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第四章 後輩ちゃんの再起と同期さんの自覚
19. 同期さんの自覚 side. 直樹
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「後輩ちゃんが葵ちゃんを特別に思って、行動してくれたから、俺は救われたんだ」
俺がそう言った瞬間、後輩ちゃんの瞳に強い光が灯るのがわかった。
その瞳に思わず見惚れてしまった俺の両手を、……後輩ちゃんはガシッと掴んだ。
「同期さん! ありがとうございますっっっ!! 私、目が覚めた気分ですっ!!!」
「ほんと?」
「はい! ずっと、私が行動することで、大切な人を葵先輩みたいに傷付けてしまうことが怖かったんです。……でも、同期さんのおかげで、勇気が出ました!」
「よかった……!」
後輩ちゃんは、ニッコリ微笑んだ後、少し目を伏せて続けた。
「私は自分に罪がないとは思うことはできないんですが、でも、同期さんの言う通り、私の罪とあの男の罪は別で、私の罪は葵先輩にしか裁けない。そして、あの男の罪は、きちんと然るべき部署に報告して、裁いてもらって、これ以上被害者を出してしまうのを阻止しなければいけないって思いました」
「……うん」
恐らく、本来の後輩ちゃんなら、1人でも気付けることだったんだと思う。
ただ、重大な喪失感と罪悪感に、酷いモラハラ被害が重なって、思考の視野が一時的に狭くなってしまっていたのかなと思った。
そう考えると、先程から抑えきれないあの男への怒りが、ますます激しくこみ上げる。
「たぶん、これからも、私が正しいと思ってした行動で、大切な相手を傷付けてしまうことはあるんだと思います。でも、行動しないで見捨てるのは、もっと嫌なので」
後輩ちゃんは、俺の瞳をまっすぐ見て言った。
「これ以上、被害者が出ないよう、私、今から会社に戻って、報告してきますねっ!」
後輩ちゃんの瞳がキラキラと輝いている。
そうか。後輩ちゃんはこんな子だったんだ。
「後輩ちゃんが気付かないうちに救ってきた人は、俺以外にもたくさんいると思うよ。だから、大丈夫」
「同期さん……っ! ありがとうございます!」
後輩ちゃんは微笑んだ。
「では、同期さん! 私、いってきますね!」
後輩ちゃんはそう言って、俺の手を離し、ドアの方を向いてしまった。
その瞬間、気付く。
後輩ちゃんの放つ強い光は、後輩ちゃんが立ち直ったことを物語っている。
立ち直った後輩ちゃんは、これからも俺と会ってくれるんだろうか。
だって、次の約束が、まだ、無い。
待って。
行かせたくない。
このまま後ろから、抱き寄せて引き留めたい衝動が湧き起こる。
……いいや、引き留めたらダメだ。
後輩ちゃんはせっかく前に進もうとしてるんだから。
すると、ドアハンドルに手をかけた後輩ちゃんは、「あっ」と言って俺の方に振り返った。
「同期さん!!! ぜんぶ終わったら、お礼させてくださいねっ!」
その瞬間、俺の中に安堵と歓喜が湧き上がる。
後輩ちゃんに、また、会える。
会えるんだ。
「うん。話、聞かせて」
俺がそう言うと。
「はいっ!」
後輩ちゃんは、満面の笑みを見せた。
その瞬間、俺の心臓が、跳ねた。
そして、後輩ちゃんは俺の車を後にした。
静けさが戻った車内。
俺の心臓だけが、激しくバクバクと鳴っている。
ひと月前の笑顔を思い出すだけで俺のドキドキは止まらなかったのに。
それを超えるドキドキが俺を襲っている。
いや、落ち着け、俺。
後輩ちゃんと俺はそんな関係じゃ……。
いや、違う。
そんな関係じゃなくても、いいんだ。
世の中には、『片想い』という関係があるじゃないか。
何で忘れていたんだ。
俺がドキドキしても、何の不思議もない。
否定する必要なんて全くなかったんだ。
そう気付いた瞬間、俺が今まで聞いてきた様々な恋愛観が、俺の脳裏を駆け巡る。
ーーー「直樹くんのこと考えるとドキドキして」
後輩ちゃんのことを考えるとドキドキする。
ーーー「彼女は僕の『救い』だから」
後輩ちゃんは俺の『救い』だ。
ーーー「相手を愛しく思ったり、大事にしたいと思ったり、そういうじんわり温かくなるような気持ちもあるよね?」
後輩ちゃんを愛しく思ったり、大事にしたいと思ったり、じんわり温かくなるような気持ちになる。
ーーー「僕が泣ける場所は、ずっと、葵の前だけだったから」
俺が泣ける場所は、悠斗を失った今、後輩ちゃんの前だけだ。
気付いたら、全部当てはまっているじゃないか……!
ああ、そうだ。
初めて会った時だって、後輩ちゃんをひと目見て、目が離せなくなった。
そして、俺は思わず声をかけたんだ。
きっと、あの時、俺は、後輩ちゃんに、ーーー。
ーーー僕、葵に一目惚れしたんだけどさ。直樹はしたことない?
悠斗、してた。俺もしてたよ。
悠斗も葵ちゃんと出会った時、あんな気持ちだったんだね。
一緒に泣きたいと思ったのは、惹かれていたからだったんだ。
依存だと思っていたものは、恋心による執着心だった。
膨らんでいくのは当たり前だったんだ。
今まであった出来事の根底には、恋心が存在していたのだと、一つ一つ認識が塗り替えられていく。
そして、愕然とした。
……いや、俺、後輩ちゃんのこと、割と早い段階から、めちゃくちゃ好きじゃないか?!
どうして今まで気付かなかった?!
もう出会って半年になろうというのに。
そこまで考えて、あることに思い至る。
ああ、そうか。
悠斗と葵ちゃんのことで頭がいっぱいだったからだ。
とてもじゃないけど、自分の恋愛どころじゃなかった。
それに、俺は『後輩ちゃんはそんな関係じゃない』と何度も自分に言い聞かせていた。
今まで告白された子としか付き合わなかったことが関係しているのかもしれない。
無意識のうちに、自分に好意のある子にしか、好意を持ってはいけないと思っていたみたいだ。
自分のことなのに、わかっていないことってたくさんあるんだな。
様々な謎が一気に解けて、力が抜けた俺の脳裏に、葵ちゃんの言葉が再生される。
ーーーいつか、直樹くんにも、心から大事にしたいと思える子が出来るといいね。
出会えたよ、葵ちゃん。
君と悠斗のおかげで。
すっかり暗くなった空に浮かぶ星が、俺の人生初の片想いにして人生最大の恋心に浮かれたように、いつもより煌めいて見えた。
そして俺は目を閉じて、二人の幸せと後輩ちゃんの健闘を祈った。
俺がそう言った瞬間、後輩ちゃんの瞳に強い光が灯るのがわかった。
その瞳に思わず見惚れてしまった俺の両手を、……後輩ちゃんはガシッと掴んだ。
「同期さん! ありがとうございますっっっ!! 私、目が覚めた気分ですっ!!!」
「ほんと?」
「はい! ずっと、私が行動することで、大切な人を葵先輩みたいに傷付けてしまうことが怖かったんです。……でも、同期さんのおかげで、勇気が出ました!」
「よかった……!」
後輩ちゃんは、ニッコリ微笑んだ後、少し目を伏せて続けた。
「私は自分に罪がないとは思うことはできないんですが、でも、同期さんの言う通り、私の罪とあの男の罪は別で、私の罪は葵先輩にしか裁けない。そして、あの男の罪は、きちんと然るべき部署に報告して、裁いてもらって、これ以上被害者を出してしまうのを阻止しなければいけないって思いました」
「……うん」
恐らく、本来の後輩ちゃんなら、1人でも気付けることだったんだと思う。
ただ、重大な喪失感と罪悪感に、酷いモラハラ被害が重なって、思考の視野が一時的に狭くなってしまっていたのかなと思った。
そう考えると、先程から抑えきれないあの男への怒りが、ますます激しくこみ上げる。
「たぶん、これからも、私が正しいと思ってした行動で、大切な相手を傷付けてしまうことはあるんだと思います。でも、行動しないで見捨てるのは、もっと嫌なので」
後輩ちゃんは、俺の瞳をまっすぐ見て言った。
「これ以上、被害者が出ないよう、私、今から会社に戻って、報告してきますねっ!」
後輩ちゃんの瞳がキラキラと輝いている。
そうか。後輩ちゃんはこんな子だったんだ。
「後輩ちゃんが気付かないうちに救ってきた人は、俺以外にもたくさんいると思うよ。だから、大丈夫」
「同期さん……っ! ありがとうございます!」
後輩ちゃんは微笑んだ。
「では、同期さん! 私、いってきますね!」
後輩ちゃんはそう言って、俺の手を離し、ドアの方を向いてしまった。
その瞬間、気付く。
後輩ちゃんの放つ強い光は、後輩ちゃんが立ち直ったことを物語っている。
立ち直った後輩ちゃんは、これからも俺と会ってくれるんだろうか。
だって、次の約束が、まだ、無い。
待って。
行かせたくない。
このまま後ろから、抱き寄せて引き留めたい衝動が湧き起こる。
……いいや、引き留めたらダメだ。
後輩ちゃんはせっかく前に進もうとしてるんだから。
すると、ドアハンドルに手をかけた後輩ちゃんは、「あっ」と言って俺の方に振り返った。
「同期さん!!! ぜんぶ終わったら、お礼させてくださいねっ!」
その瞬間、俺の中に安堵と歓喜が湧き上がる。
後輩ちゃんに、また、会える。
会えるんだ。
「うん。話、聞かせて」
俺がそう言うと。
「はいっ!」
後輩ちゃんは、満面の笑みを見せた。
その瞬間、俺の心臓が、跳ねた。
そして、後輩ちゃんは俺の車を後にした。
静けさが戻った車内。
俺の心臓だけが、激しくバクバクと鳴っている。
ひと月前の笑顔を思い出すだけで俺のドキドキは止まらなかったのに。
それを超えるドキドキが俺を襲っている。
いや、落ち着け、俺。
後輩ちゃんと俺はそんな関係じゃ……。
いや、違う。
そんな関係じゃなくても、いいんだ。
世の中には、『片想い』という関係があるじゃないか。
何で忘れていたんだ。
俺がドキドキしても、何の不思議もない。
否定する必要なんて全くなかったんだ。
そう気付いた瞬間、俺が今まで聞いてきた様々な恋愛観が、俺の脳裏を駆け巡る。
ーーー「直樹くんのこと考えるとドキドキして」
後輩ちゃんのことを考えるとドキドキする。
ーーー「彼女は僕の『救い』だから」
後輩ちゃんは俺の『救い』だ。
ーーー「相手を愛しく思ったり、大事にしたいと思ったり、そういうじんわり温かくなるような気持ちもあるよね?」
後輩ちゃんを愛しく思ったり、大事にしたいと思ったり、じんわり温かくなるような気持ちになる。
ーーー「僕が泣ける場所は、ずっと、葵の前だけだったから」
俺が泣ける場所は、悠斗を失った今、後輩ちゃんの前だけだ。
気付いたら、全部当てはまっているじゃないか……!
ああ、そうだ。
初めて会った時だって、後輩ちゃんをひと目見て、目が離せなくなった。
そして、俺は思わず声をかけたんだ。
きっと、あの時、俺は、後輩ちゃんに、ーーー。
ーーー僕、葵に一目惚れしたんだけどさ。直樹はしたことない?
悠斗、してた。俺もしてたよ。
悠斗も葵ちゃんと出会った時、あんな気持ちだったんだね。
一緒に泣きたいと思ったのは、惹かれていたからだったんだ。
依存だと思っていたものは、恋心による執着心だった。
膨らんでいくのは当たり前だったんだ。
今まであった出来事の根底には、恋心が存在していたのだと、一つ一つ認識が塗り替えられていく。
そして、愕然とした。
……いや、俺、後輩ちゃんのこと、割と早い段階から、めちゃくちゃ好きじゃないか?!
どうして今まで気付かなかった?!
もう出会って半年になろうというのに。
そこまで考えて、あることに思い至る。
ああ、そうか。
悠斗と葵ちゃんのことで頭がいっぱいだったからだ。
とてもじゃないけど、自分の恋愛どころじゃなかった。
それに、俺は『後輩ちゃんはそんな関係じゃない』と何度も自分に言い聞かせていた。
今まで告白された子としか付き合わなかったことが関係しているのかもしれない。
無意識のうちに、自分に好意のある子にしか、好意を持ってはいけないと思っていたみたいだ。
自分のことなのに、わかっていないことってたくさんあるんだな。
様々な謎が一気に解けて、力が抜けた俺の脳裏に、葵ちゃんの言葉が再生される。
ーーーいつか、直樹くんにも、心から大事にしたいと思える子が出来るといいね。
出会えたよ、葵ちゃん。
君と悠斗のおかげで。
すっかり暗くなった空に浮かぶ星が、俺の人生初の片想いにして人生最大の恋心に浮かれたように、いつもより煌めいて見えた。
そして俺は目を閉じて、二人の幸せと後輩ちゃんの健闘を祈った。
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