不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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41~50話

あのときの騎士【上】

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「覚えていてくれたのか……」

 込み上げる情動を抑えようとするかのように、ヨルグの声が震える。

 ずっと覚えていたわけじゃない。
 ヨルグの言葉と懐かしい刺繍によって、長らく眠っていた記憶が揺り起こされたのだ。

「でも……あのときの騎士様はもっと、ヒョロッとして頼りない感じだったような……」

 ゆっくりと細い糸を手繰り寄せるように、少しずつ当時の情景を思い浮かべる。

 背が高い騎士の青年。
 なんとなく、黒っぽい髪をしていたことは覚えている。体型に関しては標準的な肉付きだったのかもしれないけれど、とにかく上背があるものだから全体としてヒョロ長い印象だった。
 少なくとも今目の前にいるヨルグのように、ガッシリとした頼もしい体格でなかったことは確かだ。

「恥ずかしながら当時はこころざしもなく、最低限の訓練さえていれば十分だと思っていたんだ……」

 決まり悪そうに首の後ろをかくヨルグを、ふしぎな気持ちで見つめる。
 あのときの騎士が、……ヨルグ?

 たしか、私から声をかけたはずだ。
 なんとも頼りなさそうな騎士の青年が一人で途方に暮れているのを見て、『私が助けてあげなくちゃ』なんて生意気なことを考えながら。

 それから……たぶん、『能力』を使って探し物か何かを手伝った。そして次の瞬間には、刃物を振り下ろす大男と、紺色の騎士服の背中――。

「騎士様が私を庇って……。血が、たくさん出てて……」

 断片的に浮かぶ光景からにじみ広がるように、前後の記憶がよみがえってくる。

 騎士の片頬を染める真っ赤な血。大怪我をした騎士が死んでしまうのではと心配で、心配で、ハンカチを押し当てて必死に血を止めようとした。
 なのに騎士の青年はといえば、自らの怪我なんて気にもとめていない様子でせっせと私の涙ばかりを拭うのだ。

「――怪我! あのときの怪我は!? 大丈夫だったんですかっ!?」

 無事なことなんて目の前のヨルグを見ればわかるのに。それでも記憶と同時に当時の心配な気持ちまでよみがえってしまって、確かめずにはいられなくなる。

 ヨルグはふっと微笑むと、左手で前髪をかき上げて目元を示してくれた。

「元々大した傷ではなかったからな。――ほら、もうすっかり塞がっている」
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