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第七章 浮かれる直樹と楓の恐怖
29. 浮かれる心② side. 直樹
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楓と想いが通じ合ってから、俺は人生で一番浮かれていた。
生まれて初めて自分から好きになった相手。片想いなんて初めてだったし、まして他に特別な人がいる相手を好きになることなんて今まで経験したことがなかった。
まさか楓の方も『悠斗の代わり』と思い込んでいて、あんな勘違いをされているなんて想像もしなかったけど、最終的には気持ちが伝わって良かった。
デートの前はずっと待つつもりでいたし、デート開始早々に告白するのを諦めかけていて、途中からは最後にしなきゃなんてと思い詰めていたのに、想いが通じ合うなんて。
それに、うっかり口走ってしまった『一生添い遂げたい』という望みに幻滅されないどころか、楓も同じ言葉を言ってくれるなんて。
本当に、夢みたいな気分だ。
◇
動物園に行った次の週末、クリスマスが近かったので、クリスマスディナーとイルミネーションに行った。
月命日以外の約束は初めてで、浮かれる気分が更に増す。
本当は俺の一人暮らしの家に招いて、クリスマスのレシピを振る舞いたかったのだけど、付き合い始めていきなり家に呼ぶのもどうかと思い、外でのデートにした。
楓はいつもよりフォーマルな装いで、髪をアップにしてワンピースとヒールを身に着けていて、思わず見惚れてしまう。
レストランでも「美味しいですね」と楓が微笑むたび、余りの可愛さに動揺して、何度もカトラリーを落としそうにった。
デザートのタイミングで、プレゼントを渡した。
「素敵なブレスレットですね! ありがとうございます! 早速付けてもいいですか?」
「もちろん! ……実は、ペアなんだ」
そう言って、俺は手首のブレスレットを見せた。
ペアアクセサリーなんて引かれてしまったらどうしようかと内心ドキドキする。
「ペアなんですね! お揃い嬉しいです!」
楓の笑顔に心底安堵した。
本当はペアリング……というか結婚指輪をもう買ってしまいたい気持ちがあったのだけど、流石にそちらは自重して、ブレスレットにした。
楓の普段の服装や、俺の服にも合うことを考えてレザーにしたのだけど、今日の装いに合わせるなら、チェーンブレスレットも良かったな、なんて思う。
「私からも、プレゼントです! 直樹さん、コーヒー好きだって聞いたので……」
楓から渡されたのはコーヒーのギフトセットだった。
「ありがとう! 楓がうちに来た時、一緒に飲もう」
「楽しみです!」
楓がニッコリ笑った。
その笑顔に心臓を鷲掴みにされて、このまま『コーヒーを飲みにうちにおいで』と言ってしまいたくなったのだけど。
ちょうど今、コースの最後のデザートと一緒にコーヒーを飲んでいるところなのに、その誘いはどう考えてもおかしいと思い、慌てて抑えた。
◇
ディナーの後は予定通り、イルミネーションを見に行った。
店の外、すっかり暗くなった夜の空気は冷えていて、楓の手を取り指を絡めた。
「直樹さんの手、あったかいです」
「楓、もっとあったまるように、……こうしてもいい?」
俺は、繋いだ手をポケットに入れた。
「……はい」
楓は少し照れたように微笑んで、そのあと2人で笑い合った。
こんな風に自然と名前を呼び合えて、手を繋げるようになった幸せをひしひしと噛み締める。
「イルミネーション、綺麗ですね」
「そうだね」
暗闇の中、幻想的な光がキラキラと光る。
それに見惚れる楓がとても綺麗で、俺は必死に目に焼き付けた。
来年のクリスマスは外でのデートと家でのパーティー、両方楽しめたらいいなと思った。
◇◇◇
クリスマスの翌週末から年末年始休暇だったので、一緒に初詣と初日の出を見に行くことにした。
明け方に車で迎えに行き、海へと向かう。
信号待ちの時に助手席を見ると、楓が落ちてくる瞼と必死に戦っているのが可愛くて、ついつい吹き出してしまった。
「楓、寝ててもいいよ」
「いえ、そんな訳には……!」
そう言って、でも、最後は睡魔に負けてしまったようだ。
初めて見る寝顔が可愛くて、目的地に着いた後も時間になるまで見つめていた。
俺はまた、幸せを噛み締める。
そんなことをしていたら、空が白み始めたので、慌てて起こした。
「楓、初日の出見に行こう! 起きよう」
肩をトントン叩いてみる。
「ん……ぅ……」
「楓、起きて。もう日が出ちゃうよ」
なかなか起きないので、「楓、起きて~」と言って、肩を揺すったり頬をツンツンつついたりしてみる。
楓が、「はぁい……」と言いながら目を擦る。いつもキリッとしているのに、無防備でめちゃくちゃ可愛い。
すると、楓がパチッと目を開けた。
「楓、おはよう」
俺と目が合った楓は、そのまま動きを止めた後、焦ったように口を開いた。
「な、なななな直樹さん! ごめんなさい! 私、寝ちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ! 俺も幸せを噛み締めてて、起こすのが遅れちゃったんだ」
「え?」
「日が出る前に、急ごう」
車を出て、手を繋いで、海岸までの道を急ぐ。
海岸に着くと程なくして、水平線から日が出た。
群青色の空と海の間から、オレンジ色の光が顔を出し、海の上に光の道を作っていく。
「綺麗ですね」
「うん……すごく、綺麗だ」
楓の方を向くと目が合い、つい、口付けてしまった。
楓の顔が真っ赤になった。
◇
日がすっかり昇るのを見届けてから、海岸を後にした。
いつもの公園の隣にある神社に参拝し、おみくじを引く。
「私、吉でした。……このあと運気が下がってから、後半一気に上がるみたいです」
「俺は大吉。……だけど、かなり波があるみたいだ」
おみくじを見せ合ったら、お互い恋愛欄に『この人を逃がすな』と書いてあったので、楓の方を見て「逃がさないようにしなきゃ」と言ったら、楓が「私もです」と言って、2人で顔を見合わせて笑った。
待ち人欄には『当方から尋ねよ』とあった。
待ち人には特に思い至らなかったけど、……俺は先月から楓を家に招くタイミングをずっと悩んでいて、楓が家に来るのを待ってることに気付いた。
楓は年始は親戚まわりで忙しく、休暇明けの3連休がちょうど月命日だった。
ーーー『当方から尋ねよ』
おみくじに背中を押され、聞いてみることにした。
「楓、次の月命日、うちに来ない?」
「はい! 行きたいです」
「良かった! じゃあ、決まり!」
そして、初お家デートの予定が決まり、やっぱり俺は人生で一番浮かれていた。
……最初の荒波が、すぐそこまでやって来ていることにも気付かず。
生まれて初めて自分から好きになった相手。片想いなんて初めてだったし、まして他に特別な人がいる相手を好きになることなんて今まで経験したことがなかった。
まさか楓の方も『悠斗の代わり』と思い込んでいて、あんな勘違いをされているなんて想像もしなかったけど、最終的には気持ちが伝わって良かった。
デートの前はずっと待つつもりでいたし、デート開始早々に告白するのを諦めかけていて、途中からは最後にしなきゃなんてと思い詰めていたのに、想いが通じ合うなんて。
それに、うっかり口走ってしまった『一生添い遂げたい』という望みに幻滅されないどころか、楓も同じ言葉を言ってくれるなんて。
本当に、夢みたいな気分だ。
◇
動物園に行った次の週末、クリスマスが近かったので、クリスマスディナーとイルミネーションに行った。
月命日以外の約束は初めてで、浮かれる気分が更に増す。
本当は俺の一人暮らしの家に招いて、クリスマスのレシピを振る舞いたかったのだけど、付き合い始めていきなり家に呼ぶのもどうかと思い、外でのデートにした。
楓はいつもよりフォーマルな装いで、髪をアップにしてワンピースとヒールを身に着けていて、思わず見惚れてしまう。
レストランでも「美味しいですね」と楓が微笑むたび、余りの可愛さに動揺して、何度もカトラリーを落としそうにった。
デザートのタイミングで、プレゼントを渡した。
「素敵なブレスレットですね! ありがとうございます! 早速付けてもいいですか?」
「もちろん! ……実は、ペアなんだ」
そう言って、俺は手首のブレスレットを見せた。
ペアアクセサリーなんて引かれてしまったらどうしようかと内心ドキドキする。
「ペアなんですね! お揃い嬉しいです!」
楓の笑顔に心底安堵した。
本当はペアリング……というか結婚指輪をもう買ってしまいたい気持ちがあったのだけど、流石にそちらは自重して、ブレスレットにした。
楓の普段の服装や、俺の服にも合うことを考えてレザーにしたのだけど、今日の装いに合わせるなら、チェーンブレスレットも良かったな、なんて思う。
「私からも、プレゼントです! 直樹さん、コーヒー好きだって聞いたので……」
楓から渡されたのはコーヒーのギフトセットだった。
「ありがとう! 楓がうちに来た時、一緒に飲もう」
「楽しみです!」
楓がニッコリ笑った。
その笑顔に心臓を鷲掴みにされて、このまま『コーヒーを飲みにうちにおいで』と言ってしまいたくなったのだけど。
ちょうど今、コースの最後のデザートと一緒にコーヒーを飲んでいるところなのに、その誘いはどう考えてもおかしいと思い、慌てて抑えた。
◇
ディナーの後は予定通り、イルミネーションを見に行った。
店の外、すっかり暗くなった夜の空気は冷えていて、楓の手を取り指を絡めた。
「直樹さんの手、あったかいです」
「楓、もっとあったまるように、……こうしてもいい?」
俺は、繋いだ手をポケットに入れた。
「……はい」
楓は少し照れたように微笑んで、そのあと2人で笑い合った。
こんな風に自然と名前を呼び合えて、手を繋げるようになった幸せをひしひしと噛み締める。
「イルミネーション、綺麗ですね」
「そうだね」
暗闇の中、幻想的な光がキラキラと光る。
それに見惚れる楓がとても綺麗で、俺は必死に目に焼き付けた。
来年のクリスマスは外でのデートと家でのパーティー、両方楽しめたらいいなと思った。
◇◇◇
クリスマスの翌週末から年末年始休暇だったので、一緒に初詣と初日の出を見に行くことにした。
明け方に車で迎えに行き、海へと向かう。
信号待ちの時に助手席を見ると、楓が落ちてくる瞼と必死に戦っているのが可愛くて、ついつい吹き出してしまった。
「楓、寝ててもいいよ」
「いえ、そんな訳には……!」
そう言って、でも、最後は睡魔に負けてしまったようだ。
初めて見る寝顔が可愛くて、目的地に着いた後も時間になるまで見つめていた。
俺はまた、幸せを噛み締める。
そんなことをしていたら、空が白み始めたので、慌てて起こした。
「楓、初日の出見に行こう! 起きよう」
肩をトントン叩いてみる。
「ん……ぅ……」
「楓、起きて。もう日が出ちゃうよ」
なかなか起きないので、「楓、起きて~」と言って、肩を揺すったり頬をツンツンつついたりしてみる。
楓が、「はぁい……」と言いながら目を擦る。いつもキリッとしているのに、無防備でめちゃくちゃ可愛い。
すると、楓がパチッと目を開けた。
「楓、おはよう」
俺と目が合った楓は、そのまま動きを止めた後、焦ったように口を開いた。
「な、なななな直樹さん! ごめんなさい! 私、寝ちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ! 俺も幸せを噛み締めてて、起こすのが遅れちゃったんだ」
「え?」
「日が出る前に、急ごう」
車を出て、手を繋いで、海岸までの道を急ぐ。
海岸に着くと程なくして、水平線から日が出た。
群青色の空と海の間から、オレンジ色の光が顔を出し、海の上に光の道を作っていく。
「綺麗ですね」
「うん……すごく、綺麗だ」
楓の方を向くと目が合い、つい、口付けてしまった。
楓の顔が真っ赤になった。
◇
日がすっかり昇るのを見届けてから、海岸を後にした。
いつもの公園の隣にある神社に参拝し、おみくじを引く。
「私、吉でした。……このあと運気が下がってから、後半一気に上がるみたいです」
「俺は大吉。……だけど、かなり波があるみたいだ」
おみくじを見せ合ったら、お互い恋愛欄に『この人を逃がすな』と書いてあったので、楓の方を見て「逃がさないようにしなきゃ」と言ったら、楓が「私もです」と言って、2人で顔を見合わせて笑った。
待ち人欄には『当方から尋ねよ』とあった。
待ち人には特に思い至らなかったけど、……俺は先月から楓を家に招くタイミングをずっと悩んでいて、楓が家に来るのを待ってることに気付いた。
楓は年始は親戚まわりで忙しく、休暇明けの3連休がちょうど月命日だった。
ーーー『当方から尋ねよ』
おみくじに背中を押され、聞いてみることにした。
「楓、次の月命日、うちに来ない?」
「はい! 行きたいです」
「良かった! じゃあ、決まり!」
そして、初お家デートの予定が決まり、やっぱり俺は人生で一番浮かれていた。
……最初の荒波が、すぐそこまでやって来ていることにも気付かず。
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