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言葉の裏に願うもの《ヨルグ視点》【中】
しおりを挟む玄関を入るとすぐ、持ち帰った持参金を丁重にテーブルに下ろす。
近いうちに金庫を買って、そこに保管するとしよう。自分の給金などより余程価値のあるお金だ。
その間にも、ドアを背に立ち尽くすリゼットの目にはみるみる水分の膜が張っていき、分厚さを増したそれはとうとう決壊してポロリと落ちた。
「おっ……おじいちゃんに酷いこと言っちゃった! 喜んでほしかっただけなのに! 私っ、おじいちゃんを傷つけたわ! そんなつもりじゃなかったの! 傷つけるつもりなんて……なく……っう……、うわぁぁぁあぁぁん!」
「リズ!」
慌てて抱き上げると、ぎゅっと全身でしがみついてくる。
ヒックヒックとしゃくり上げるたび、とめどなく落ちる雫が肩に温かな染みを作る。
『いつか』のような光景に歓喜にも似た懐旧の念が襲ってくるけれど、今はリゼットを宥めるのが先だ。決して、悲しませたいわけではないのだから。
リゼットを抱えたままソファに腰を下ろすと、震える小さな背中を自らの呼吸に合わせてゆっくりとさすった。
「……リズは、本気で店を継ぐつもりなんだな?」
コクンと、首筋に埋められた顔が上下する。
「ガファスさんが言っていたように、店の経営には大変なことのほうが多いのだろう。一度継いでしまえば、そう簡単に投げ出せるものでもない。……それでもやるのか?」
「ヒック……だ、大好きなお店のためなら、どんなことだって頑張るわ」
責任感が強く努力家なリゼットのことだ、きっとどんなに大変なことだってやり通してみせるだろう。だからこそ、その『決して投げ出さない姿勢』が心配でもある。
「すべてを一人で為すには限界があるはずだ」
「人を雇うわ……。パンは私が作って……ヒック、雇った人にはお会計を任せるの。今の私みたいに」
会計を任せる以上、算術は必須。金銭を管理させるとなれば、よほど信頼できる人間でないと難しいだろう。
さらに女手だけでは何かあったときに危険だから、男手があったほうがいい。
となると、算術ができてリゼットが信頼するに足る男――。
そんな男と、日中の長い時間を二人だけで過ごすのか?
散々泣いて疲れたのだろう。
いつしか耳元では、しゃくり上げの余韻を残しながらもスピスピと寝息が聞こえてきた。
ベッドに運び、赤くなった目元を撫でて額に口づける。
「せめて楽しい夢を」
カーテンを閉めようと窓に近づくと、通りの向こうに家灯りが見えた。
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