男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由(旧題:後輩ちゃんと同期さんの願いの話)

福重ゆら

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第三章 後輩ちゃんと同期さんの願いの話

13. 後輩ちゃんの願いの話 side.楓

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 大切な人の死を伝える2つの知らせを見た私は、その場で立ち尽くした。

 目の前が真っ暗になる。


 葵先輩が亡くなった……?

 私の脳裏に、会議室での光景がフラッシュバックする。
 真っ青な顔で大粒の涙を流す葵先輩。

 ーーー『お前が余計なことをしたから』

 私の……、私のせいだ




 呆然とする頭で、震える指で、必死にスマホを操作し、葵先輩が亡くなったことを同期さんに伝えた。
 すると、同期さんから電話がかかってきた。

 ここに来てもいいか聞かれて、同意したあと「でも、どうして?」と問おうとした私の言葉は、同期さんの「すぐ行くから待ってて」という言葉で遮られ、そのまま通話は切られてしまった。
 理由を聞こうかとメッセージを送りかけたけど、思考も指もうまく動かすことができなかった。


 ◇


 少ししたあと、息を切らした同期さんが現れた。

「後輩ちゃん! 待っててくれてありがとう」

「いえ、でも、どうして……?」

「……俺、今、どうしても誰かと一緒に泣きたい気持ちで。俺さ、恋人もいなくて、友達も、悠斗ほど気を許せる奴いなくて。後輩ちゃんだったら、……一緒に泣いてくれるかなと思って」

「……」

 私も、泣きたかった。
 私も、誰かと一緒にいたかった。
 一人でいたら、抱え切れない罪悪感に押しつぶされてしまいそうだった。
 それを口に出したら決壊してしまいそうで、私はこくんと頷いた。


 ◇


 同期さんの車の中で、二人で泣いた。

 声を上げて泣いたのなんて、本当に久しぶりだった。

 喪失感、罪悪感、自己嫌悪が込み上げて、気付いたら、口から言葉が出ていた。

「同期さん、あの、私の話、聞いて、もらえませんか? ……ひ、一人じゃ、抱えきれなくて」

「うん、どうしたの? もちろん聞くよ」

「葵先輩、私と悠斗さんの仲を、誤解、してしまったかもしれないんです……!」

「え?」

「葵先輩が亡くなったのは、そのせいかも、……しれなくて……っ」

「どういうこと?」

「わ、私のせいで……っ、葵先輩が……っ!」

 嗚咽で咳が止まらなくなった私の背中を、同期さんがさすってくれた。

「……後輩ちゃん、落ち着いてからでいいから、何があったか教えてくれる?」

 私はこくんと頷いた。

 咳が落ち着いた後、私は今日あった出来事を同期さんに話した。
 涙と嗚咽でかなり聞き取り辛かったと思うし、頭が働かなくて話も碌にまとまっていなかったと思う。

 だけど、同期さんは真剣に聞いてくれた。

「後輩ちゃんは悠斗に『葵ちゃんに会ってほしい』ってメッセージを送って、それに対する悠斗の返信が『僕も会いたい』だった。葵ちゃんはその返信を見た可能性が高くて、そのタイミングで様子や体調がおかしくなって、そのまま亡くなってしまった……ってこと?」

「そう、なんです……っ! 葵先輩が、突然泣いた時、悠斗さんの返信を見て、私と悠斗さんの仲を、誤解したんだって、後から、気付いて……。でも、誤解してしまったまま、亡くなった、だなんて……。もう会えない、なんて……。私のせいで……っ!」

 後悔の言葉が、私の口から溢れ出る。

「あの時、葵先輩を、一人になんて、しなければ……っ! すぐに、救急車、呼んでいれば……っ! スマホ、机なんかに、置かなければ……っ! 私が、悠斗さんに、メッセージを、送らなければ……っ!」

 また、私の脳裏に、会議室の光景がフラッシュバックする。
 私を拒絶する葵先輩。

 ーーー『お前が余計なことをするから』

「私が、余計なことをしなければ……っ!」

 そこで、私は涙と嗚咽で言葉が出なくなってしまった。
 涙が悲しみと後悔と共に、とめどなく溢れ出る。

 そうして、どれぐらいの時間が経っただろうか。

 同期さんは口を開いた。

「後輩ちゃんはさ、どうしても自分を許せないんだと思う。だから無理に自分を許せなんて言わない。……でも、伝えておきたいのは、俺は、後輩ちゃんは悪くないと思ってる。……あの二人もそうだと思うよ」

「……っ」

 私は思わず同期さんに顔を向ける。
 すると、同期さんはふわりと微笑んで、口を開いた。
  
「……そういえばさ、後輩ちゃん、『あの二人、つがいだと思う』って、言ってたよね? 実は俺も、……そうなんじゃないかって思ってて。魂が深く繋がり合ってるんじゃないかって気がするんだよ。だからさ、きっと今日、悠斗は葵ちゃんと二人で、次の生に旅立ったんじゃないかと思うんだ」

 ーーーああ、そうだったなら!
 もし、本当に、そんなことが起きたのなら!
 ……なんて素敵なんだろう。
 私がしてしまったことが許される訳ではないけど、本当にそうであってほしいと心から思った。

「だからさ、会えなくて寂しい気持ちの分、後悔してる気持ちの分、願おうよ。……悠斗と葵ちゃんが生まれ変わって、幸せになれますようにって」

 声がうまく出せない私は、こくんと頷いた。

「どんな人生がいいかなぁ。……悠斗、子供の頃からずっと病弱で、我慢することが多かったんだって。……それで、余命を宣告された時、葵ちゃんの幸せのために、葵ちゃんへの想いも我慢しちゃったみたいなんだ」

 悠斗さんに、そんな事情があったとわかり、切なくて胸が締め付けられそうになる。

 すると、同期さんはイタズラっぽく笑って言った。

「だからさ、次は思いっきり健康な体に生まれて、思いっきり俺様な性格になっちゃえばいいなって思うよ」

「ふっ……」

 俺様な悠斗さんが想像できなくて、私は思わず泣きながら笑ってしまった。
 そんな私を見て、同期さんがホッとしたように微笑む。

「それでさ、我慢しないで『葵ちゃんを絶対離さない』ってさ、本音を言えるようになってほしい」

 ーーー言って欲しい。
 それで、葵先輩と、ずっと一緒にいて欲しい。

 そんな想いを込めて、私はこくこくと頷いた。

「葵ちゃんはそんなアイツを見て、ちょっとびっくりしたりしてね。……最初は気付かないかもしれない」

「ふふっ……」

 私はまた吹き出してしまった。
 嗚咽が少し落ち着いて、声が少し出せるようになった私は口を開いた。

「……確かに、そんなことに、なったら、きっと……葵先輩でも、最初は、気付けないかも、しれませんね」

「だよね!」

 直樹さんはまたイタズラっぽく笑ったあと、目を伏せてからポツリと言った。

「……でも、今度こそ、悠斗と葵ちゃん二人で、天寿を全うしてほしいな」

「……ですね。人間、なんかより……ずっとずっと、長い寿命の生き物に、生まれ変わって、今世の分も、ずっと一緒に、二人で幸せに、生きてほしいです……!」

「ははっ! 後輩ちゃん、その願い、最高! よし、じゃあ、さっそく願おうか」

 私は涙と嗚咽が止まらないまま、目を閉じて、葵先輩への愛惜と懺悔の気持ちを祈りに変えて、同期さんと一緒に願った。

 祈り終えた私たちが目を開けた時。
 ……車のフロントガラスから見えた遠くの空で、2つの光が寄り添いながら飛び立ったように見えた。
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