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第八章 過保護な直樹と楓の攻防

35. もし同性なら side. 直樹

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「嫌じゃないのに、何でダメなんですか?」

 拗ねたような声で言う楓が、物凄く可愛い。
 それまで動揺していたことも忘れて、愛しい気持ちが込み上げる。
 少し口を尖らせる楓の腕を引いて、ベッドの俺の隣に座ってもらった。
 俺は、楓の髪を撫でながら、口を開いた。

「俺が楓のこと気持ち良くしてあげられないのに、俺だけ気持ち良くなる訳にはいかないよ」

「ええっ! でも……」

「楓はさ、たぶん俺のために無理して頑張ろうとしてくれてるんじゃない?」

「いいえ! 無理してなんか無いです」

 そう言って、楓は俺を真っ直ぐに見る。
 もちろん、俺のために楓がしたいと思ってくれたことはとても嬉しかった。

 でも、楓は人のために頑張ってしまう子だ。
 『体を見られるのと挿入が怖い』という気持ちを『自覚していなかった』と言っていた。
 たぶん俺のために、無意識のうちに恐怖感を押し殺そうとしてしまったんじゃないかと思う。

 楓には、絶対にそんな無理はさせたくない。
 だから、楓の代わりに俺がブレーキをかけなければと思った。

 楓が無理をしないように、俺はこの一週間考えていたことを伝えることにした。

「……俺さ、前に、『恋愛対象は異性で、恋愛感情が無いと特別な関係になれない』って、言ってたでしょ?」

「……はい」

「あの時は俺、楓のことが大好きでしょうがなくて、それで楓は異性だから、同性と付き合うことなんて考えられなかったんだけど。……でも、先週楓を送ったあと、あの話を思い出して、もし楓が同性だったら、俺はどうしていたかなぁって考えたんだ」

「……もし同性だったら、ですか」

「うん。でさ、考えてみて、もし楓が同性でも、俺は特別な関係になりたいと思っただろうなって気付いたんだ」

「え?! 本当ですか?」

「うん、ほんと! でね、その場合、俺は同性の楓と体の関係を持ちたいと思うかについても考えてみたんだけど、流石にそこまでは自分でも想像ができなくて……」

「……ふふっ」

「でも確実に言えるのは、楓が同性でプラトニックな関係だったとしても、楓と特別な関係になりたいって思っただろうなってことなんだ。……それで、その気持ちは、楓が異性の今も変わらない」

「……!」

 目を瞬いている楓に、俺は続けた。

「とはいえ実際、楓は異性だし、楓の綺麗な顔立ちも、くるくる変わる表情も、スラっとした長身の体型も俺はすごく好きで、欲情しちゃってはいるんだけど。……でも、楓の性別も、容姿も、体の関係を持つかどうかも、俺の楓への気持ちには、全く関係がないんだ」

「直樹さん……、す、すごく、……嬉しいですっ!」

 楓が瞳を潤ませ、感動したような顔で言った。
 俺の中に楓への愛しさが更に溢れ出て、楓の頬を撫でた。
 すると、楓が俺を真っ直ぐ見て言った。

「……私も! 直樹さんが同性でも、特別な関係になりたいと思ったっていう確信があります!」

「そっか。嬉しいよ」

 楓はむしろ、俺が同性だった方が良かったのかもしれないとは薄々感じていた。
 でも、楓から実際に聞いたその言葉は『同性でも異性でも』というニュアンスを感じて、嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまう。

 しかし、次に楓が口にした予想外すぎる一言を聞いて、俺は固まった。

「ちなみに私は、直樹さんが女性だったら、たぶん体の関係、持てたと思います!」

「え」

「同性同士で最初は抵抗感があるかもしれないんですけど、少しずつ繰り返すうちに、たぶん抵抗感って薄れるんじゃないかなって思うんです! だから直樹さんのこと思いっ切り気持ち良くしてあげて、……でも、私に挿れられるモノは無いから、実際そういうことになったら、そういうモノを購入して、直樹さんに私が挿れ……」

「……かなり具体的だね」

 すると、楓がハッと我に返ったように、気まずそうな表情になった。

「す、すみません! こんな話、引きますよね」

「ううん、大丈夫だよ」

「以前、性別関係なく特別な関係になれる人を探そうって思った時に、もし相手に求められた時、体の関係を持てるか結構真剣に考えたことがあって、それで……」

 ……なるほど。
 そこまで具体的に、女の子と関係を持てるか考えていたのか。
 それに、楓は想像の中でも、相手にしてあげることばかり考えていたんだな。
 美人で長身のスラっとした体型の楓は、見た目だけで女の子からも相当モテるだろうし、その上、恋愛対象が女性だと知られていたら、彼女がすぐに出来ていただろう。

 楓が特別な女の子と出会う前に、俺と楓が特別な関係になれて本当に良かったと心底安堵した。

 すると、楓が改まった様子で、俺の方を見た。

「それでですね、直樹さん!」

「? うん」

「私、今、私の中にある恐怖感も、抵抗感と同じで、繰り返すうちに薄れていくものじゃないかって気付いたんです」

「そうなの?」

「はい。だって私、今日は、直樹さんに直接触れられるの、たぶん大丈夫だと思うんです」

「え」

「考えただけで心臓がおかしくなるぐらいドキドキするんですけど、でも、恐怖感はなくて」

 楓がそう言った瞬間、俺のスイッチがまたもや盛大に入った。
 しかし楓は、そんな俺の変化に気付かず、スイッチを全開にする一言を言った。

「だからこんな風に、少しずつ進んで、繰り返していけば、次第に恐怖感も薄れていくんじゃないかなぁと思って、今日も進みたいって思ったんです」

 俺は、楓の顔に手を添え、楓の瞳をまっすぐに見据えて言った。

「……じゃあ、試してみる?」

 俺がそう言うと、楓が目を瞬き、瞳を輝かせた。

「え?! いいんですか?」

 てっきり楓は照れると思っていたのに。
 予想と違う反応に違和感を抱きつつも、俺は頷いた。

「もちろん」

 俺がそう言うと、何故か楓は視線を落として、俺の中心へと手を伸ばす。

「じゃあ、今日は私がしますね!」

「え?!?!?!」

 俺は慌てて楓の肩に手を置き、体を離した。

「ちょ、ちょっと待って! 何で楓がするって話に戻るの?!」

「今日進む分は、私が直樹さんにしようと思って……」

「ダメ!!!」

「え、でも、さっき『嫌じゃない』って……」

 楓がまた拗ねたような口調になる。
 俺は何と言って説得すれば良いか必死に考えた。

「……わかった! じゃあ、楓が俺に手とか口でするのは、俺が手とか口で楓を気持ち良くできるようになったらにしよう、ね?」

「……え」

 その瞬間、楓の顔が真っ赤になった。

「楓、いいかな?」

 楓はその可愛い表情のまま、コクリと頷いた。
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