男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由(旧題:後輩ちゃんと同期さんの願いの話)

福重ゆら

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第七章 浮かれる直樹と楓の恐怖

33. 棘 side. 楓

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 涙が落ち着いた後、私はもう一つ隠していたことを、打ち明けた。

「実は、最初、怖いのは私の体型のせいだと思って、会社の同僚に打ち明けたら、胸を育てる方法を教えてもらったんです……」

「……え」

「早寝、唐揚げとキャベツ、あと、マッサージが良いって教えてもらって……」

「早寝と唐揚げ、……そんな理由があったんだ」

「はい」

「……もしかして、この手も?」

 私の胸が密着しないように、直樹さんの胸に置いていた手。
 気付かれていたことが気恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。

「はい。無いのを誤魔化したくて……」

 すると、直樹さんが真剣な顔で私を見て、口を開いた。

「怖いからではない?」

「あ! この手は違います!」

 まさかそんな風に思わせてしまっていたなんて。
 私が慌てて否定すると、直樹さんは「よかった……!」と言ってホッとしたように私をぎゅうっと抱き締めた。

「でも、すぐに育つ訳もなくて、さっき豊胸手術の看板を見て、フラフラ入ろうとしたら、……」

「ショウに見つかったんだね」

「……はい」

 直樹さんは、眉を下げて微笑んだまま、私の頬を撫でる。

「俺、最初、楓とショウが一緒にいるのを見て、楓が慌てて帰ったのはショウに会うためだったんじゃないかって、絶望しそうになって」

「えええっ! そんな訳ありませんよっ!!!」

「……だよね。楓がショウと知り合いだってことも最初は知らなかったのに。俺、気が動転しすぎて、そんなことまで考えちゃった」

 直樹さんがそう言って自嘲気味に笑う。
 そんなこと絶対にないってことと、私の中で直樹さんが特別なんだってことを伝えたいと思った。

 その時、ふと、ベテラン女性社員の言葉が脳裏をよぎった。
 どうしようか迷ったけど、伝えることにした。

「……あの、実は、育乳で一番効果があるってオススメされたことがあって、……直樹さんの協力が必要なことなんですが」

「もちろん、俺が協力できることなら何でも協力するよ! 早寝早起きも付き合うし、お家デートの時は唐揚げ作るし、外のデートならお弁当に唐揚げ入れてくし、各地の唐揚げの名店巡りだってするよ」

「直樹さん、優しすぎます……!」

「ううん。それで、他にもあるの?」

「は、はい。……それがですね……」

「うん?」

「……か」

「か?」

 恥ずかしくて、ギュッと目を瞑って、一気に言った。

「『彼氏に育ててもらう』っていう、方法なんですけど……」

「……っ!」

 直樹さんが息を呑んだ。
 そして少し逡巡した後、口を開いた。

「……触れるのは、平気?」

「た、たぶん……」

 すると、直樹さんは私の肩に手を置いて、真っ赤な、でもすごく真剣な顔で、私を見た。

「怖いと思ったら、すぐに言ってね」

 私は頬に熱が集まるのを感じながら、こくりと頷いた。

「楓。体の向き、変えようか。俺に背中、向けてくれる?」

「はい……」

 私は座ったまま、体の向きを変えた。

「そのまま、俺に寄りかかってくれる?」

「はい」

 私は頷き、直樹さんの胸に体重を預けた。

 ドキドキする。
 背中に感じる直樹さんの心臓もドクドクと鳴っていた。
 
 直樹さんが、私のお腹に手を回した。
 直樹さんの腕が当たっている脇腹がゾワリとする。

「楓」

 耳元で囁かれ、体が跳ねる。

「……怖く、ない?」

 ドキドキするけど、恐怖感はなかった。

「は、はいっ。怖くないです」

「じゃあ、……触れるよ」

 私はコクリと頷いた。

 直樹さんが恐る恐るといったように、私の胸へと手を伸ばした。

 直樹さんの大きな手が、私の服の上から胸に置かれた。
 胸の外側から内側に摩るようにマッサージされる。

 お腹の奥がゾワゾワして、はぁっと熱い吐息が漏れてしまう。

「……楓、大丈夫?」

「は、はい……」

 そう言ったところで、直樹さんにマッサージさせていることが申し訳なくなってしまった。

「……あの、もう、終わりで大丈夫です」

「え?! 楓が平気なら、もう少し続けない? 肩凝りのマッサージも最低5分ぐらい続けるのが効果的みたいだよ?」

 ……お願いしてしまっても、いいんだろうか。

 そこでふと、思い出した。

 私は以前、『自分は同性と性行為ができるのか?』と考えた時、『最初は抵抗感がある相手でも、次第に抵抗感が薄れるかもしれない』と思った。

 もしかしたら、恐怖感も抵抗感と同じかもしれない。

 私は今、怖いと感じていない。
 怖くないところまで少しずつ進んで、それを繰り返していけば、この恐怖感も、いつか薄れるかもしれないと思った。

「……じゃあ、お願いしても、いいですか?」

「うん、もちろん」

「直樹さん。……直接、触れてもらっても、いいですか?」

「……えっ?! 直接?!」

「……はい!」

 私は、意を決して、自分のブラウスと肌着をスカートから出し、ブラのホックを外した。

「……楓、本当に、大丈夫なの?」

 私はもう一度、直樹さんの方を見て言った。

「はい。……直樹さんに、触れて欲しい、です」

 私は前を向き、直樹さんの手を取り、ドキドキしながら、服の中に導いた。

 直樹さんの手が、今度は私の胸へと直接這わされる。

 ドキドキする。

 だけどそれ以上に、怖いという気持ちが押し寄せた。

 直接触れたことで、『男みたいな体』に幻滅されていたらどうしよう。

 恐怖感に耐えきれず、つい、自嘲気味に言ってしまった。

「……ほんと、『男みたいな体型』ですよね」

「ううん! 楓、全然違うよ?!」

 直樹さんは、そう言って少し躊躇った後、私の耳元で囁いた。

「すごく、……柔らかい。男とは、全然違う」

 ーーー男とは、全然違う。

 本当に?
 信じられなくて、私は思わず、直樹さんの方を振り返った。

 すると、直樹さんが、ふわりと微笑んだ。

「もし、信じられないなら、……俺の、触ってみる? 本当に全然違うから」

 直樹さんに誘導されるまま、私は直樹さんと向き合った。
 私は、恐る恐る、直樹さんの服の上から胸に触れた。
 抱き締められた時、何度も直樹さんの胸に手を置いたけど、自分と比較して触れるのは初めてで。

 直樹さんの胸は、……とても硬かった。

「ね、全然違うでしょ?」

「……っ!」

 私はコクリと頷いた。
 全然違うと言ってくれる、違いを体感させてくれる、直樹さんの優しさに、涙が込み上げた。

 すると、直樹さんは私の頬に手を添えて、優しく微笑んで口を開いた。

「……きっと、アイツはさ、碌に触れもしなかったから気付かなかっただけなんだよ。……楓の体が、こんなに、柔らかいってこと」

「……っ!」

 私は直樹さんの胸に顔を埋めて、声を上げて泣いてしまった。
 直樹さんは私を優しく抱き締めて、背中や髪を撫でてくれた。

 私の心に刺さった棘が、溶かされていくのを感じた。


 ◇


 私が落ち着いた後、2人で夕食を作って、一緒に食べた。

 帰りは直樹さんが車で私の家まで送ってくれた。
 帰り際、直樹さんが言った。

「楓。来週の土日、予定ある?」

「ええと、……予定は無いです」

「じゃあさ、……楓が良かったら、うちに泊まらない?」

「……!」

 その時、私は先程からずっと抱えていた不安を思い出した。

 直樹さんを受け入れられないことで、関係が変わってしまうんじゃないかって。
 もう、直樹さんに必要とされないんじゃないかって。
 すごくすごく不安だった。

 直樹さんはそんな人じゃないってわかっている自分もいたのに、それでもやっぱり不安だった。

 でも、直樹さんは変わらず、私を誘ってくれた。
 直樹さんはこの関係を続けようとしてくれていることを実感して、物凄く安堵した。
 安堵した途端、私の瞳からまた涙が溢れた。

「……楓?! どうしたの?」

「……また泣いちゃって、ごめんなさい。……また誘ってもらえて、ホッとしてしまって……」

「……楓」

 直樹さんは、また私をぎゅうっと抱き締めてくれた。
 私も、少しでもたくさん触れたくて、直樹さんの背中に腕を回した。
 もう、自分の体型がどう思われるかなんて気にならなくなっていた。

「来週、泊まりたいです! 直樹さんと、一緒にいたい、です……っ」

「うん、よかった。俺も、楓と一緒にいたい」

 直樹さんの温もりに包まれて、心が安らいでいくのを感じた。

 そして少し経った後、直樹さんは私の肩に手を置き、体を少し離して私の顔を覗き込んだ。

「もしかして、……もう誘われないかもと思ってたの?」

「……直樹さんはそんな人じゃないってわかってるはずなのに、でも、少しだけ、……不安でした」

 私がそう言うと、直樹さんは少し拗ねたように口を開いた。

「さっき『早寝も付き合うし唐揚げもまた作る』って言ったのに……」

「疑ってた訳じゃないんです! ……けど、……ごめんなさい」

「そっか」

 直樹さんは、眉を下げて微笑んで私の頭を撫でてくれた。

「楓、おみくじの恋人欄に書いてあったこと、覚えてる?」

 ーーー『この人を離すな』

 私が思い出したのがわかったのか、直樹さんはイタズラっぽい笑みを浮かべて言った。

「だからね、離すつもりなんて、無いよ」

 直樹さんはそう言って、私に優しくキスしてくれた。
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