【完結】0.3%の奇跡

福重ゆら

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0.3%のその後

0.3%の王子様 side. ハル

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「りんちゃんのこと、13年前からずっと好きだったから」

 俺がそう言うと、りんちゃんは目を見開いた。
 でも、すぐに怪訝そうな顔になる。

「ちょっと待って。アンタは、あのハルくんってこと?」

「うん」

「私のこと、13年前からずっと好きだったって何?『都合の良い女』と結婚して子供を産ませるために、そんな嘘までつく訳?」

「えっ?『都合の良い女』?それってりんちゃんのこと?」

「当たり前でしょ!アンタ、私のこと、『都合の良い女』だと思ってるから、私に固執してるんでしょ?」

「ううん、違うよっ!俺、りんちゃんのこと、『都合の良い女』だなんて、思ったことないよ?りんちゃんに固執してるのは、りんちゃんのこと、13年間ずっと好きだったからだよ?」

「はぁ?じゃあ何で13年前、私と待ち合わせしておいて、他に彼女作って、更に別の女と腕組んでたのよ?で、何でその10年後、週替わりで美女をお持ち帰りするに至る訳?」

「そ、それには深い理由が……」

「どういうことか洗いざらい吐いて」

 りんちゃんはドスの効いた声で凄んだ。

 その後、体調が悪いりんちゃんにはベッドに横になってもらって、俺はベッドのすぐ横で背筋をピンと伸ばして正座した。

「まず、13年前の『他に彼女作った』って話は、完全に誤解で」

「は?」

「俺、当時からりんちゃんのことが好きで、他に彼女なんかいなかったんだ!後から友達が教えてくれたんだけど、あの時『自称ハルくんの彼女』が大量発生したらしくて、たぶん、りんちゃんが聞いたのはそのうちの一人の話だったんだと思う」

「え?自称?……そんなこと、あるの?」

「驚きだよね。引っ越した先でも、俺の彼女を自称する子が勝手に噂を流してた、ってことが何度もあって。引っ越した時は、俺がいなくなるのをいいことに、『言ったもん勝ち』みたいになって大量発生したのかなと思う」

「そうなの?!……じゃあ、あれは誤解、だったんだ」

「うん。まぁ、実際に本人から嘘って言われないと、わかんないよね」

「……う、うん」

「で、『別の女と腕組んでた』って話は半分誤解で」

「え?半分って何?!」

「えっとね、そもそも俺、あの日、りんちゃんに告白するつもりだったんだ」

「……嘘でしょ?!」

「ううん、ほんとっ!でも、俺があの待ち合わせ場所に向かう途中、後をつけられてて。告白されて断ったんだけど、腕を組まれて。不意打ちだったし、俺、当時は体が小さくて力も弱かったから、されるがままになっちゃって。だから、腕を組んでたのは本当だけど、そこに俺の意思はなかった……というか本気で迷惑だった」

「そっか……」

「だけどさ、俺、あの時りんちゃんが立ち去る姿が見えたんだ。追いかけて誤解を解こうと思ったんだけど、親から引っ越し始まるって電話がきて、すぐ帰らなきゃいけなくなって。りんちゃんを追いかけれなかったんだ」

 りんちゃんは額を手で押さえて、後悔するように言った。

「……そっか、ごめん。まさかどっちも誤解だったなんて。私があの日、アンタから、ちゃんと話を聞けばよかったんだね」

「ううんっ、りんちゃんが謝ることじゃないよ!それに、その後、俺の女関係が荒れに荒れたのは、俺もりんちゃんのこと誤解したからで」

「え?」

「俺、友達から『りんちゃんが三股ヤリチン男と付き合った』って噂を聞いて、……信じちゃった」

「はぁあ?!あんな男と付き合う訳ないじゃん!」

「うん。でも俺、りんちゃんがものすごく成績良いって話も聞いてて。あのクソ男もかなり成績良くて、スポーツ万能で生徒会長までやってたから」

「ああ、そうだったっけ」

「だから、俺なんて、りんちゃんに告白したところで見向きもされないじゃんって思っちゃって。しかもアイツ手が早いのも知ってたから。りんちゃんあんな男に処女捧げちゃったんだって思ったら自暴自棄になっちゃって……」

「……」

「気付いた時には、俺の女関係が荒れに荒れてた」

「はぁ?!どうしてそうなるのよ?!」

「俺、引っ越した後、一気に身長が伸びて、更にモテるようになって。他の学校の奴らまで押し寄せてきて、毎日毎日何十人と告白されて。高校になると、1回でいいからしたいとか、空き教室やら倉庫やらに閉じ込められて関係を迫られたりとかも毎日のように起きて。りんちゃんに純粋に片想いしてた時はずっと抵抗してたけど。りんちゃんへの片想いを拗らせて抵抗を止めただけで、荒れに荒れちゃったというか……」

「……はぁ」

 りんちゃんがものすごく複雑そうな顔をした。

「という訳で、俺がクズに成り下がったのは、りんちゃんへの片想いを拗らせたからなんだ」

「……そんなの、どうやって信じろって言うのよ?」

「信じられないかもしれないけど、信じてっ!だって俺、りんちゃんと再会した瞬間から、りんちゃん以外の女は全て絶ったよ?」

 りんちゃんは複雑そうに、溜息をつく。

「……アンタ、前にもそう言ってたね」

「うん。でもね、俺、再会した時はりんちゃんに手を出すつもりはなかったんだ。だけどりんちゃんがピル飲んでるの見て……」

「中出しできると思って、手を出そうって思った訳?」

「ううん。りんちゃんは男性不信なのに、避妊してるってことは変な男に捕まってるんだと思った」

「はぁ?!」

「それで、変な男に捕まってるぐらいなら、クズな俺が相手でも良くない?って思って」

「……」

 りんちゃんが呆れた顔で俺を見る。

「変な男より、りんちゃんのこと大好きな俺の方が、よっぽどりんちゃんを幸せにできると思った。気持ち良くなったことないって言ってたから、気持ち良くしてあげたいって思った。でも、りんちゃんが処女ってわかって、ピルが治療にも使われるって知って、変な男に捕まってるって思ったのは誤解だってわかったけど……」

「……てっきり、ピル飲んでるなら誰でもいいのかと思ってた」

「ええっ?!違うよぉ!俺、初めての時、りんちゃんに告白したじゃん!」

「うん。エッチを盛り上げるために、全員に言ってるんだと思った」

「ううんっ!まさかっ!りんちゃん以外に『好き』も『付き合って』も言ったことないよっ?」

「……ふぅん?」

 りんちゃんは怪訝そうな顔で俺を見る。

「それにさ、りんちゃんに初めて振られた時、俺、ピルの避妊効果が100%じゃないってことを思い出して。だから、付き合ってもらえなくても、デキたら結婚してくれるかなって思って。俺、初めてゴム付けなかったんだ」

「はぁ?私と結婚するために、デキ婚狙ったってこと?!アンタ、子供を何だと思ってるの?!」

「うぅっ、それを言われると辛いけどっ!でも、俺とりんちゃんの子供が欲しかったのも本当の気持ちでっ!」

  「それで、0.3%なんていう奇跡みたいな数字に賭けてたの?アンタ、本当に、バッカじゃないの?!」

「うん、俺、本当にバカだったと思う。でも、りんちゃんを手に入れたくて必死だった」

「……私、アンタが私に固執するのは、『呼び出したら必ず来る、誘えば必ずヤレる、中出しOKの、勘違いしない、都合の良い女』だからかと思ってた」

「えええええ!確かに『生でヤりたいからりんちゃんに固執してる』と思われてる気はしてたけど。まさかそんな風に思ってたなんてっ!」

「で、女遊びは続けたいけど子供が欲しいから、『都合の良い女』の私に産ませたいのかと思ってた」

「違うよぉおおお!りんちゃんだから結婚したくて、俺とりんちゃんの子供だから欲しかったんだよ?」

「……そっか、ごめん。誤解してた」

「いや、誤解してもしょうがないぐらいクズだった俺が悪いんだけど」

「……」

「でもさ、俺、この13年間、拗らせてたけど、俺の心はずっとりんちゃんだけを見てたし、りんちゃんだけのものだった。それにこの3年間は、俺、完全にりんちゃんだけを見てたし、りんちゃんだけのものだったよ」

「……え」

 りんちゃんは息を呑む。
 前に、りんちゃんが言った『王子様』の条件。
『私だけを見てくれて、私だけの物になってくれる人』。

 ねぇ、りんちゃん。俺にも当てはまらない?

「俺さ、13年前、りんちゃんのこと勝手に諦めて、クズに成り下がったこと、ものすごく後悔したんだ。だから、今度こそ、後悔したくない。……ねぇ、りんちゃん」

 俺はりんちゃんの瞳をまっすぐ見つめて言った。

「俺を、りんちゃんだけの王子様にしてよ」

「……!」

 りんちゃんは目を見開いた後、俺から目を逸らして、黙り込んでしまった。

 ……やっぱり、クズじゃダメ?

 りんちゃんは、ふぅとため息をつき、目を瞑って考え込む。

 ……まずい。
 キス待ちの顔に見える。
 絶対そんなタイミングじゃないのに。

 でも。

 か、可愛い……!

 俺はフラフラ~ッとりんちゃんに吸い寄せられた。
 至近距離まで顔を近付けたところで。

 瞼を開けたりんちゃんと目が合った。

「バカッ!人が真剣に考えてる時に、何してるのよ!」

「ふぎゅっ」

 りんちゃんは左手で俺の顔を押した。
 その手のひらが俺の唇に当たって。
 俺はその華奢な手を思わず握る。

 りんちゃんが目を見開く。

 その瞬間、俺の脳裏に浮かぶとある映像。

 そうだ。そうだよ。王子様といえば、アレだ。

 俺は正座の状態から片膝を立てて、跪くポーズをとる。
 りんちゃんの左手を握り直し、手の甲を口元に寄せる。
 めいっぱい『王子様っぽい顔』を作って、りんちゃんを見つめた。

「姫。私を、姫だけの王子にしてください」

 俺は目を瞑って、りんちゃんの手の甲に口付けた。

 跪いて、姫の手の甲にキス。
 俺の中の王子様なイメージ。

 ねぇ、りんちゃん。俺、王子様みたいじゃない?

 クズが何やってんの?!ってりんちゃんには一蹴されちゃうかな。

 恐る恐る、瞑っていた目を開けると。

 ……りんちゃんの顔は真っ赤だった。

 りんちゃんのそんな顔、初めて見た!
 うわぁ!すっごく可愛い!

 りんちゃんは俺から目を逸らす。
 そして、ものすごく不服そうに、言った。

「……わかった。いいよ」

「本当?!」

「うん。……そもそもは、13年前、私がアンタの話を聞かずに帰ったのが悪かった訳だし……」

「ううんっ!りんちゃんが悪いなんて思う必要はないけど……!でも、俺、嬉しい。嬉しいよっ……!!!」

 俺は嬉しくて、嬉しすぎて、思わずりんちゃんをお姫様抱っこした。
 腕の中のりんちゃんが呆れて言う。

「アンタ、また泣いてるの?」

「だって!……13年間の片想いが、やっと、実ったんだもん」

「……ふぅん」

 りんちゃんは真っ赤なまま、俺の涙を拭ってくれた。

 真っ赤なりんちゃん、ほんと可愛い!キスしたい!
 俺はもう一度、王子様っぽい顔で、りんちゃんを見つめた。

「ねぇ、姫。私に、永遠の愛を誓うキスを、お許し願えませんか?」

「……!」

 りんちゃんの顔がますます赤くなる。
 そして視線を泳がせて、ものすごく小さな声で言った。

「……いいよ」

 キスを許してもらえただけで、俺は最高に幸せな気持ちになったのに。
 りんちゃんが更に小さな声で言った言葉は、更に俺を幸せにした。

「……ハルくん」

「りんちゃん……!」

 俺はりんちゃんと、初めて、キスをした。
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