ。周りには堀があり、城の立つ敷地は完全に孤立している。イベント展開にはもってこいの場所だろう。
「あー、いるいる、沢山いる」
遠目の魔法でナッツが楽しそうに言っている。
まぁ沢山居る事は、俺のフツーの視力でも分かるぜ。
「どうします、いきなり斬り込むのもどうかと思いますが……」
「でもアレだろ、奴らには奴らのシナリオがある訳だろ?ブルーフラグである俺達の事、どんな風に認識してやがるんだ?」
「そればっかりは……彼らと話してみない事には分かりませんよ」
実は、ある程度の知識制限が掛かるんだよなぁ。本来そのあたりの設定、開発者である俺達はすでに知っている筈なんだがどうしても『思い出せない』のだ。
今回ログインしている世界は、そういう特殊仕様になっている平行異世界になっていて、主にブルーフラグでこの世界を楽しんでいる人を基準にしたグランド・タイムには一切影響を与えない仕様となっている。 勿論、リコレクトなどにも色々制限が掛かっていて、アクセス出来るデータベースが限られている。そういう場合は『システム的に分からない』のではない、知る努力をしなければ分からない様になっている。
故に、分からん事はこのシナリオの世界の上で独自に調べていくしかない。
相変わらず……アドリブ必須な世界だぜ。
具体的に云うと、ブルーフラグの場合はイエロープランという特殊なログイン形態に乗っかる形でイベントを体験出来ているイベントだ。
本来はグリーンプランがサブクエストとして『お手軽』に『冒険』を楽しむ為に意図的に作られた『シナリオ』であり『世界』だからこそ、権限が高い分自由度が高いブルーフラグはは『キャップ』……上限が課せられるような形で制限を受けてしまう。
ふいと、今更ながら思う。
サービス開始にともない、ブルー権限で新規参入した連中はこの世界の事、どう思うんだろうな。
ログアウト後の評価が楽しみだが、怖いというのもぶっちゃけある。
ブルーとグリーンの二つのプランでログインすると、この世界を『仮想』または『現実』としての仮認識が可能なんだ。
実際問題どっちがリアルでどっちがバーチャルか、という結論は無い。そんなもん、結論付ける問題じゃぁないと俺は思うからな、個人の自由って奴だよ。
しかしてイエロープラン、黄色というよりは黄金色の光沢を持った旗を立ててのイエロー権限ログインはちょっと事情が違う。
奴らは自意識でアドリブをかます事は出来ない。仮想か現実かという区別もしない。そういう仕様の、特有な干渉の仕方をする。よって俺達がこの八精霊大陸一般人に取るべき態度で、あの沢山敷地内をウロウロしている『ゴールドフラグ』の連中に接しなければいけない。
というか、そうしないと話が通じないのだ。
端的に言えばこうだ。
黄金旗が頭上にある連中には、自分らがゲームしているという感覚が……無い。
彼らが部外者である俺達を敵視するかどうかは……イエロー権限で作られてログインしている奴らの仕様と、シナリオによる。
それは事前に知れる場合も在れば、全く分からずゼロから手探りの場合もある。
俺らはブルーフラグだから……特に補足情報も無くこの世界にやってきている。
「問題の違法トビラの位置は?」
「魔法で探るのも危険だな、相手も魔法使いだからそのあたりの感知は高そうだし……」
「やはり、乗り込んでいって聞くしかないかしらねぇ」
アインはテリーの肩の上で首を回す。
「面倒よ、戦う羽目になったら戦うしかないわ」
「あー……いくら黄金旗とは言えいきなり殺し合いってのもなぁ……」
俺はかつて、赤旗乱立敵だらけという事態に慄いた事を『リコレクト』して頭を掻く。
「イエロー権限によるプランは元々、そういう血生臭いシナリオ向けに開発されたプランですよ」
まぁそれ言ったらどーしようもないんだがな。
要するに……元々八精霊大陸は自由度の高いゲームではあるけれど、よりプレイヤー同士の戦い、PKあるいはPvPなどと呼ばれる行為に特化させたシナリオが展開できるように作られたプランなのだ。
あ?何それ?
話が長くなるから分からん奴は詳しい事は各自ググれ。
死んだらキャラクター完全ロストだからPKはリスク高いだろ?でもそういうゲームしたい連中も多いから、キャラクターロストの危険性を下げた娯楽として、イエロー権限シナリオというのが開発された背景がある。
降りていた桟橋を渡る。
不思議と、その近辺には人影が無い。問題の城を見学した所からこの堀に掛かる桟橋が、ぐるっと回って反対側だったりしたので、ゴールドフラグの連中に気が付かれない様に森の中を迂回した。
それで若干の時間をロスしたが、当然これは『スキップ』されている。
「……静かですね」
城から死角になる位置に着き、中を探る。一応俺ら、最低限の警戒魔法は仕込んである。
インスニは基本な、とはいえリアル異世界設定だからもっと細かい設定が必要だ。
姿を見えにくくしたり、音を消したりする魔法を行使するだけで、魔法を使ってるという目には見えないが分かる人には分かる歪みがあるんだと。魔法使い系は大抵がこの歪みを察知してしまうらしいので、あまり強力な魔法で隠れてるのも逆に目立ってしまうのだそうだ。
魔法感知があるようなら、姿隠しや音消し魔法は即座に切れるようにエンチャット対応だ。
俺ら結局、デバッカーしてた時のキャラがそのまま残っているので割りと法外に強い設定のままだったりするのだが、今回はそれで遊んで良いというお達しが来ている。
割と俺達は、今回のβ版の特別ゲストとして最大の『敵』設定にされている可能性も、無きにしも非ずだな。
「血の匂い」
ふっと風に乗ってきた空気を吸い込んで、マツナギが口を押さえた。ナッツとアイン、アベルがそろそろと桟橋の門から中の敷地をのぞく。
「やだ、早速死人が出てるし」
その言葉に俺も中を覗き込むが、その途端眉間に走る電撃の様な刺激。これは、殺気!
感覚系は無駄に鋭い。……鍛えられましたからねぇ。
皆一斉にソレを感知したようで首を引っ込めたら、途端氷の矢が飛んで来て地面や栗木の門に突き刺さっているではないか。
「入り口は一つ、完全に見張られていますか……良い統率体がいるようですね」
あの氷矢トラップで死人が出たのか……一瞬しか見れなかったとはいえ、刃物で切られた様な傷が無い気がして死因が分からなかったが、恐らくこれだな。
堅い栗木材に鋭く突き立っていた矢が目の前で空中に四散した……魔法攻撃、だろうな。
「関心してる場合か、早速死者って、どういうこった?」
「仲間割れ?」
レッドは顎に手をやり首をかしげた。
「……事前に情報を得る、という方法が使えないので僕、リクレクト出来る事が無いんですよ。一人誰かを捕まえて、彼らの事情を聞きだしたい所ですねぇ」
入り口は一つ、完全に俺達の来訪はバレている。
今更こそこそしたってしゃーないからな。 俺は剣の柄に手を掛けて構えた。
「行くぞ?」
一同無言で頷いた。よし、久しぶりにパーティーの先頭で盾役をやりますか。
踊り出す、飛んでくる氷の矢を叩き落し前に駆け出す。続いてアベルとマツナギが続き、その影に隠れてレッドとナッツが続いた。テリーはいつもの通り殿だ。
「魔法矢は……一人からの攻撃ですか」
「あそこだ!」
ナッツが城の上階から矢を飛ばす人影を見つけ、トレース魔法を打ち込もうとしたが……何かの障壁に弾かれた様で小さく舌打ちする。
「魔法使いの防御機能がちゃんと仕事してるね、」
とりあえず魔法矢は直線軌道で飛んでくる、城門にへばりつけば死角になるから必然と、攻撃が止んだ。
しかし大きな鉄の扉は内側からの仕組みで開く様で、押してもダメ、引くにも取っ手が無い。
「別の入り口を……」
探そうと言おうとしたが、その途中少し遠くで歓声らしき声が聞こえた気がして顔を上げる。
足音、それも大勢。
城の外壁に沿って回りこんで迫り来る、沢山の黄金旗キャラクター達が……俺達めがけて走ってくる、その音だった。
奴らはすでに『獲物』を抜き放っている。
これはどういうこった?
「ちょちょ、ちょっと?」
と言いつつ俺も剣を抜いた。迷っていたらヤられる、それは悟った。
奴らは割りと殺気立っているが……あの城の中から感じた殺気に比べたら全然幼稚だ。なんだろう、レベルの違いって奴だろうか?上から覗いていた奴の方が強敵と感じたのか。
サービス開始しょっぱじめである今、激しいレベルの差がプレイヤーに生じているのはありえないはずだが……?……あ、俺達は除く。
「待て、俺達は戦いに来たんじゃない!話し合おう……」
剣を抜いた手前、説得力が無いが一応これが社交辞令だ。
「侵入者は排除するッ」
「どあぁあッ!」
案の定、押し寄せてきた連中は問答無用で斬りかかって参りましたよ!
あっという間に30人程に取り囲まれた。
が、ダメだこいつら、素人だ!
7人相手に30人が一斉に襲い掛かったらどうなるのか、分かって無い!
ましてや、そんなに広い所じゃないのだよここは!?
城門前はあっという間に阿鼻叫喚図と化した。
俺達はいいじゃん?割とこっちの世界では付き合い長いし、少数で大勢を相手にした経験もあるし、大勢で一人を相手に立ち回った事だってある。
「統率がいまいちですね、違う種類の群れが交じり合っている」
レッドの解析を聞くまでも無い、だって奴ら、誰が敵で誰が味方なのかてんで判別ついて無い!
おかげで俺達は楽して30人の群集を片付ける事が出来てしまった。狂乱の舞台はものの数十分って所だな。
「ふぅ……」
悪いが遠慮なく斬らせてもらったぜ、魔法使いなんかも混ざっていたがそれに対してレッドも容赦なく攻撃魔法で対処したようだな。瞬時に氷漬けにされたものがいくつか転がっている。
「怪我人は?」
「出るか、こんな素人集団相手に」
年齢制限的な問題で、今回の『平行異世界』では血の表現切り替えもあったはずだが……それシステムで認識しないようになってんのかな、どんな感じだったかよく覚えていない。
「まぁ、相手が悪かったのね。これで多少はこの世界のルールを理解して懲りるでしょ」
確かに相手は悪すぎるよな、俺達はヘタすりゃ最強最悪の『敵集団』なんだし。
違法『扉』を潜ってやって来た異端設定の彼らは、戦闘不能と同時に金色の粒子に分解して空気中に溶けて消えていった。
……綺麗な情景に感じるかもしれないがそうでもない、肉体が崩れていく様子は割とリアルで気持ち悪いと感じるな、不思議と嫌悪感が残る。
『リコレクト』する。
知識を引き出す思い出すコマンドだ。
黄金旗を頭上に持つ奴らは、統率キャラクターすなわち『ヘッド』が落ちるとゲストは全員ログアウトする。がしかし、ヘッドが健在であればヘッドはある程度のリスクを負って、ゲスト達を再度ログインさせる事が出来る。
これは、……最低限もたらされる、イエロー権限についてのシステム知識か。
って事はいきなりヘッド自ら先頭に出て来たりはしまい、こいつら全員ゲストキャラだな。
「ふむ、良いヒントを貰っちゃったね」
ナッツが辺りを見回し、消えずに残っている気絶者を指差した。
「あれ?あれはどうして残っているんだい?」
「あれは多分、ヘッドだからだよ、」
なる程、そういう事か。
いや、しかし早速ヘッドが『死んでいる』状況は良く分らないが……死人に口は無いのだからこれはどうしようもない。ご愁傷さまです。
恐らく、あの残っているヘッドの中の人はゲーム終了ログアウトになっている事だろう。
さっきも言った通り攻略的な問題から、俺達ブルー権限はこの世界に持ってこれる知識には制限を受けている。
だがこれで一つ解明した、黄金旗のヘッドも死ぬと強制ログアウトになってキャラクターを『この世界』においてはロストするんだ。
このルールはブルー、グリーン、等しいシステムだって事だな。
強制でも正常でも、一度ログアウトするとコンティニューするには次の日を待たないといけない。何しろプレイヤーは寝ている。
残念ながらログアウトで目を覚ます仕様には、成って無い。
ヘッドが落ちると当然、ゲストも全部落ちる。
ゲストは死んでもヘッドが健在なら条件付でコンティニューが可能だが……。
「再スタートはどっからだろうな?」
「それは、当然『扉』から、でしょうね」
レッドは俺の言葉ににやりと笑って答えた。
「どうやら、僕らは完全に敵として認識されている様です」
「……らしいな」
とすると、ここは腹をすえて攻略に励むべきか。俺は小さくため息を漏らて剣を収める。
「30人のゲストか……何人ヘッドがいるんだろうな」
「各イベントには参加上限値があります。イエロー権限の平均ゲスト所持率は5人、コミュニティを作るにはまだサービス開始から日が浅いので、予測ではせいぜい3人参加が限度かと」
「ってことは?」
俺はレッドとナッツを伺う。俺は軍師じゃねぇ、おバカな振る舞いでも許されている立場だ。一々考えなくても考える作業は別の奴らがやる。
「一つの集団(レギオン)が3人で構成される比率が高い場合、単純に計算すれば30人のゲストは大凡15人のヘッドで構成されている事が予測できるね」
30人全員掻き消えた。ゲストはほぼ参加してきていない。
「しかし30人のヘッドが一人ずつゲストを出して様子見をした、という可能性も無い訳ではありません。……問題なのはヘッド同士の意思疎通。30人ものゲストが突然襲いかかってきた事、そのタイミングからして、ヘッド自体を統率する個体の存在が疑われます」
「それで、どういう方向性で行くんだ」
テリーが拳を掌に打ち付けて聞く。レッドはにっこり、というよりはニヤリに近い笑みを浮かべて城を見上げた。
「ジェノサイドで行きましょう。相手もそういうのをお望みのようですので」
「ゲストを叩いていたって進展しないんじゃないの?」
と、アベル。ナッツはそうでも無いよと苦笑する。
「ヘッドはゲストの再召喚にある程度のリスクを負うからね、何度も無制限にゲストを呼べるわけじゃないんだ。力押しで行けば必ずヘッドまで当たる」
アベルは肩をすくめ、マツナギと目配せして言った。
「このゲームの売りである、戦略性はどこにいったのよ」
「戦略を敷くのは彼らです、僕らはそれを突破する方ですよ。僕ら、そういう『ゲスト』参加な訳でしょう?」
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