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71~最終話

【終】噂の真偽【中】

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 甘い芳香とともに厨房から出てきたおじいちゃんが手にしていたのは、ひと抱えもありそうな大きな大きなケーキだ。

 おおー、と歓声が上がる。
 平たい円形のケーキは、全面シュガーペーストに覆われて雲のように真っ白で、上には砂糖細工で作られた精巧な花々が飾られている。

「すごく綺麗……。今まで見たどんなケーキよりも素敵だわ」

「いいもん用意してやれんのはパン屋の特権だ」

 テーブルの中央に空けてあったスペースでは広さが足りず、奥さんたちが手早く料理の皿を端に寄せてくれて、ケーキの載った大皿が置かれた。

 大きなケーキに隠されて縁しか見えない大皿は、どこか懐かしく、見覚えがあるようで……。

「このお皿って、もしかしてお父さんの?」

「でけぇ皿がこれしかなかっただけだ」

 ふいと顔を背けるおじいちゃんの横顔を見て、偶然ではないと確信を持つ。
 ――いつか見た夢のようだ。


 十一年前のあの日――両親の死の知らせを受けた日、何もかもを失ったはずだった。
 思い出も、幸せも、未来も、居場所も。
 受け止めきれないほどの悲しみは真っ暗な塊となって音もなく背後に迫り、いつだって私を呑み込もうと待ち構えていた。
 それが故郷を出てきた先で、こんなにも素敵な縁に恵まれるなんて。

 見渡せば、大好きな人たちのたくさんの笑顔。
 おじいちゃんがいて、ヨルグがいて、大事なお店があって。両親はいなくても、こうして今、心から祝福してくれる人たちに囲まれている。

「そら、みんな乾杯を待ってるぞ」

 おじいちゃんが手にしたグラスを掲げる。
 胸がいっぱいでヨルグを見上げると、すべてを包み込むような優しい眼差しが返ってきた。

「きっ……今日は、私たちのために集まってくれてありがとうございます! 大好きなみんなにお祝いしてもらえて、とっても嬉しくて、私……っ」

「ほらほら頑張って!」
「泣いたらメイクが落ちちゃうわよ!」

 きゅっと唇を引き結び、潤む目をパシパシと強く瞬く。

「っ――間違いなく人生で一番幸せな日よ! みんなありがとう! 乾杯っ!」

「「「乾杯!!」」」

 グラスを合わせる軽やかな音が響き、ガヤガヤとパーティーが始まった。
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