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0.3%のその後
【終】0.3%のお姫様 side. りん
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夕方、私の体調が良かったので、ハルくんと二人でいつもの居酒屋に行った。
女将さんに結婚と妊娠の報告をしたら、ものすごく喜んでくれた。
婚姻届の証人も快諾してくれた。開店直後で他にお客さんがいなかったこともあって、なんとその場で大将を呼んで、証人欄を書いてくれた。
女将さんが言った。
「あのね、実はワタシ、3年前にハルくんとりんちゃんが初めて話した時から、こんな日が来るんじゃないかって予感がしてたの!」
「「え?」」
女将さんはクスクス笑いながら、続けた。
「だってね、りんちゃんは、それまで男の人に話しかけられても返事すらしなかったのに、ハルくんと目が合った時は自分から『初めまして』なんて言うし。ハルくんはその日から、悪さしなくなったでしょ?」
「「え」」
「だからね、その後、ハルくんがりんちゃんに話しかけるようになって、その時は私、二人の邪魔をしないように、少しだけ離れるようにしてたの。だから、その予感が現実になって、とっても嬉しいわ!」
女将さんが、ハルくんだけは追い払わなかった謎は解けたけど。
女将さんには初めからバレバレだったとわかって、私は真っ赤になってしまった。
◇
居酒屋で夕食を食べて、女将さんと大将にたくさんお礼を言って、外に出た。
妊娠中、お酒は飲めないけど、「また夕食だけでも食べに来てね」と女将さんに言ってもらえて、体調の良い日はまた来ようと思った。
居酒屋からハルくんの家までの帰り道。
ハルくんの隣で感じる、夏の夜の匂い。
真夏の夜、ハルくんと二人、何度も何度も歩いたはずなのに。
いつも酔っ払っていたからか、こうしてハルくんの隣で夏の夜を感じるのは、初めてみたいで新鮮に思った。
そんなことを考えていると、ハルくんが自然と私の手に、自分の手を絡めた。
先週までは、外で手を繋ぐのも「誰に刺されるかわからないから嫌だ」とか何とか言って拒否してたなぁ、なんて、遠い日の出来事のように想いを馳せる。
「ねぇ、りんちゃん、体調はどう?」
「うん。昼間たくさん休ませてもらったのと、ハルくんの鉄分たっぷりパスタのおかげで、今、すごく調子良いよ」
「よかった!……じゃあさ、今から婚姻届、出しに行かない?」
「……うん。行きたい」
「え?!いいの?!」
「……ハルくんが言ったのに、何で驚くの」
「だってさ、昨日の今日で、まさかりんちゃんに『行きたい』って言ってもらえるなんて……」
「もう、ハルくん、また泣いてる」
私はクスクス笑ってしまった。
「でも、私も不思議」
「え?」
「昨日まで私、ハルくんにあんなに意地張って、全然素直になれなかったのに」
「……」
「まるで、長い間かけられてた呪いが解けた気分」
するとハルくんが、嬉しそうに言った。
「……ねぇ、俺、もしかして、りんちゃんの呪い、解いちゃったかな?」
「え?」
「王子様の俺のキスで、お姫様のりんちゃんの呪いが解けたみたいじゃない?」
「……!」
その瞬間、私も涙が込み上げて。
「そ、そうかも……」
「えへへ」
外にいるにも関わらず、二人で泣き笑いしながら、役所までの道を歩いた。
◇
役所の時間外窓口に、婚姻届を提出した。
すると、ハルくんがとっても嬉しそうな笑顔で言った。
「りんちゃん、俺たち、夫婦だね」
「うん」
「『交際1日で結婚!』ってこんな感じかな?」
「……3年間も一緒にいたし、流石にちょっと違うんじゃない?」
「あはは、確かに」
そして、ハルくんは私の方に向き直って言う。
「りんちゃん。これから、よろしくね」
「うん、ハルくん、よろしくね」
そして、ハルくんは私のお腹に向かって話しかけた。
「お腹の赤ちゃんも、パパだよ。よろしくね」
私も、自分のお腹に手を当て、話しかけた。
「ふふっ、ママだよ。よろしくね」
そして、私とハルくんは顔を見合わせ笑い合う。
こうして私たちは、家族になった。
◇
帰宅後、私より先に玄関のたたきからホールに上がったハルくんは、いかにも『王子様』な顔をして、私に手を差し出した。
「それでは、姫。お手をどうぞ」
「……既婚者で妊婦なのに、姫、でいいのかなぁ?」
私はクスクス笑いながら、その温かくて優しい手に自分の手を重ね、玄関ホールに上がる。
「うんっ、いいのっ!りんちゃんは永遠に『俺だけのお姫様』だから!」
「ふふっ。嬉しいです、『永遠の私だけの王子様』ハルくん」
「えへへ、りんちゃん。俺も嬉しい」
私はもう片方の手も、ハルくんの手に重ねて言った。
「ハルくん」
「なぁに?」
「私の呪いを解いてくれて、ありがとう」
「うん!りんちゃん……っ!」
ハルくんはそう言って、私に王子様のキスをしてくれた。
おわり
女将さんに結婚と妊娠の報告をしたら、ものすごく喜んでくれた。
婚姻届の証人も快諾してくれた。開店直後で他にお客さんがいなかったこともあって、なんとその場で大将を呼んで、証人欄を書いてくれた。
女将さんが言った。
「あのね、実はワタシ、3年前にハルくんとりんちゃんが初めて話した時から、こんな日が来るんじゃないかって予感がしてたの!」
「「え?」」
女将さんはクスクス笑いながら、続けた。
「だってね、りんちゃんは、それまで男の人に話しかけられても返事すらしなかったのに、ハルくんと目が合った時は自分から『初めまして』なんて言うし。ハルくんはその日から、悪さしなくなったでしょ?」
「「え」」
「だからね、その後、ハルくんがりんちゃんに話しかけるようになって、その時は私、二人の邪魔をしないように、少しだけ離れるようにしてたの。だから、その予感が現実になって、とっても嬉しいわ!」
女将さんが、ハルくんだけは追い払わなかった謎は解けたけど。
女将さんには初めからバレバレだったとわかって、私は真っ赤になってしまった。
◇
居酒屋で夕食を食べて、女将さんと大将にたくさんお礼を言って、外に出た。
妊娠中、お酒は飲めないけど、「また夕食だけでも食べに来てね」と女将さんに言ってもらえて、体調の良い日はまた来ようと思った。
居酒屋からハルくんの家までの帰り道。
ハルくんの隣で感じる、夏の夜の匂い。
真夏の夜、ハルくんと二人、何度も何度も歩いたはずなのに。
いつも酔っ払っていたからか、こうしてハルくんの隣で夏の夜を感じるのは、初めてみたいで新鮮に思った。
そんなことを考えていると、ハルくんが自然と私の手に、自分の手を絡めた。
先週までは、外で手を繋ぐのも「誰に刺されるかわからないから嫌だ」とか何とか言って拒否してたなぁ、なんて、遠い日の出来事のように想いを馳せる。
「ねぇ、りんちゃん、体調はどう?」
「うん。昼間たくさん休ませてもらったのと、ハルくんの鉄分たっぷりパスタのおかげで、今、すごく調子良いよ」
「よかった!……じゃあさ、今から婚姻届、出しに行かない?」
「……うん。行きたい」
「え?!いいの?!」
「……ハルくんが言ったのに、何で驚くの」
「だってさ、昨日の今日で、まさかりんちゃんに『行きたい』って言ってもらえるなんて……」
「もう、ハルくん、また泣いてる」
私はクスクス笑ってしまった。
「でも、私も不思議」
「え?」
「昨日まで私、ハルくんにあんなに意地張って、全然素直になれなかったのに」
「……」
「まるで、長い間かけられてた呪いが解けた気分」
するとハルくんが、嬉しそうに言った。
「……ねぇ、俺、もしかして、りんちゃんの呪い、解いちゃったかな?」
「え?」
「王子様の俺のキスで、お姫様のりんちゃんの呪いが解けたみたいじゃない?」
「……!」
その瞬間、私も涙が込み上げて。
「そ、そうかも……」
「えへへ」
外にいるにも関わらず、二人で泣き笑いしながら、役所までの道を歩いた。
◇
役所の時間外窓口に、婚姻届を提出した。
すると、ハルくんがとっても嬉しそうな笑顔で言った。
「りんちゃん、俺たち、夫婦だね」
「うん」
「『交際1日で結婚!』ってこんな感じかな?」
「……3年間も一緒にいたし、流石にちょっと違うんじゃない?」
「あはは、確かに」
そして、ハルくんは私の方に向き直って言う。
「りんちゃん。これから、よろしくね」
「うん、ハルくん、よろしくね」
そして、ハルくんは私のお腹に向かって話しかけた。
「お腹の赤ちゃんも、パパだよ。よろしくね」
私も、自分のお腹に手を当て、話しかけた。
「ふふっ、ママだよ。よろしくね」
そして、私とハルくんは顔を見合わせ笑い合う。
こうして私たちは、家族になった。
◇
帰宅後、私より先に玄関のたたきからホールに上がったハルくんは、いかにも『王子様』な顔をして、私に手を差し出した。
「それでは、姫。お手をどうぞ」
「……既婚者で妊婦なのに、姫、でいいのかなぁ?」
私はクスクス笑いながら、その温かくて優しい手に自分の手を重ね、玄関ホールに上がる。
「うんっ、いいのっ!りんちゃんは永遠に『俺だけのお姫様』だから!」
「ふふっ。嬉しいです、『永遠の私だけの王子様』ハルくん」
「えへへ、りんちゃん。俺も嬉しい」
私はもう片方の手も、ハルくんの手に重ねて言った。
「ハルくん」
「なぁに?」
「私の呪いを解いてくれて、ありがとう」
「うん!りんちゃん……っ!」
ハルくんはそう言って、私に王子様のキスをしてくれた。
おわり
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