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51~60話

男と男の《ヨルグ視点》【下】

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 今回は力を借りられる酒もないけれど、決意を込めてしっかりとガファスの目を見据える。

「俺はリゼットだけでなく、ガファスさんにも家族として認められたいんです」

 ピクリと、ガファスの肩眉が吊り上がる。
 不快感ともとれる仕草に怯みそうになる自分を鼓舞して、ひと思いに意志を告げた。

「覚悟はできています。騎士でいる以上は常に命の危険が付きまとう。だからこそ俺は、現在の騎士隊長としての任期を終え次第、騎士を退くつもりです」

「…………おまえさんの人生だ、それで後悔しねえのか?」

「十一年前……はじめてリゼットと会ったその日から、彼女の笑顔を守りたい一心で騎士を続けてきました。たとえ騎士をやめようと、リゼットのそばにいられればそれは叶います」

 ガファスはバシンと新聞をテーブルに置くと、ガシガシと乱暴に頭をかいた。

「――ったく! リゼットが自分から『力』のことを打ち明けた時点で、遅かれ早かれこうなるこたぁわかってたんだ。俺だってなぁ、言い寄るでもなく毎朝パンを買ってくだけの不器用な男の一途さは買ってんだぞ」

「それはっ、決してリゼットだけを目当てにパンを買っていたわけでは……!」

「ああ、わーってる、わーってる。リゼットのわかりやすい反応も見てきた身としちゃあ、嫁に貰ってやってくれるってんなら大歓迎だ。だが、デファーロットの家のほうは大丈夫なのか?」

 ガファスの言葉に、知らず視線が落ちる。
 テーブルの木目を見ても答えなど書かれていないのに、そこに何かが見えるかのように。

「……勉学の才がないのなら国のために命を使えと、俺を騎士の道に入れた人たちです。こちらが何をしていようと興味もないでしょう。……今ごろ、俺という息子がいたことさえ忘れているかもしれません」

 ガファスとリゼットという強い絆で結ばれた家族を前に、自分と家との希薄な関係を打ち明けるのは少々居心地が悪い。
 取り繕うように「はは……」と乾いた笑いを漏らすと、ガファスは腕を組んで何かを思案するようにムッスリと黙り込んでしまった。

 ぱたぱたと階段を下りてくる足音が聞こえ、リゼットが顔を覗かせる。

「お待たせー! あれ? ヨルグさん、まだ朝食を食べはじめてないんですか? もしかして待たせちゃいました!?」

「いや、これは……」

「――手紙を書け」

 顔を上げたガファスが、キッパリと言い放った。

「何もお伺いを立てろってんじゃねえ。報告だけでもいいから手紙を書くんだ。……出せなかった手紙を、後悔する日が来ねえように」
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