👨👨❓️❓️四人用声劇台本「岐路」

岐路

【ドアを開ける効果音・カランコロン】
ママ｢いらっしゃ～い。あら、あなた初めてよね？こちらにどうぞ。何注文する？｣

田中｢(前半は疲れきった感じで)あっ、じゃあビールください｣

ママ｢くみちゃ～ん。瓶ビール持ってきてちょうだい！｣

くみ｢は～い、ママ！これでいいかしら？｣

ママ｢(くみに言っている風なので、マイクから少し離して小さめに言う)もうっ、ダメじゃないの！何度言ったら分かるのっ！このビールは鈴木さん専用のビールっ！！鈴木さん以外はシルバーのラベルのビールよ！｣

ママ｢(田中に言うのでマイクの距離は元通りに)本当ごめんなさいねっ。くみちゃん、昨日入ったばっかりの新人なの。大目に見てあげてね｣

くみ｢すみません。お待たせしました。はい、ママ｣

ママ｢ありがとう｣

【瓶ビールの栓を抜き、注ぐ効果音】
ママ｢それじゃ、お疲れ様。乾杯｣

田中｢乾杯｣

【グラスを合わせる音】【ゴクゴクと飲む効果音】
田中｢(ビールを飲んで)ぷはー｣

ママ｢ちゃんと確認してなかったけど、ここに来るのは初めてよね？｣

田中｢は、はい。こういう所自体初めてで、正直、緊張しています｣

ママ｢そうよね？初めてよね？こんなイケメン、一度見たら忘れないもの！初めて来たお客さんにはね、サービスで手相占いやってるの！良かったら手相見せてくれないかしら？｣

田中｢あっはい｣

ママ｢本当に緊張してるのね、手汗で手のひらがビッチョリ。(くみに言う感じで)くみちゃん！おしぼりひとつ持ってきてちょうだい｣

くみ｢はーい、(間)どうぞ！｣

田中｢ありがとうございます｣

ママ｢あっお名前と年齢、聞かせてもらってもいいかしら？｣

田中｢あっ田中って言います。24才です｣

ママ｢田中さんね、じゃあ改めて手相見させてもらうわね！(田中の手相を見て)うーん、そうねぇ。24才よねぇ、ちょうど今分岐点にいるみたい。今の仕事に満足しているのかしら？今のままで良いならそれでも良いけど？｣

田中｢えっと、就職してから職場と家の往復の毎日で。このまま、つまらない人生で終わってしまうのかなって思い始めてて。たまには寄り道でもしてみようかなって思って入ってみた、ってわけです｣

ママ｢そうなのぉ。何か趣味とか好きな物とか熱中できるものとかは無いのかしら？｣

田中｢うーん、休みの日はほとんど家でゴロゴロするだけですね｣

ママ｢何か熱中出来るものがあれば良かったのにねぇ。運命線が途切れてるのよね｣

くみ｢ママ！松本さんて方がママに会いに来てくれたって言ってるんだけど｣

ママ｢松本さんね！分かったわ。すぐ行くって伝えてちょうだい｣

くみ｢はーい｣

ママ｢ごめんなさいね。昔からお世話になってる人なの。少し話してくるわね！田中さん、ゆっくりしていってね。くみちゃん、私が戻るまで田中さんとこについててくれる？｣

くみ｢はーい｣

鈴木｢おっ！にいちゃん、見ない顔だねぇ。初めてかい？｣

田中｢はい｣

鈴木｢俺はほとんど毎日この店に来てる鈴木って言うんだ、よろしくなっ！｣

田中｢あっはい、こちらこそよろしくお願いします。田中って言います｣

鈴木｢おお田中君か。なんだい、ビールがあんまり進んでないみたいだな。俺が1本おごってやるよ！｣

田中｢いやー、それは悪いですって｣

鈴木｢いいの、いいのっ！ここで会えたのも何かの縁。乾杯しようじゃないかっ！｣

田中｢は、はぁ｣

鈴木｢くみちゃん！こっちに、このにいちゃん用のビール、1本持ってきてくれるかな｣

くみ｢はーい！(間)どうぞ！｣

鈴木｢ありがとう。じゃあ乾杯しよう！この出会いに乾杯｣

田中｢乾杯｣

鈴木｢それで、にいちゃんはこの店、どうやって見つけたんだ？｣

田中｢あっそれはですね、ここって最寄り駅から家に帰る途中で通る道なんですよ。通るたびに笑い声とか歌声が聞こえてて、楽しそうだなって気にはなってたんです｣

鈴木｢そっかぁ。実際入ってみてどうだい？｣

田中｢はい、ママさんはとっても聞き上手で話しやすいですね｣

鈴木｢うんうん。そうだろ！あれ？何か食べたか？｣

田中｢いえ、実はまだ何も…｣

鈴木｢そうか。ここの料理は全部うまいけど、唐揚げは特にうまいぞ！俺はママの料理が好きで通ってるんだ｣

田中｢そうなんですかぁ。それじゃあ鈴木さんのオススメの唐揚げ、食べてみようかな｣

(間)
ママ｢ごめんなさいねぇ。あっ鈴木さんも田中さんのお相手してくれてたのね！話が盛り上がってたみたいだけど、何話してたのかしら？｣

鈴木｢あぁ、ここの唐揚げが絶品だって、にいちゃんにすすめてたんだ。なぁ？にいちゃん｣

田中｢はいっ！是非食べてみたいです！｣

ママ｢あらっ、嬉しい事言ってくれるわね！じゃあ唐揚げ作ってくるから少し待っててね｣

田中｢はい｣

鈴木｢にいちゃん、なんか疲れてそうだなー｣

田中｢はぁ。やっぱりそう見えますか｣

鈴木｢まぁ飲め飲め！今日は俺が付き合ってやるよ！｣

田中｢ありがとうございます｣

鈴木｢で、にいちゃんは彼女とか嫁さんはいないのか？｣

田中｢えぇ、全く出会いが無くて。彼女も奥さんもいないんですよね｣

鈴木｢理想が高いんじゃないのか？｣

田中｢いえ～、そんな事はないと思うんですけど…｣

鈴木｢嫁さんにするんだったら、ここのママみたいに料理上手な人がいいぞ！｣

田中｢あっ、はい！｣

鈴木｢今の話はママには内緒だからな！｣

(間)
ママ｢な～に二人でコソコソ話してるのよぉ？さっ！唐揚げ出来たわよー｣

田中｢(感動した感じで)うわぁ～お肉がおっきくて美味しそうっ！さすがにこれひとりで食べきれそうにないから鈴木さんも一緒にどうです？｣

鈴木｢えっいいの？実は、唐揚げの話してたら俺も食べたくなってさ。じゃあ、ありがたく頂くとするよ｣

田中｢いただきます。(揚げたてを口に入れて熱い様子)ほっほっあっつい！(モグモグ味わってる感じで)う～ん。肉汁がすごいジューシー！こんなおいしい唐揚げ食べたの初めて！｣

鈴木｢そうだろうっそうだろうっ！絶品って言ったの、ウソじゃないだろ？｣

田中｢はいっ！唐揚げがこんなにおいしいなら、他のもおいしそうっ！ママの得意料理が食べたいです！｣

ママ｢アタシの得意な料理？そうねぇ。鈴木さんが毎回褒めてくれる厚焼き卵なんてどうかしら？｣

鈴木｢おぅ！厚焼き卵も絶品だぞ！｣

田中｢それじゃあ厚焼き卵もください！｣

ママ｢分かったわ！｣

田中｢鈴木さんて本当にママの料理好きなんですね？｣

鈴木｢そうだな！毎日食べても飽きないんだよなぁ。あとママは新しい物好きだから、結構流行り物の試作もよく食べさせてくれるんだよな｣

田中｢へー。そうなんですか｣

ママ｢お待たせ～はい！厚焼き卵｣

田中｢これまたおいしそうっ！いただきます！(食べてる感じで)うんっうん！うぁ～おいしいっ！ふわっふわでトロっトロ！甘い味付けなんですねっ！俺、甘い卵大好きなんです！！鈴木さんが通うのも納得しました！今日は来て本当に良かったです！｣

ママ｢田中さんのお口に合ったのなら良かったわぁ！｣


くみナレーション｢しばらく経ったある日の事。店の前で客を見送るくみを見つける｣

田中｢(ここからハキハキした口調で)こんにちは！お久しぶりです！｣

くみ｢こんにちは！あっ！前にいらした方ですよねっ？名前は、え～っと…｣

田中｢田中です。一度来ただけなのに覚えててくれたんですね！嬉しいです｣

くみ｢だっ、だってイケメンでタイプだったから忘れませんよ！｣

田中｢またまたぁ。男のお客さんみんなに言ってるんでしょ？｣

くみ｢まっまさか！こんな事言ったの田中さんだけですよ、恥ずかしい！｣

田中｢あっ、お店入っていっちゃった…ママいるか聞きたかったんだけどな｣

【カランコロンとドアを開ける効果音】
田中｢こんにちはー｣

ママ｢いらっしゃ～い。あらぁ、久しぶりじゃない？元気してた？｣

田中｢あっ覚えててくださったんですね？ありがとうございます！ご無沙汰しております。田中です｣

ママ｢そうそうっ！田中さん！さっ！座って！｣

田中｢はい｣

ママ｢ビールでいいかしら？｣

田中｢はい！｣

ママ｢くみちゃーん、瓶ビール持ってきてちょうだい｣

くみ｢はーい｣

ママ｢ありがとう。それじゃ乾杯しましょ！乾杯｣

田中｢乾杯｣

ママ｢前来てくれた時もイケメンだったけど、短髪でさらにイケメンになったんじゃない？｣

田中｢(照れた感じで)えへへ、そうですかね｣

ママ｢そうよー！あれから全然来てくれなかったから、元気してるのかしらって思ってたのよー｣

田中｢そうだったんですか？それは嬉しいです！ここでママの手料理食べて感動したんです！料理って本当に素晴らしいなって！あれからすぐに仕事を辞めて、調理の専門学校に通い始めたんです｣

ママ｢そうだったの！！それで短髪なのね！良く似合ってるわよ！｣

田中｢そうですか！ありがとうございます｣

ママ｢それで今日は近況報告をしに来てくれたの？｣

田中｢あっそれもあるんですけど、今度、新入生歓迎会の時に厚焼き卵を作る担当になりまして。毎日寮で練習してるんですけど、今の自分の実力をママに見てもらいたくて厚焼き卵を持って来ました。これです｣

ママ｢あらぁ、とっても綺麗にできてるじゃないの？！それじゃあ頂くわね！(食べる感じで)わっ！おいしい！！これっ本当に田中さんが作ったの？｣

田中｢はい！さっき作って来ました。ありがとうございます！｣

ママ｢スゴいわっ！味もそうだけど、前よりもずっとハキハキしてるし、キラキラしてるわ！本当に見違えたわね｣

田中｢ありがとうございます！ママのおかげで熱中出来るものができました！本当に感謝してます！ありがとうございます！！｣

ママ｢なんか照れるわねぇ。アタシはいつもと変わらずに料理を出しただけなのに｣

田中｢いいえっ！俺にとって、ここに来た事が人生の分岐点だったって思ってるんです。あの時、ここに来てなかったら、今も会社と家の往復だけの毎日だったと思います｣

ママ｢それなら良かったわ。手相に出てたのよねぇ。運命線が途切れてたのはこういう事だったのね。あっ！うちもね、あれからくみちゃんが頑張ってくれてるのよっ。くみちゃんがね、ママの料理をもっと大々的にアピールした方が良いって言うからお昼限定でお弁当始めたのよ！｣

くみ｢ママのお弁当、毎日日替りにしてて栄養と、彩りの配色を考えて盛り付けにもこだわってるんですよ。毎日『インスタ』にupしてて、『インスタ』でこのお店を知ってくれる人が増えたんです｣

ママ｢そのおかげで、料理目当てに夜来てくれるお客さんも増えたのよ！｣

田中:｢そうだったんですか！そう言われてみれば、まだ早い時間なのにお客さんたくさんいますもんね！くみちゃんも頑張ってるんだなー。あっ！鈴木さんは今もお店に来てるんですか？｣

ママ｢鈴木さんなら今日も来てるわよ、あそこに｣

田中｢あっ本当だ！じゃあ鈴木さんにもあいさつしてきますね｣

ママ｢分かったわ｣

田中｢鈴木さん！ご無沙汰してます。以前、初めてここに来た時ビールをご馳走になった田中です｣

鈴木｢あー！あん時のにいちゃんか！いやぁ雰囲気変わったから気が付かなかったよ。元気してたか？｣

田中｢お陰さまで。今は調理の専門学校に通ってるんです｣

鈴木｢えっ本当？それは驚いたなー｣

田中｢鈴木さんがママの手料理をオススメしてくれてなかったら、今の俺はいないですよ。本当に感謝してます｣

鈴木｢おおげさだなー｣

田中｢おおげさなんかじゃないですよ！今日はお礼としておごらせて下さいっ！｣

鈴木｢おっありがとうよ。じゃあビール貰おうかな｣

田中｢はい。(→大きい声で)すみませーん！ビールくださーい！｣

鈴木｢にいちゃん、すっかり声も出せるようになって、すごい変わったなぁ｣

田中｢そうですかね？前の俺ってそんなにダメな感じでした？｣

鈴木｢今だから言えるけど、負のオーラだらけ、って感じだったぞ｣

田中｢そんなにひどかったんですね｣

(間)
くみ｢はい、どうぞ。(ママに呼ばれた感じで)あっ、はぁ～い、ママ！田中さんゆっくりしていって下さいね｣

田中:｢あっはい。あー行っちゃった。くみちゃんともう少し話したかったなぁ。(間)鈴木さん、ビールお注(つ)ぎしますよ！｣

【ビール瓶の栓を抜き、ビールを注ぐ効果音】

鈴木｢悪いねぇ。またにいちゃんと酒が飲めるとはねぇ。俺も嬉しいよ｣

田中｢俺、専門学校を卒業してから、いずれは自分の店を持ちたいって思ってるんです。いつになるかは分からないけど、その時は鈴木さんとママとくみちゃんを一番最初のお客さんとして招待したいなって｣

鈴木｢そか。それならママとくみちゃんにも直接言った方が喜んでくれると思うぞ｣

田中｢あっはい｣

鈴木｢ママとくみちゃん、ちょっといいかな？｣

ママ、くみ｢はぁーい｣

鈴木｢田中さんがな、ママとくみちゃんに伝えたい事があるんだとよ｣

くみ｢えっ何？｣

ママ｢何かしら？｣

田中｢あの、今調理の専門学校に通ってるんですけど、いずれは自分の店を持って、ママとくみちゃんと鈴木さんを一番最初のお客さんとして招待するのが、今の夢なんです！｣

ママ｢まぁ素敵！｣

くみ｢(拍手)わぁ行きたい！！｣

田中｢いつになるか分かりませんが、今以上に精進(しょうじん)して頑張ります！！｣

ママ｢夢が実現すると良いわね！うちも、田中さんに負けずに頑張らなくちゃね、くみちゃん？｣

くみ｢はい！私も頑張ります！｣

鈴木｢俺もそれまで元気にここ通うわ｣

田中｢あっ！ママの唐揚げ、久しぶりに食べたいです！｣

ママ｢分かったわ！｣

ーENDー