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第一章
三話
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真っ暗になったと思った世界は一転、眩さを覚える程の白一色に変わった。
そして次に白い床には緑が敷き詰められ、ポツポツと炎が灯されるよう、彼岸花が咲き乱れる。
褪せた鈍色の墓標が不規則に並ぶ。
「日向くん、本気でやるつもり?」
肩まで伸びた黒髪、覇気のない蒼い瞳をした女性が、俺を見上げながら諭す。
「うん、暴走した能力者をこれ以上、野放しにはできないからね」
「そう……わかったわ。でもこれだけは覚えておいて……絶対生きて帰ること、遠慮無く私の異能を頼ってちょうだい」
力のない蒼い瞳に宿る、煌々と光る粒子を見せながら女性は俺の手を握る。
「大丈夫だよ。僕の『ガバメント・ライセンス』は、どんな人間も従わせる最強の異能だから」
そう言って俺は腰に携えた二挺の自動拳銃──M1911A1をCQCホルスターから引き抜く。
俺の顔が映るほどに磨き上げられた、銀白色の銃身を覗き込む。そこには俺の知る俺の顔は無い。
いや、正確には俺に似た誰かの顔だ。
髪の色、肌の色、顔の形、目元口元、鼻、その全てが俺に似てるが少しだけ違う──そして最も違うのはその瞳、俺は死んだ魚の目みたいな汚いダークブラウンだが、銃身に映る俺は違った。
エメラルドのように清く鮮やかな緑の瞳に、虹彩に宿した黄色い光。
異能──俺の知らないワード。
傍らの女性──俺の知らない人。
俺であって俺ではない。ならば俺は何者なんだ?
****
よく漫画なんかで、知らない天井がって表現があるが、まさにそれだ。
いつも見上げる下品な照明ではなく、普通のLED電灯。座り心地の良い革張りのソファーを、広々と使って寝ていたらしい。
ジクジク傷んでいた腹の傷は、綺麗に縫合されているのか、違和感こそあれ痛みはなく、丁寧に包帯で保護されている。
辺りを窺おうとして身を起こすと不意に視線を感じた。
「おっと……あんまり早く動くなよ? 殺すぞ?」
見ると俺の眠っていたソファーの差しに座る、ゴールドリングのピアスを着けた男が俺に銃を向けている。
ツンツン頭の短い金髪、ピアスに袖まくりした右腕に堂々と彫られた黒単色のトライバルタトゥーが入った男が、自動拳銃を握っていた。
「あんたが俺を助けたのか?」
俺の素朴な質問に、男はゲラゲラ爆笑する。
「ハハハ! 俺がオメェみてぇなガキ助けるかよッ!」
爆笑する男に気をとられていると、不意に肩を叩かれ驚いた。
「うわっ!!」
「あ、ごめんね? 驚かせるつもりは無かったんだけど……」
俺の肩を叩いたのは、俺と年も変わらないような女の子だ。
陽気な笑顔に不釣り合いな、左頬の大きな火傷痕が痛々しく、手にもっていたマグカップを俺に渡すと、ヒクつく火傷痕を軽く撫でてていた。
渡されたマグカップからほんのり湯気が立っており、甘い匂いに誘われて飴色の飲み物を一口啜る。
「安心してね? 毒は入ってないから……ってもう飲んじゃってるか、えへへ♪」
「パンピーは警戒心ってヤツがねぇーな! バカだよバーカ! 平和ボケかよ。へへッ」
男の嫌味にムッときた俺が睨むと、すかさず火傷の女が男の頭を叩いた。
「ごめんね恭助くん、ジュンは単純でアホだから……」
「いってぇ……」
頭をポリポリ掻きながら火傷の女を睨む男は、マグカップを受け取ると、さっきまで「殺す」とか言ってたくせに、簡単に拳銃をテーブルに置いた。
「あ、自己紹介まだだったね! 私は久世千佳久しい世で久世、千代の千に佳麗の佳で千佳……よろしくね!」
「あぁ、身を削るような自虐だな……」
顔半分に火傷を負いながら、美しく整っているとは……思わずツッコミをいれてしまった。
久世が左の頬をさすり、苦々しげに口角を吊り上げて笑う。
「あはは……そんなつもりじゃ無かったんだけどね……」
「あ、いや……すまん。つい……俺は日向 恭一だ」
って思わずいつものクセで偽名を名乗ったが、さっき久世が俺の名前を呼んでたってことは、俺の本名を知ってるのか。
「あ? なんで偽名なんて名乗ってんだ?」
「事情があるんでしょ! この空気読めない人は、佐野 純也、私と同じ19歳だよ」
ゲッ4つも年上だったのか。
「よ、よろしく……」
俺の会釈に鼻を鳴らすだけで目も合わせない、佐野とか言ったがコイツの事は好きになれそうにないな。
そして次に白い床には緑が敷き詰められ、ポツポツと炎が灯されるよう、彼岸花が咲き乱れる。
褪せた鈍色の墓標が不規則に並ぶ。
「日向くん、本気でやるつもり?」
肩まで伸びた黒髪、覇気のない蒼い瞳をした女性が、俺を見上げながら諭す。
「うん、暴走した能力者をこれ以上、野放しにはできないからね」
「そう……わかったわ。でもこれだけは覚えておいて……絶対生きて帰ること、遠慮無く私の異能を頼ってちょうだい」
力のない蒼い瞳に宿る、煌々と光る粒子を見せながら女性は俺の手を握る。
「大丈夫だよ。僕の『ガバメント・ライセンス』は、どんな人間も従わせる最強の異能だから」
そう言って俺は腰に携えた二挺の自動拳銃──M1911A1をCQCホルスターから引き抜く。
俺の顔が映るほどに磨き上げられた、銀白色の銃身を覗き込む。そこには俺の知る俺の顔は無い。
いや、正確には俺に似た誰かの顔だ。
髪の色、肌の色、顔の形、目元口元、鼻、その全てが俺に似てるが少しだけ違う──そして最も違うのはその瞳、俺は死んだ魚の目みたいな汚いダークブラウンだが、銃身に映る俺は違った。
エメラルドのように清く鮮やかな緑の瞳に、虹彩に宿した黄色い光。
異能──俺の知らないワード。
傍らの女性──俺の知らない人。
俺であって俺ではない。ならば俺は何者なんだ?
****
よく漫画なんかで、知らない天井がって表現があるが、まさにそれだ。
いつも見上げる下品な照明ではなく、普通のLED電灯。座り心地の良い革張りのソファーを、広々と使って寝ていたらしい。
ジクジク傷んでいた腹の傷は、綺麗に縫合されているのか、違和感こそあれ痛みはなく、丁寧に包帯で保護されている。
辺りを窺おうとして身を起こすと不意に視線を感じた。
「おっと……あんまり早く動くなよ? 殺すぞ?」
見ると俺の眠っていたソファーの差しに座る、ゴールドリングのピアスを着けた男が俺に銃を向けている。
ツンツン頭の短い金髪、ピアスに袖まくりした右腕に堂々と彫られた黒単色のトライバルタトゥーが入った男が、自動拳銃を握っていた。
「あんたが俺を助けたのか?」
俺の素朴な質問に、男はゲラゲラ爆笑する。
「ハハハ! 俺がオメェみてぇなガキ助けるかよッ!」
爆笑する男に気をとられていると、不意に肩を叩かれ驚いた。
「うわっ!!」
「あ、ごめんね? 驚かせるつもりは無かったんだけど……」
俺の肩を叩いたのは、俺と年も変わらないような女の子だ。
陽気な笑顔に不釣り合いな、左頬の大きな火傷痕が痛々しく、手にもっていたマグカップを俺に渡すと、ヒクつく火傷痕を軽く撫でてていた。
渡されたマグカップからほんのり湯気が立っており、甘い匂いに誘われて飴色の飲み物を一口啜る。
「安心してね? 毒は入ってないから……ってもう飲んじゃってるか、えへへ♪」
「パンピーは警戒心ってヤツがねぇーな! バカだよバーカ! 平和ボケかよ。へへッ」
男の嫌味にムッときた俺が睨むと、すかさず火傷の女が男の頭を叩いた。
「ごめんね恭助くん、ジュンは単純でアホだから……」
「いってぇ……」
頭をポリポリ掻きながら火傷の女を睨む男は、マグカップを受け取ると、さっきまで「殺す」とか言ってたくせに、簡単に拳銃をテーブルに置いた。
「あ、自己紹介まだだったね! 私は久世千佳久しい世で久世、千代の千に佳麗の佳で千佳……よろしくね!」
「あぁ、身を削るような自虐だな……」
顔半分に火傷を負いながら、美しく整っているとは……思わずツッコミをいれてしまった。
久世が左の頬をさすり、苦々しげに口角を吊り上げて笑う。
「あはは……そんなつもりじゃ無かったんだけどね……」
「あ、いや……すまん。つい……俺は日向 恭一だ」
って思わずいつものクセで偽名を名乗ったが、さっき久世が俺の名前を呼んでたってことは、俺の本名を知ってるのか。
「あ? なんで偽名なんて名乗ってんだ?」
「事情があるんでしょ! この空気読めない人は、佐野 純也、私と同じ19歳だよ」
ゲッ4つも年上だったのか。
「よ、よろしく……」
俺の会釈に鼻を鳴らすだけで目も合わせない、佐野とか言ったがコイツの事は好きになれそうにないな。
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