男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由(旧題:後輩ちゃんと同期さんの願いの話)

福重ゆら

文字の大きさ
上 下
13 / 76
第三章 後輩ちゃんと同期さんの願いの話

12. 別れ side. 直樹

しおりを挟む
 後輩ちゃんと出会った日から、俺は悠斗の病室を訪れる時に、あの紅茶のペットボトルを差し入れるようになった。
 そして、悠斗は以前のように、葵ちゃんの話をしてくれるようになった。

 だけど、少しだけ持ち直したと思った悠斗の体調は、一進一退を繰り返しながら、じわじわと悪化していった。
 覚醒と睡眠のリズムがだんだんと崩れていき、俺が病室を訪れても悠斗は寝ていることも増えた。


 ◇◇◇


 ある日、ちょうど悠斗が起きていて、数日振りにたわいのない会話をした。

「直樹はさ、『生まれ変わり』って信じる?」

「うーん、あんまり考えたことがなかったなぁ。……悠斗は?」

「僕は昔から入院することが多かったから、その度に、このまま死んだらどうなるんだろうって考えてたんだ。そのうちに、生まれ変われたらいいなって思うようになって、……最近は、生まれ変わったらしたいことばかり、考えちゃうんだ」

「したいことって?」

「……葵に会いに行きたい」

「そっか」

「だけど、今生まれ変わったら25~26歳も僕が年下になっちゃうから、葵には相手にされないのかな」

「葵ちゃんは、悠斗だったら何でも受け入れてくれそうだけど」

「そうかな?」

 悠斗が期待に満ちた顔で言うので、俺は思わず破顔しながら頷いた。

「……でもね、僕、生まれ変わった時、今の僕の記憶を持っていたくないんだ」

「え? ……どうして?」

「僕、昔から病弱で、学校に行ったり外で遊んだり友達と遊んだりするのを我慢してた。だから僕は、僕がいなくても世界は回ることを知ってるし、僕がいなくても周りは楽しいし幸せになれることを知ってるんだ。……むしろ僕が我慢することで、みんなが幸福になるんじゃないかって考えてしまうこともある」

「そんなことない! 少なくとも、葵ちゃんは。それに、俺だって……!」

「……うん。そんなことないって、ちゃんとわかってる自分もいるんだ。でもさ、やっぱり長年根付いた感覚はどうしても消えなくて。そんな自分の記憶があったら、多かれ少なかれ、生まれ変わった僕にも影響しちゃうと思ったんだ。……だから、こんな風に考えてしまう自分をリセットしたい」

「……」

 想像の『もし生まれ変われたら』の話だけど。
 悠斗のその考えは、何故か少し寂しいと思ってしまった。

 すると、俺のそんな表情に気付いたらしい悠斗が、少しイタズラっぽく笑って言った。

「あのさ、『高校デビュー』とか『大学デビュー』って言葉、あるでしょ?」

「うん、あるね」

「僕は、今の僕の記憶を持たないことで『転生デビュー』したいんだ」

「『転生デビュー』?!」

 斬新すぎる言葉に驚いた俺の顔を見て、悠斗が吹き出した。
 そして、2人で笑い合った。

 でも、ふと気になったことを聞いてみる。

「だけどさ、悠斗は今の記憶がなくても、葵ちゃんに会える?」

「うん。僕、どんな僕でも、葵がいる場所に引き寄せられて、葵に一目惚れして恋に落ちると思うよ」

「すごい自信だ」

 俺がそう言うと、悠斗は得意げに微笑む。
 そして、悠斗は何か重大な発見をしたような顔になった。

「ということは、……もしかしたら僕は、生まれ変わった僕と葵が恋に落ちるために、葵に別れを告げたのかもしれない」

「え? どういうこと?」

「次の僕に、今の僕の記憶がなかったら、葵に僕が僕だってこと説明できないでしょ?」

「そうだね」

「だから、葵が気兼ねなく次の僕と恋に落ちるよう、今の僕を忘れてもらいたくて、僕は葵と別れたんだよ、きっと」

「……な、難解すぎる」

 悠斗の思考を理解しようとしたけど断念して、額を抑える俺を見て、悠斗が笑った。
 そしてまた、2人で笑い合った。

 そして、悠斗はふいにポツリと言う。

「まぁ、こんな風に、考えても仕方のないことばっかり考えちゃうんだよね」

「……俺は聞けて、嬉しいよ」

 俺がそう言うと、悠斗は哀しそうにも幸せそうにも見える微笑みを浮かべた。


 ◇


 その日の帰り際、悠斗が言った。

「直樹、ありがとう」

「ん? どうした?」

「前にも言ったけど、改めて、……直樹がいてくれて、よかったなぁと思って」

「そっか」

「うん」

「俺も、ありがとう」

「何が?」

「俺も、悠斗がいてくれて、よかった」

「え? ……僕、何もしてないし、……むしろ迷惑かけてばかりだと思うけど」

「ううん。悠斗がいてくれて、俺は、楽しいし幸せだから」

 俺がそう言うと、悠斗は目を瞬かせた。

「……そっか」

 そう言って、悠斗は心底幸せそうな笑顔を浮かべた。






 ◇◇◇


 その翌日、容体が急変した悠斗が息を引き取った。
 余命半年と告げられてから、ひと月しか経っていなかった。

 連絡をもらってすぐに駆けつけたけど、間に合わなかった。


 悠斗はもういない?

 もう会えない?


 なんだか現実のように思えない。
 視界や思考に膜が張ったかのようにはっきりしない。

 ぼんやりとする頭が、昨日の出来事を再生した。


 ーーー『直樹、ありがとう』


 微笑みを浮かべる悠斗。


 あの「ありがとう」は、もしかしたら、悠斗なりのお別れだったのかもしれない。

 そう思い至った瞬間、どこか現実だと思えなかった『今』に引き戻されたような感覚になった。


 悠斗はもういない。

 もう会えない。


 思考が悲しみに支配されていく。


 泣きたいな、と思った。

 その時、なぜか後輩ちゃんの顔が思い浮かぶ。

 ーーー後輩ちゃんなら、一緒に泣いてくれるかもしれない。

 考えて、すぐに思い直す。
 そんな間柄じゃない。たった一度だけ会った相手。

 俺は後輩ちゃんを同志みたいに思ってるけど、彼女は違う。
 たまたま俺が悠斗の居場所を知っていて、案内しただけの、オマケみたいな存在。
 『同期さん』という呼び名が、それを顕著に表している。

 それに、後輩ちゃんには葵ちゃんがいる。
 後輩ちゃんは今日も葵ちゃんを支えようと、必死なんだろうな。


 後輩ちゃんと『悠斗に何かあったら知らせる』と約束した通り、後輩ちゃんに悠斗が亡くなったことを伝えるメッセージを送った。
 そんな日は来ないでほしいという願いは、叶わないどころか、予想よりも遥かに早く現実になってしまった。

 俺が後輩ちゃんに送った、悠斗が亡くなったことを知らせるメッセージの返信に書かれていたことは。


 ーーー葵ちゃんが亡くなったという知らせだった。


 目の前が真っ暗になる。


 絶望感で動けなくなりそうになった瞬間、病室で見た後輩ちゃんの姿が脳裏に浮かんだ。

 ピンと真っ直ぐに伸びた背中。その背中は、涙を堪えるように震えている。


 ーーー後輩ちゃんはきっと、今も一人で、必死に堪えている。


「後輩ちゃん、今どこにいる?」

 気付いた時には、俺は後輩ちゃんに電話をかけていた。

「……動物園の、近くの、公園、です」

 電話の向こう、後輩ちゃんの震える声を聞いて、俺は思った。


 ーーー後輩ちゃんのもとへ行かなきゃ。一刻も早く。


「今から15分ぐらいかかるんだけど、行ってもいいかな?」

「……はい」

 後輩ちゃんは「でも」と言いかけていたけど、一刻も早く向かいたかった俺は強引に続けた。

「ごめんね、すぐ行くから待ってて」

 そして電話を切った俺は、その場から駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...