上 下
181 / 200
61~70話

おじいちゃんの悪態【下】

しおりを挟む
 備品の置き場所など、ときおり聞かれる質問に答えながら、ありがたくヨルグに準備を任せてフゥフゥとハチミツ紅茶をすする。同じ汗だくの一夜を過ごしたけれど、ヨルグのほうが圧倒的に体力があるはずなので。

「あっ、そういえばお城への説明って……」

「心配ない。リズの能力に関しては伝えずに、それらしい説明をしておいた」

「よかったぁ」

 寝起きよりずいぶんとマシになった声で呟く。
 なんの関わりもない偉い人に知られたからといって、何がどうなるものでもないと思うけれど、秘密にするという両親との約束が守れてよかった。

「……では、俺はそろそろいってくる。仕事終わりに迎えに寄るから、決してリズ一人で飛び出して来ないように」

「はーい、いってらっしゃい! 夕飯用意して待ってますね!」

 座ったままでいいと止められたけれど、玄関先に立ってヨルグを見送る。
 今のやり取り、すっごく夫婦っぽい! なんて一人で盛り上がっていたせいで、玄関を閉じてからもしばらく緩んだ頬が戻らなかった。




 いつものようにカウンターに立っていると、パンを選び終えた常連のおばさんが他のお客さんの目を忍ぶようにヒソヒソと声をかけてきた。

「昨日の夜、リゼットちゃんがお向かいの家に入っていくのが見えちゃったんだけど……。お向かいってほら、隊長さんの家でしょう? 何かあったの? 大丈夫?」

 どうやらおばさんは、私が何かしらの事件に巻き込まれてのお世話になったのではないかと心配してくれているようだ。

 血が繋がっていなくたって、こうして私を心配してくれる人がいる。毎日のように顔を合わせる常連さんはすっかり家族のようなもので、それはこのお店があるからこそ生まれた縁だ。
 やっぱり、自分が跡を継いでこのお店を長く存続させたいという思いが強まる。

「心配いりませんよ。実は昨日、その――ヨルグさんと結婚したんです! 近々パーティーもする予定なので、ぜひ来てくださいね!」

「まあまあ! リゼットちゃんと隊長さんが!? なんっっっておめでたいのかしら! 大変、私ったらお祝いも用意しないで! ――真面目で頼もしい隊長さん相手なら、ガファスさんも安心ねぇ!」

 おばさんが奥の厨房に向かって声をかけると「結婚なんざ金がかかって、おちおち店じまいもできねえや!」と声が返ってきた。
 おばさんと二人、ぱちくりと目を見合せて、ぷっと吹き出す。

「まったく、よっぽど嬉しいでしょうに素直じゃないだこと!」

「あはは、私もお店頑張らなくちゃ!」

 今までお金のことなんか口にしたことのないおじいちゃんが、わざわざそんな悪態をついてみせる。本当に素直じゃないんだから。

 それでも、おじいちゃんがまだまだ現役でお店を続けてくれるつもりなら安心だ。そのあいだに、私もいろいろなことを教わりたいと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~

南田 此仁
恋愛
 突然異世界へと転移し、状況もわからぬままに拐われ愛玩奴隷としてオークションにかけられたマヤ。  険しい顔つきをした大柄な男に落札され、訪れる未来を思って絶望しかけたものの……。  跪いて手足の枷を外してくれたかと思えば、膝に抱き上げられ、体調を気遣われ、美味しい食事をお腹いっぱい与えられて風呂に入れられる。  温かい腕に囲われ毎日ただひたすらに甘やかされて……あれ? 奴隷生活って、こういうものだっけ———?? 奴隷感なし。悲壮感なし。悲しい気持ちにはなりませんので安心してお読みいただけます☆ シリアス風な出だしですが、中身はノーシリアス?のほのぼの溺愛ものです。 ■R18シーンは ※ マーク付きです。 ■一話500文字程度でサラッと読めます。 ■第14回 アルファポリス恋愛小説大賞《17位》 ■第3回 ジュリアンパブリッシング恋愛小説大賞《最終選考》 ■小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にて30000ポイント突破

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

処理中です...