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51~60話

男と男の《ヨルグ視点》【中】

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「…………」

 ガファスが、手にした新聞から顔を上げる。
 怒ったような表情はいつもと変わらないはずなのに、今は俺への不快感をあらわにしているように見えてならない。

 沈黙に耳鳴りがする。
 唯一の家族であるガファスに反対されれば、リゼットはきっと自分との結婚を取りやめると言うだろう。それほど、この二人の絆は強いのだ。
 俺の家族とは正反対だな……。現実逃避のようにそんなことを考える。

 ガファスが不機嫌そうに顔をしかめ、その反応にギクリと心臓がすくんだ。

「リゼットと結婚すんのに俺の許可なんざいらねえと、言ったはずだ。本人が望んで選んだ道なら俺が口出すこたぁねえ」

「ですが……」

 リゼットの意志がすべてだと告げるガファスの本心はわからない。それでも、ガファスの気持ちがどうであれリゼットと結婚さえできればいいとは、どうしても思えないのだ。



 ――思い出されるのは、リゼットをはじめて食事に連れ出した日の晩。

 酔って寝てしまったリゼットを送り届けて帰宅しようとする自分を、ガファスが「一杯付き合っていけ」と引き留めた。
 誘ったわりに無口なガファスは何を話すでもなく、ただカチャカチャと陶製の酒器が触れ合う音だけをさせて酒を酌み交わす。

 そのときに、酒の力を借りて打ち明けたのだ。

「俺はっ、リゼットに結婚を申し込みたいと考えています……! お許しをいただけますか!?」

「ああ? それを俺に言ってどうする。俺の許可なんざ必要ねえ、するもしないもリゼット本人が決めるこった」

「…………はい」

 頭ごなしに反対されなかったことに安堵しつつも、密かに落胆する。
 いっそ許可できないと言われていれば、僅かな光にさえ希望を見出だそうとするこの未練がましい慕情にも諦めがついたかもしれないのに。

「だがリゼットと結婚してぇなら、一つ覚悟しなきゃならねえことがある」

「覚悟……」

「リゼットより先に死なない覚悟だ。――あれは早くに両親を揃って亡くした。俺だってどう足掻こうがリゼットより先に逝く。だがリゼットの夫になろうってやつだけは、決してリゼットを残して逝っちゃならねえ。『死』を見せるな。その覚悟があるか?」
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