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61~70話

私の代役【上】 ※

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 ハンカチを見ながらしていたみたいに、精を放つの? 私のなかに!??

 私が混乱しているあいだにも、ネグリジェの裾から忍び込んだ手がささやかな膨らみを探り当てる。

「んっ……! じ、じゃあっ、『手』の代わりを私が務めるんですか?」

「断じて違う。『手』が代役だ」

 愛おしそうに私の胸元を見つめていたヨルグが、視線を起こしてキッパリと言い切った。

「手が代役……」

 ――ということは、だ。
 ヨルグは毎晩、私のなかに挿入することを考えながらいたことになる。

 初めて家を覗いた日から数えても……少なくとも一年以上ものあいだ。私があげたハンカチを手に、ずっと私との行為を思い描いていたのだろうか。

 ハンカチが私を思い浮かべるための手段だったとは聞いたものの、とはまったく結び付いていなかったのだ。
 苦しそうに怒張した雄芯を握りしめ、熱を擦り込むみたいに何度も、何度も、激しくしごき上げる姿――。毎晩目にしていた『行為』が『私との行為』の代替だったのかと思えば、その頻度と、向けられた熱量に、羞恥とも歓喜ともつかない感情が込み上げてくる。

 ――ずっと、こんなふうに深く愛し合いたいと願っていた?
 ――毎朝お店で顔を合わせるだけだった私と、こうして裸で抱き合う未来を想像していた?

 それは途方もなく遠い願いに思える。
 それでもヨルグが想いつづけてくれたから。いつだってそばにいて守ってくれたから。
 私はヨルグに恋をして、こうしてヨルグが願っていたであろう『未来』のなかにいるのだ。

 膨れ上がった感情が今にもあふれ出しそうで、両手でベチンッと顔を覆う。

 ああ、もう!
 ヨルグからの愛を理解しきれていなかったのは、私のほうじゃないか!

「リズ、どうした? 鎖骨の辺りが赤く――」

 ネグリジェを捲り上げて裸の胸を見つめていたヨルグが、ふしぎそうに顔を上げる。

 きっと見えてしまっただろう。
 両手に隠しきれない頬の赤さも、それが首筋から、鎖骨にまで及んでいることも。
 指の隙間からそろりとヨルグをうかがう。

「ずっと私を想っててもらえて嬉しいです。でも……」

「でも?」

「てっ、手でしてたみたいに……あんなに激しくされたら私、壊れちゃうかも……っ!」

「ぐ、ぅ……っ」

 低くうめいたヨルグが、シーツに両の拳をついて何かに耐えるように肩を震わせている。
 食いしばった歯の隙間から漏れる、フーッ、フーッ、と荒い息遣い。獲物を狙う猛獣のような眼差しは、ほかの一切を取り払ったかのようにむき出しの熱情だけを映している。

 どうにか呼吸を落ち着けて、猛獣――もとい、ヨルグが口を開いた。

「手荒な真似はしない、絶対に。優しくする」

 ひと言ひと言、まるで自分に言い聞かせるみたいに。
 激しく滾る熱情の奥にあるのは、どこまでも深い愛情だと知っているから。

「ん……、信じてます」

 寄せられた首筋に腕を回し、優しい猛獣の口づけを受け止めた。
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