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第九章 楓と直樹の穏やかな日々
41. マッサージ 中編 side. 直樹
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……切り替えは得意なはずだった。
幼少期から姉と妹の存在によって『自分は意思を持ってはいけない』『姉と妹の意向に従い献身すべし』と徹底的に刷り込まれた影響で、俺はかなり我慢強い方だと思う。
だから、性欲も決して弱い方ではないけれど、スイッチのオンオフの切り替えは得意だった。
交際相手の求めに応じて切り替えることが難なく出来たし、意に染まぬ関係を迫る為こちらのスイッチをオンにしようとする女子の策略に堕ちたことは一度も無い。むしろ対応が冷静すぎて、相手が戦意喪失するなんてこともしばしばあった。
……だというのに、今。
ーーー脇のリンパ節をマッサージするため、腕を上げた楓と目が合った瞬間、スイッチが自動でオンになった。
スラッと伸びた美しい肢体が、普段は着ないキャミソールとホットパンツに包まれ、ベッドに横になっている。
美しいかんばせが、あどけなくもどこか扇情的な表情を浮かべて、俺を見上げている。
このまま楓に深いキスをしながら脇への愛撫をし……。
って、いやいやいや、違う違う違う。
先週は色々あって出来なかったマッサージを、今日こそ楓にすると決めたのだ。
俺が俺のスイッチに負けて、今週も出来ないなんてことはあってはならない。
そう思って、無理矢理スイッチをオフにしてマッサージを再開したのに、スイッチは何度も何度も自動でオンになった。
俺の手によってオイルを塗り広げられていく楓の柔らかな肌。
お風呂上がりとマッサージで上気した楓の表情。
どこか熱を感じる楓の深い息。
果ては「気持ち良い」という言葉にまで反応してしまい、とんでもない状況に陥った。
まず、リンパマッサージというのが良くなかった。リンパ節は脇の下や鼠蹊部といった、割と際どい場所にあるし、リンパ管は全身にある。
それに、オイルマッサージというのも、非常に良くなかった。冷静に考えると、オイルマッサージの最中に性的な行為に繋がるコンテンツなんて山ほどあるじゃないか。
……先週は、『楓とプラトニックな関係を築く』と心に決めていたから、全く気付いていなかった。先週の俺はリンパマッサージだけでなくバストアップマッサージまで行うつもりで、本当にプラトニックな関係のままそんなことをするのは、苦行でしかなかったことを今更ながら気付く。
最後のおでこのマッサージは、楓の顔が見れなかった。だって今、楓の顔を見たら、確実に崩壊する。
楓相手だと、こんなにスイッチの切り替えが難しいものなのか。
……しかし、苦行もこれで終わりだ。
「はい! これで終わり」
「すっごく気持ち良かったです~! ありがとうございました!」
「……っ。……ううん。それなら良かった」
「直樹さん……、あの……」
楓が俺の名を呼び、蕩けたような表情を浮かべる。
もしかして楓も、俺と同じ気持ちなのだろうか?
「……っ。楓……」
俺が楓の頬に手を伸ばそうとした、その時。
「そうでした! 次は、私が直樹さんにマッサージしますねっ! では、さっそく仰向けになってくださいっ」
今度は楓が俺に行うという新たな苦行の時間が始まってしまった。
楓が、意気揚々と言った。
「直樹さん! パジャマだとオイルマッサージ出来ないので脱がせてもいいですか?」
俺は、心を無にして言った。
「いいよ」
「では、失礼しますね」
楓が俺の下腹部を跨いで、そのまま腰を下ろそうとした。
「楓、待って!!!」
慌てて体を起こして楓の肩に手を置き制止する。
そんなところに楓が腰を下ろしたら、……俺のスイッチが崩壊してしまう!
「……座ったまま! お願いしてもいいかな?」
「? はい、わかりました」
楓がニッコリ笑って、向かい合って座ったまま、俺のパジャマの上を脱がしてくれた。
「脚のマッサージの時、ズボンも邪魔ですね! 脱がしても……」
「脚はいい! 脚はしなくていいから!」
ズボンを脱がされてしまったら、俺の状況を楓に気付かれてしまう。そんなことになったら、楓は俺の意向に沿おうとしてしまうだろう。せっかくマッサージをしてくれるという楓の厚意を無碍にはできない。
仰向けも気付かれるリスクが高いので、うつ伏せで隠してしまうのが良い案のような気がした。
「……じゃあ俺、うつ伏せになるから、腰と肩だけお願いしてもいいかな?」
「はいっ! もちろんです」
楓が俺に跨ったようで、俺の腰の上に柔らかい感触の圧がかかる。
それが何か、もちろんわかるけれど、必死に考えないようにした。
「では、腰からマッサージしていきますね」
マッサージオイルを纏った楓の手が背中に置かれた。
心地良い圧が腰から肩に向かってかけられていく。
最初は楓の手のひらとオイルの感触を意識しすぎてしまい、ものすごくドキドキしたけど、うつ伏せだと顔を見られないし、俺の状況を気付かれる心配もないし、動きも制限できるし、気楽だった。
仰向けだったら、即、楓を引き寄せてしまっていただろう。
徐々に緊迫した状況は薄れていき、マッサージの心地良さにリラックスした気持ちになった。
「……楓は普段、自分や家族のマッサージしてるの?」
「祖父母の家に行った時は、おばあちゃんに肩揉みしてますよ」
「ふぅん」
「あと最近は、……」
楓は少し言い辛そうに小さな声で続けた。
「……育乳、マッサージを……」
「続けてるんだ?」
「はい。前ほど気にしてる訳じゃないんですけど、……せっかく覚えましたし、……やってます」
「俺も先週はするつもりで覚えたから、してあげようか?」
「……!」
楓はたっぷりと迷ったあと、答えた。
「……じゃあ、お願いします」
「うん。じゃあ、俺のマッサージはここまででいいよ。ありがとう」
そう言ってベッドの上で身を起こすと、少し気恥ずかしそうに頬を紅潮させる楓が視界に入った。
「……っ」
スイッチはもちろん、……自動でオンになった。
さっきまでうつ伏せの状態で楓が視界に入らず、マッサージされてリラックスしすぎてすっかり忘れていたけど、一瞬で緊迫した状況が舞い戻った。
俺はその時、やっと気付いた。
……苦行の時間を、自ら延長してしまったことに。
幼少期から姉と妹の存在によって『自分は意思を持ってはいけない』『姉と妹の意向に従い献身すべし』と徹底的に刷り込まれた影響で、俺はかなり我慢強い方だと思う。
だから、性欲も決して弱い方ではないけれど、スイッチのオンオフの切り替えは得意だった。
交際相手の求めに応じて切り替えることが難なく出来たし、意に染まぬ関係を迫る為こちらのスイッチをオンにしようとする女子の策略に堕ちたことは一度も無い。むしろ対応が冷静すぎて、相手が戦意喪失するなんてこともしばしばあった。
……だというのに、今。
ーーー脇のリンパ節をマッサージするため、腕を上げた楓と目が合った瞬間、スイッチが自動でオンになった。
スラッと伸びた美しい肢体が、普段は着ないキャミソールとホットパンツに包まれ、ベッドに横になっている。
美しいかんばせが、あどけなくもどこか扇情的な表情を浮かべて、俺を見上げている。
このまま楓に深いキスをしながら脇への愛撫をし……。
って、いやいやいや、違う違う違う。
先週は色々あって出来なかったマッサージを、今日こそ楓にすると決めたのだ。
俺が俺のスイッチに負けて、今週も出来ないなんてことはあってはならない。
そう思って、無理矢理スイッチをオフにしてマッサージを再開したのに、スイッチは何度も何度も自動でオンになった。
俺の手によってオイルを塗り広げられていく楓の柔らかな肌。
お風呂上がりとマッサージで上気した楓の表情。
どこか熱を感じる楓の深い息。
果ては「気持ち良い」という言葉にまで反応してしまい、とんでもない状況に陥った。
まず、リンパマッサージというのが良くなかった。リンパ節は脇の下や鼠蹊部といった、割と際どい場所にあるし、リンパ管は全身にある。
それに、オイルマッサージというのも、非常に良くなかった。冷静に考えると、オイルマッサージの最中に性的な行為に繋がるコンテンツなんて山ほどあるじゃないか。
……先週は、『楓とプラトニックな関係を築く』と心に決めていたから、全く気付いていなかった。先週の俺はリンパマッサージだけでなくバストアップマッサージまで行うつもりで、本当にプラトニックな関係のままそんなことをするのは、苦行でしかなかったことを今更ながら気付く。
最後のおでこのマッサージは、楓の顔が見れなかった。だって今、楓の顔を見たら、確実に崩壊する。
楓相手だと、こんなにスイッチの切り替えが難しいものなのか。
……しかし、苦行もこれで終わりだ。
「はい! これで終わり」
「すっごく気持ち良かったです~! ありがとうございました!」
「……っ。……ううん。それなら良かった」
「直樹さん……、あの……」
楓が俺の名を呼び、蕩けたような表情を浮かべる。
もしかして楓も、俺と同じ気持ちなのだろうか?
「……っ。楓……」
俺が楓の頬に手を伸ばそうとした、その時。
「そうでした! 次は、私が直樹さんにマッサージしますねっ! では、さっそく仰向けになってくださいっ」
今度は楓が俺に行うという新たな苦行の時間が始まってしまった。
楓が、意気揚々と言った。
「直樹さん! パジャマだとオイルマッサージ出来ないので脱がせてもいいですか?」
俺は、心を無にして言った。
「いいよ」
「では、失礼しますね」
楓が俺の下腹部を跨いで、そのまま腰を下ろそうとした。
「楓、待って!!!」
慌てて体を起こして楓の肩に手を置き制止する。
そんなところに楓が腰を下ろしたら、……俺のスイッチが崩壊してしまう!
「……座ったまま! お願いしてもいいかな?」
「? はい、わかりました」
楓がニッコリ笑って、向かい合って座ったまま、俺のパジャマの上を脱がしてくれた。
「脚のマッサージの時、ズボンも邪魔ですね! 脱がしても……」
「脚はいい! 脚はしなくていいから!」
ズボンを脱がされてしまったら、俺の状況を楓に気付かれてしまう。そんなことになったら、楓は俺の意向に沿おうとしてしまうだろう。せっかくマッサージをしてくれるという楓の厚意を無碍にはできない。
仰向けも気付かれるリスクが高いので、うつ伏せで隠してしまうのが良い案のような気がした。
「……じゃあ俺、うつ伏せになるから、腰と肩だけお願いしてもいいかな?」
「はいっ! もちろんです」
楓が俺に跨ったようで、俺の腰の上に柔らかい感触の圧がかかる。
それが何か、もちろんわかるけれど、必死に考えないようにした。
「では、腰からマッサージしていきますね」
マッサージオイルを纏った楓の手が背中に置かれた。
心地良い圧が腰から肩に向かってかけられていく。
最初は楓の手のひらとオイルの感触を意識しすぎてしまい、ものすごくドキドキしたけど、うつ伏せだと顔を見られないし、俺の状況を気付かれる心配もないし、動きも制限できるし、気楽だった。
仰向けだったら、即、楓を引き寄せてしまっていただろう。
徐々に緊迫した状況は薄れていき、マッサージの心地良さにリラックスした気持ちになった。
「……楓は普段、自分や家族のマッサージしてるの?」
「祖父母の家に行った時は、おばあちゃんに肩揉みしてますよ」
「ふぅん」
「あと最近は、……」
楓は少し言い辛そうに小さな声で続けた。
「……育乳、マッサージを……」
「続けてるんだ?」
「はい。前ほど気にしてる訳じゃないんですけど、……せっかく覚えましたし、……やってます」
「俺も先週はするつもりで覚えたから、してあげようか?」
「……!」
楓はたっぷりと迷ったあと、答えた。
「……じゃあ、お願いします」
「うん。じゃあ、俺のマッサージはここまででいいよ。ありがとう」
そう言ってベッドの上で身を起こすと、少し気恥ずかしそうに頬を紅潮させる楓が視界に入った。
「……っ」
スイッチはもちろん、……自動でオンになった。
さっきまでうつ伏せの状態で楓が視界に入らず、マッサージされてリラックスしすぎてすっかり忘れていたけど、一瞬で緊迫した状況が舞い戻った。
俺はその時、やっと気付いた。
……苦行の時間を、自ら延長してしまったことに。
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