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51~60話
幸せな夢のつづき【上】
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淡いオレンジ色の壁。転んで怪我をしないようにと絨毯が敷かれた床。棚に並ぶ様々な形の陶器。
――ああ、ここはわたしの家だ。
「リズ」
『大好き』がたっぷり詰まったような優しい声に呼ばれ、振り返ると玄関の前におとうさんとおかあさんが立っていた。
「粘土を採りに山にいってくるよ。お利口さんにお留守番できるかい?」
「もちろんできるわ! もう赤ちゃんじゃないのよ!?」
フフンと澄まして自信満々に胸を張る。
「ははっ、それは頼もしいな。じゃあ、いってくるよ」
「夕飯までには戻るわね。いってきます」
「いってらっしゃー……」
開かれたドアの向こうは真っ暗で。
闇に浮かぶ無数の魔獣の目が、獲物を狙うようにギラギラと光ってこちらを見ている。
――このまま外に出たら食べられちゃう!
「待って! おとうさん、おかあさん! 行っちゃダメ!!」
あの恐ろしい目に気付いていないのだろうか。笑顔を浮かべた両親の姿がすぅっと遠のき、引き止めようと伸ばした手が虚しく宙をかく。
早く追いかけなくてはと思うのに、走っても走っても一向に前に進まない。
「行かないで! 置いていかないで……っ!」
必死に伸ばした手はあまりにも小さく、短くて、両親との距離はみるみる広がっていくばかり。
やっぱり何にも届かない。
何も助けられないんだ。
私の手では、誰も――――!
両親の姿が闇に消えそうになった瞬間、グンッと伸びた手が温かな光を掴んだ。
光に目を凝らすと、それはゴツゴツとした大きな手で。手首から腕へとたどるように視線を上げれば、そこにはヨルグが立っていた。
「お招きありがとう」
「え……」
ああ――そうだ。今日は我が家でパーティーをするんだった。
大きなヨルグの身体越しに見えるドアの外には、小さな白い花が咲く見慣れた庭が広がっている。魔獣はヨルグに追い払われて、影も形もなくなっていた。
「さあ、これでみんな揃ったわね」
隣に立ったお母さんが、嬉しそうに私の肩を抱いてウインクする。
「この人数ならあの大皿が使えるな! ええと、全然使わないから奥のほうにしまったはず……」
お父さんがいそいそと棚を探っている。
「おーい、パンが焼き上がったぞー!」
キッチンから呼ぶ声がして、大きなお皿に山盛りのパンを携えたおじいちゃんが姿を現した。
「あっ、探してた大皿!」
いつも三人で使っていたテーブルは、五人で座るにはちょっと狭い。それでも詰め合ってどうにかみんなで席に着くと、楽しいパーティーが始まった。
お父さんとお母さんがいて、おじいちゃんがいて、ヨルグもいる。
お父さん自信作の大皿にはおじいちゃんの焼きたてパンが積み上がり、みんなしてハフハフ言いながらかぶりつく。
パンはすっごくすっごく美味しくて、みんなが笑顔になって、信じられないくらい幸せで――。
――ああ、ここはわたしの家だ。
「リズ」
『大好き』がたっぷり詰まったような優しい声に呼ばれ、振り返ると玄関の前におとうさんとおかあさんが立っていた。
「粘土を採りに山にいってくるよ。お利口さんにお留守番できるかい?」
「もちろんできるわ! もう赤ちゃんじゃないのよ!?」
フフンと澄まして自信満々に胸を張る。
「ははっ、それは頼もしいな。じゃあ、いってくるよ」
「夕飯までには戻るわね。いってきます」
「いってらっしゃー……」
開かれたドアの向こうは真っ暗で。
闇に浮かぶ無数の魔獣の目が、獲物を狙うようにギラギラと光ってこちらを見ている。
――このまま外に出たら食べられちゃう!
「待って! おとうさん、おかあさん! 行っちゃダメ!!」
あの恐ろしい目に気付いていないのだろうか。笑顔を浮かべた両親の姿がすぅっと遠のき、引き止めようと伸ばした手が虚しく宙をかく。
早く追いかけなくてはと思うのに、走っても走っても一向に前に進まない。
「行かないで! 置いていかないで……っ!」
必死に伸ばした手はあまりにも小さく、短くて、両親との距離はみるみる広がっていくばかり。
やっぱり何にも届かない。
何も助けられないんだ。
私の手では、誰も――――!
両親の姿が闇に消えそうになった瞬間、グンッと伸びた手が温かな光を掴んだ。
光に目を凝らすと、それはゴツゴツとした大きな手で。手首から腕へとたどるように視線を上げれば、そこにはヨルグが立っていた。
「お招きありがとう」
「え……」
ああ――そうだ。今日は我が家でパーティーをするんだった。
大きなヨルグの身体越しに見えるドアの外には、小さな白い花が咲く見慣れた庭が広がっている。魔獣はヨルグに追い払われて、影も形もなくなっていた。
「さあ、これでみんな揃ったわね」
隣に立ったお母さんが、嬉しそうに私の肩を抱いてウインクする。
「この人数ならあの大皿が使えるな! ええと、全然使わないから奥のほうにしまったはず……」
お父さんがいそいそと棚を探っている。
「おーい、パンが焼き上がったぞー!」
キッチンから呼ぶ声がして、大きなお皿に山盛りのパンを携えたおじいちゃんが姿を現した。
「あっ、探してた大皿!」
いつも三人で使っていたテーブルは、五人で座るにはちょっと狭い。それでも詰め合ってどうにかみんなで席に着くと、楽しいパーティーが始まった。
お父さんとお母さんがいて、おじいちゃんがいて、ヨルグもいる。
お父さん自信作の大皿にはおじいちゃんの焼きたてパンが積み上がり、みんなしてハフハフ言いながらかぶりつく。
パンはすっごくすっごく美味しくて、みんなが笑顔になって、信じられないくらい幸せで――。
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