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51~60話

ムズムズの正体【上】 ※

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「不安は……少しでも取り除けただろうか?」

 四つ這いに覆い被ったヨルグが、気遣わしげに私の頬を撫でる。

「はい。全部ヨルグさんからの愛だって思ったら、大丈夫そうな気がしてきました! でも……まだちょっぴりだけ怖いので、一回ギュッてしてもらってもいいですか?」

「――っ!」

 返事が返ってくるよりも早く、シーツとの隙間に潜り込んだ腕にぎゅっと抱きしめられる。

 頬をくすぐる髪の感触、耳にかかる熱い吐息、自分とは違う硬い身体。隙間なくピッタリと密着して、ヨルグの鼓動がドクドクと私の胸を叩く。

「リズ、――リズ、大切にする」

 ヨルグの言葉が、薄靄うすもやのような不安を包んでストンと胸に落ちた。

 ああ……、私は一体何を怖がっていたのだろう。
 恐ろしいドラゴンだろうと、未知の世界だろうと、ヨルグと一緒なら何も怖がることなんてなかったのに。

 僅かな不安が消えれば、胸を占めるのはあふれそうなほどの愛情で。

「私も、大切にしますからね……」

 ヨルグの首筋に顔をすり寄せ、たくましい身体をギュッと抱きしめ返す。
 お日さまと、汗と、微かな土埃。
 平和を守る頼もしい騎士のにおい。私の最愛の人のにおい。

 安心するのにドキドキして、こんなにくっついているのに、もっとくっつきたくなる。
 こんな裏腹な感情があることも知らなかった。――けれどもう、『未知』も怖くなんかない。

 吐息を閉じ込めるように唇が重なり、内ももにぐりりと熱が押し当てられる。背中をたどり下りた手のひらが、捲れたシャツの内部へと忍び込んだ。

「んっ……」

 口腔と、脇腹と、内ももと、どこもかしこもヨルグに触れられている。心のなかだってヨルグへの想いでいっぱいなのに。

 愛情が染み込んでくるかのような温かな手のひらは、お腹を撫でつつ這いあがり、ささやかな胸の膨らみへと至った。
 恐る恐る、羽根で撫でるみたいにそろそろと触れられて、あまりのくすぐったさに身をよじる。

「ひぁっ、くっ、くすぐった……っ! 待っ……、んふっ、ふふっ……、ひゃんっ!?」

 もどかしく這う指先が胸の先端を掠めた拍子、ビクンと肩が跳ねた。

「すまない、痛かったか?」

「いえ、そっと触られすぎてくすぐったいくらいですけど……。えっと、胸にも『ほぐし』が必要なんですか?」

「ここは……俺が触れたいだけだ。リズも気持ちよく感じてくれれば嬉しいが……」

 なんと、『ほぐし』だけでなくそんなパターンもあるのか。

 あいにくお風呂で身体を洗っていても特別胸を気持ちいいと感じたことはないので、ヨルグの期待に応えるのは難しいかもしれない。
 それでも、ヨルグがしたいようにしてくれればいいと思う。私もちょっと、『触れたい場所』を考えておかなくては。

 ――なんて、のんきに構えていたのに。
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