不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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71~最終話

十数年ぶりの会話【上】

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「……彼女と何を話していたんです?」

 聞いたこともないようなヨルグの硬い声。
 対峙するヨルグのお父さんは、呆れたように短く嘆息した。

「ヨルグ、勉学から離れて挨拶の仕方さえ忘れたか? 大した話ではない。 店の経営が困窮していようと、我が家の援助をあてにするなと伝えただけだ」

「――っ! 彼女の家は地域住民に愛される素晴らしいパン屋です! 俺も、妻のリゼットも、あなたの金をあてにする気など毛頭ない!」

 私の気持ちまでキッパリと言い切ってくれるヨルグに、目には見えない確かな繋がりを感じて愛情が募る。
 ヨルグのお父さんも見ず知らずの私を相手にしていたときとは違い、息子ヨルグ相手であれば会話が成立するようだ。

「そもそも、こんな所まで何をしにいらしたんですか」

「家を出たきり十年以上なんの音沙汰もなく、城で見かけてもこちらに気付かぬふりをしてこそこそと逃げ回る。そんなおまえが突然手紙など寄越すから、わざわざ顔を見に来てやったんだろう」

「……死んでこいと言って追い出した出来損ないの顔など、見てもご不快なだけでしょうから」

 強張ったヨルグの声が、微かに震える。
 魔獣を素手で撃退できてしまうほどの力を持っているのに。きっと、今この通りを行き交っている誰よりも強いのに。
 私を庇って立つ大きな背中が、押し込めきれない不安に揺れて見える。

 そうだ、これはおじいちゃんとケンカしたときの私と同じ。
 相手の出方が怖くてたまらず、自分の言動にも自信なんか持てなくて。何もかもが不安なのは――そこに、家族への愛情があるからだ。

 私が手紙を書いてほしいなんて無理にお願いしたせいで、ヨルグに無用な苦しみを与えてしまっただろうか。でも……それでも、生きているうちにこうして言葉を交わせたことは、決して無駄ではないと信じたい。
 私も、ヨルグと一緒に受け止めるから。

 腕の隙間をすり抜けて前に進み出ると、ヨルグを庇うように立つ。
 驚いたように私を見たヨルグが、たった今呼吸の仕方を思い出したかのように息を吸った。
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