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61~70話
おじいちゃんの悪態【下】
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備品の置き場所など、ときおり聞かれる質問に答えながら、ありがたくヨルグに準備を任せてフゥフゥとハチミツ紅茶をすする。同じ汗だくの一夜を過ごしたけれど、ヨルグのほうが圧倒的に体力があるはずなので。
「あっ、そういえばお城への説明って……」
「心配ない。リズの能力に関しては伝えずに、それらしい説明をしておいた」
「よかったぁ」
寝起きよりずいぶんとマシになった声で呟く。
なんの関わりもない偉い人に知られたからといって、何がどうなるものでもないと思うけれど、秘密にするという両親との約束が守れてよかった。
「……では、俺はそろそろいってくる。仕事終わりに迎えに寄るから、決してリズ一人で飛び出して来ないように」
「はーい、いってらっしゃい! 夕飯用意して待ってますね!」
座ったままでいいと止められたけれど、玄関先に立ってヨルグを見送る。
今のやり取り、すっごく夫婦っぽい! なんて一人で盛り上がっていたせいで、玄関を閉じてからもしばらく緩んだ頬が戻らなかった。
いつものようにカウンターに立っていると、パンを選び終えた常連のおばさんが他のお客さんの目を忍ぶようにヒソヒソと声をかけてきた。
「昨日の夜、リゼットちゃんがお向かいの家に入っていくのが見えちゃったんだけど……。お向かいってほら、隊長さんの家でしょう? 何かあったの? 大丈夫?」
どうやらおばさんは、私が何かしらの事件に巻き込まれて騎士隊長のお世話になったのではないかと心配してくれているようだ。
血が繋がっていなくたって、こうして私を心配してくれる人がいる。毎日のように顔を合わせる常連さんはすっかり家族のようなもので、それはこのお店があるからこそ生まれた縁だ。
やっぱり、自分が跡を継いでこのお店を長く存続させたいという思いが強まる。
「心配いりませんよ。実は昨日、その隊長――ヨルグさんと結婚したんです! 近々パーティーもする予定なので、ぜひ来てくださいね!」
「まあまあ! リゼットちゃんと隊長さんが!? なんっっっておめでたいのかしら! 大変、私ったらお祝いも用意しないで! ――真面目で頼もしい隊長さん相手なら、ガファスさんも安心ねぇ!」
おばさんが奥の厨房に向かって声をかけると「結婚なんざ金がかかって、おちおち店じまいもできねえや!」と声が返ってきた。
おばさんと二人、ぱちくりと目を見合せて、ぷっと吹き出す。
「まったく、よっぽど嬉しいでしょうに素直じゃないおじいさんだこと!」
「あはは、私もお店頑張らなくちゃ!」
今までお金のことなんか口にしたことのないおじいちゃんが、わざわざそんな悪態をついてみせる。本当に素直じゃないんだから。
それでも、おじいちゃんがまだまだ現役でお店を続けてくれるつもりなら安心だ。そのあいだに、私もいろいろなことを教わりたいと思う。
「あっ、そういえばお城への説明って……」
「心配ない。リズの能力に関しては伝えずに、それらしい説明をしておいた」
「よかったぁ」
寝起きよりずいぶんとマシになった声で呟く。
なんの関わりもない偉い人に知られたからといって、何がどうなるものでもないと思うけれど、秘密にするという両親との約束が守れてよかった。
「……では、俺はそろそろいってくる。仕事終わりに迎えに寄るから、決してリズ一人で飛び出して来ないように」
「はーい、いってらっしゃい! 夕飯用意して待ってますね!」
座ったままでいいと止められたけれど、玄関先に立ってヨルグを見送る。
今のやり取り、すっごく夫婦っぽい! なんて一人で盛り上がっていたせいで、玄関を閉じてからもしばらく緩んだ頬が戻らなかった。
いつものようにカウンターに立っていると、パンを選び終えた常連のおばさんが他のお客さんの目を忍ぶようにヒソヒソと声をかけてきた。
「昨日の夜、リゼットちゃんがお向かいの家に入っていくのが見えちゃったんだけど……。お向かいってほら、隊長さんの家でしょう? 何かあったの? 大丈夫?」
どうやらおばさんは、私が何かしらの事件に巻き込まれて騎士隊長のお世話になったのではないかと心配してくれているようだ。
血が繋がっていなくたって、こうして私を心配してくれる人がいる。毎日のように顔を合わせる常連さんはすっかり家族のようなもので、それはこのお店があるからこそ生まれた縁だ。
やっぱり、自分が跡を継いでこのお店を長く存続させたいという思いが強まる。
「心配いりませんよ。実は昨日、その隊長――ヨルグさんと結婚したんです! 近々パーティーもする予定なので、ぜひ来てくださいね!」
「まあまあ! リゼットちゃんと隊長さんが!? なんっっっておめでたいのかしら! 大変、私ったらお祝いも用意しないで! ――真面目で頼もしい隊長さん相手なら、ガファスさんも安心ねぇ!」
おばさんが奥の厨房に向かって声をかけると「結婚なんざ金がかかって、おちおち店じまいもできねえや!」と声が返ってきた。
おばさんと二人、ぱちくりと目を見合せて、ぷっと吹き出す。
「まったく、よっぽど嬉しいでしょうに素直じゃないおじいさんだこと!」
「あはは、私もお店頑張らなくちゃ!」
今までお金のことなんか口にしたことのないおじいちゃんが、わざわざそんな悪態をついてみせる。本当に素直じゃないんだから。
それでも、おじいちゃんがまだまだ現役でお店を続けてくれるつもりなら安心だ。そのあいだに、私もいろいろなことを教わりたいと思う。
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