211 / 213
71~最終話
【終】噂の真偽【上】
しおりを挟む
「リズ……、父が酷いことを言ってすまなかった」
「ふふっ、実は庶民って『庶民だ』って言われても気にならないんですよ。だから大丈夫です! おじいちゃんのパンを悪く言われたら怒ってましたけどね!」
「俺は果報者だ」
グッと肩を抱き寄せられ、ヨルグの熱い眼差しを頭頂部に感じながらお店へと戻る。
先ほど奥さんたちに『セットが乱れる』と注意されたからか、抱きしめたいのを我慢してくれているようだ。
ヨルグのお父さんとの対面で気が張っていたこともあり、ふぅ、と一仕事終えたような気持ちでお店のドアをくぐった。
――瞬間、目の前に降り注ぐ鮮やかな色の欠片。
「「「リゼットちゃん、隊長さん、ご結婚おめでとうーーー!」」」
「!!」
おでこや鼻先をやわらかく撫で落ちていく色の正体は、高く放られた色とりどりの花びらだ。
「本当におめでとう! 二人ともお似合いだわ!」
「いつの間にかリゼットちゃんもこんなに大きくなって。娘を嫁にやる気分だよ」
「隊長さんはさすが人を見る目があるよなぁ!」
口々に贈られるお祝いの言葉。
やりかけで出てきてしまったテーブルセッティングもすっかり整えられて、あとはパーティーの開始を待つばかりとなっている。
「さあさ、主役はこっちこっち!」
「準備はバッチリ終わらせておいたわよ!」
「隊長さんが置いてった料理も並べといたからね!」
たくさんの寿ぎや抱擁を受けながら、ヨルグは『任せたぞ!』と肩や腕をバシバシと叩かれながら。グラスを手渡され、ドアの対面――いつもはカウンターを置いている位置へと誘導された。
帯状の布や花で飾りつけられた壁、テーブルの上にずらりと並べられた料理や焼き菓子。店内いっぱいに充満する美味しそうな香りに、コクリと喉を鳴らす。
一角には酒樽が置かれ、ちゃっかりとその隣に陣取ったおじさんたちはすでに熟れたリンゴのような顔をしている。
ふとドアのほうを見れば、ずっと気配を潜めていたのだろうか、目ぼしいパンを袋に詰めた王子が乾杯のジェスチャーをしながら出ていくのが見えた。
ヨルグも椅子の背に引っ掛けていたマントを羽織って正装になる。前髪を上げていることもあり、格好よすぎて目のやり場に困ってしまう。
「おぅーい、みんな揃ったぞ! ガファスの旦那はまだかよぉ!?」
「今出来たところだ。ったく、黙って待てねぇのか」
「ふふっ、実は庶民って『庶民だ』って言われても気にならないんですよ。だから大丈夫です! おじいちゃんのパンを悪く言われたら怒ってましたけどね!」
「俺は果報者だ」
グッと肩を抱き寄せられ、ヨルグの熱い眼差しを頭頂部に感じながらお店へと戻る。
先ほど奥さんたちに『セットが乱れる』と注意されたからか、抱きしめたいのを我慢してくれているようだ。
ヨルグのお父さんとの対面で気が張っていたこともあり、ふぅ、と一仕事終えたような気持ちでお店のドアをくぐった。
――瞬間、目の前に降り注ぐ鮮やかな色の欠片。
「「「リゼットちゃん、隊長さん、ご結婚おめでとうーーー!」」」
「!!」
おでこや鼻先をやわらかく撫で落ちていく色の正体は、高く放られた色とりどりの花びらだ。
「本当におめでとう! 二人ともお似合いだわ!」
「いつの間にかリゼットちゃんもこんなに大きくなって。娘を嫁にやる気分だよ」
「隊長さんはさすが人を見る目があるよなぁ!」
口々に贈られるお祝いの言葉。
やりかけで出てきてしまったテーブルセッティングもすっかり整えられて、あとはパーティーの開始を待つばかりとなっている。
「さあさ、主役はこっちこっち!」
「準備はバッチリ終わらせておいたわよ!」
「隊長さんが置いてった料理も並べといたからね!」
たくさんの寿ぎや抱擁を受けながら、ヨルグは『任せたぞ!』と肩や腕をバシバシと叩かれながら。グラスを手渡され、ドアの対面――いつもはカウンターを置いている位置へと誘導された。
帯状の布や花で飾りつけられた壁、テーブルの上にずらりと並べられた料理や焼き菓子。店内いっぱいに充満する美味しそうな香りに、コクリと喉を鳴らす。
一角には酒樽が置かれ、ちゃっかりとその隣に陣取ったおじさんたちはすでに熟れたリンゴのような顔をしている。
ふとドアのほうを見れば、ずっと気配を潜めていたのだろうか、目ぼしいパンを袋に詰めた王子が乾杯のジェスチャーをしながら出ていくのが見えた。
ヨルグも椅子の背に引っ掛けていたマントを羽織って正装になる。前髪を上げていることもあり、格好よすぎて目のやり場に困ってしまう。
「おぅーい、みんな揃ったぞ! ガファスの旦那はまだかよぉ!?」
「今出来たところだ。ったく、黙って待てねぇのか」
106
お気に入りに追加
1,031
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる