男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由(旧題:後輩ちゃんと同期さんの願いの話)

福重ゆら

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第八章 過保護な直樹と楓の攻防

34. 『ダメ』 side. 楓

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 初めてのお泊まりの日、家に行く前に、直樹さんが車でショッピングモールに連れて行ってくれた。
 直樹さんが、「お泊まりに必要な物はうちに置いておこう」と言ってくれて、足りない物を買うことになったのだ。
 自分が使う物なので、自分で買おうとしたのだけど。

「楓。うちの家に置く物だから、ダメ」

 直樹さんがそう言って、全部支払ってくれた。

 お礼に私も何か直樹さんにプレゼントしたいと思い、周りを見渡していると、雑貨屋さんのウィンドウに飾られたペアのマグが目に留まった。
 ひとつひとつ手で塗られている陶磁器のマグで、その淡い色合いが可愛いなと思い見つめていると、直樹さんに話しかけられた。

「そのマグ可愛いね」

「はい! もしよかったら、買ってもいいですか?」

「うん! 楓がうちに来た時に使うペアのマグ、ちょうど欲しかったんだ」

「じゃあ、私、買ってきますね!」

 すると、直樹さんはニッコリ笑って言った。

「うちで使う物だから、ダメ」
 
 それでも私は「諸々のお礼に自分がプレゼントしたい」と言って粘ったのだけど、結局直樹さんに押し切られてしまった。

 ……揚げ物の時も思ったけど、直樹さんは私に対して少し過保護かもしれない。


 ◇


 買い物が終わり、家に着くと、直樹さんは新しいマグにコーヒーを淹れてくれた。

 ドリッパーへと視線を落とす甘い瞳は、どこか真剣だけど優しさも携えていて、横顔から目を話せなくなる。
 ケトルを持つ美しく長い指と、節張った手の甲に色気を感じて、心臓が跳ねる。

 そうだ。前回もコーヒーを淹れる直樹さんにドキドキして。
 深い口付けをされたんだ。

 私はあんなキスが初めてで、最初は戸惑ってしまって。
 でもどんどん『気持ち良い』『もっと』という気持ちに頭が占拠されて。

 それで、怖くなって逃げてしまった後、私も『キスは怖くない』という気持ちをわかってほしくて、自分からも口付けたんだ。
 直樹さんの、唇に……。

 その瞬間、直樹さんの唇を目にしてしまい、心臓が止まりかけた。

「楓?」

 直樹さんが振り向いたので、私は慌てて目を斜め下に下げた。

「大丈夫?」

 直樹さんが、私の顔を覗き込む。
 顔が近くてドキドキが更に増す。

「だ、大丈夫ですっ……!」

 すると、直樹さんが私に口付けた。

「楓が可愛すぎて、俺が大丈夫じゃなかった」

「……っ!!!」

 直樹さんが、色気をたっぷりと含ませた笑顔で私に微笑むので、私の心臓はまた止まりそうになった。


 ◇


 夕食後、直樹さんはお風呂のあとに何か準備があるみたいで、私が後から入ることになった。

 直樹さんがお風呂に入ってしまったので、ベッドを背にして待つ。
 先週、直樹さんにマッサージをお願いして、直接触れられたことを思い出し、顔が真っ赤になる。

 あの日は恐怖感があったけど、今は心臓が止まりそうなぐらいのドキドキはあるものの、恐怖感は無くなっていることに気付いた。
 大丈夫なところまで繰り返しながら少しずつ進んでいくことで、恐怖感は薄れていくんじゃないかという予想は正しかったみたいだ。

 ……今日も、進みたい、と思った。

 コーヒーを淹れる直樹さんを思い出してドキドキしていると。

「楓」

 名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。
 声の方を見ると、お風呂上がりの直樹さんがこちらを見つめていた。
 いつも以上に色気たっぷりで、私の心臓はもう何度目かわからないぐらいにおかしくなってしまった。

「なななな直樹さん! どうしました?!」

「お風呂空いたから、入る?」

「あ、じゃ、じゃあ、お風呂、お借りしますね!」

 慌ててお風呂に駆け込んだ。


 ◇ 


 お風呂の中で、徐々に平静を取り戻した私は、考えた。

 今日も、進みたい。

 直樹さんに、『恐怖感は薄れるかもしれない』という予想と、『今日も進みたい』という気持ちを伝えようと思った。

 その時、ふと、今日買ってもらった洗面道具が目に入る。
 いつも直樹さんにはしてもらってばかりで、私の心を何度も何度も救ってもらって、しかも今日は私が使う物をたくさん買ってもらってしまった。

 直樹さんに何か返したいと思った。
 直樹さんに、何か、したい。

 そうだ!
 今日は、私が直樹さんにするのはどうだろうか?
 手とか口で。

 私が直樹さんにすることに対して、恐怖感は全く無いことに気付いた。

 ……これは、名案かもしれない!
 直樹さんに、『私がしたい』ってことも伝えよう!

 お風呂から上がり、意気揚々と脱衣所から出ると。

 何故か、ベッドにタオルが敷いてあった。
 不思議に思いながら直樹さんの方を見ると、ニコニコと笑顔を浮かべている。

「楓、おいで」

「直樹さん、このタオルは何ですか……?」

「実は、楓にマッサージしようと思って、準備しておいたんだ」

「え?! マッサージって、……先週お願いしたマッサージですか?」

「うん。先週、やり方がわからなかったからちゃんと調べたんだ。先に全身のリンパマッサージをしておくと良いみたいで、服の上からなら楓も大丈夫かなと思って。俺が直接触れても平気なところは、マッサージオイルも塗ろうと思って、タオルを敷いておいたんだ」

「え?! あ、……でも、私、体型については、直樹さんのお陰で克服できたような気がするんです」

「本当? それならよかった!」

 直樹さんはふわりと微笑んで、私の髪を撫でてくれた。

「それなら、全身のリンパマッサージだけしてあげるよ」

「いえいえいえ! 全身マッサージしてもらうのなんて申し訳ないですし、大丈夫ですよ?」

「申し訳なくなんてないよ。俺がしたいだけだから」

「……でも、直樹さん、私」

「うん?」

「今日は、私がマッサージしてもらうんじゃなくて! 私が、直樹さんに、……したいなって思ってるんです!」

 直樹さんが目を瞬いた後、口を開いた。

「……楓が俺にしたいって、……マッサージを?」

「いいえ! あ、確かに私が直樹さんにマッサージするのも良いなって思いますけど、でも、私がしたいなって思ってたのは、……あの、直樹さんのをですね、私の、……手とか口で、……したいなって」

 私がそう言った瞬間、直樹さんは動きを止めた。
 その顔がどんどん赤く染まっていき、真っ赤になった後、項垂れた。

「……嫌ですか?」

 私が伺うように顔を覗き込んで聞くと、直樹さんは動揺を必死で落ち着けるようにふぅと一息吐いた後、口を開いた。

「……嫌じゃないけど、……ダメ」

「嫌じゃないのに、何でダメなんですか?」

 本日3回目の『ダメ』を言われて、私は思わず拗ねたような声で言ってしまった。
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