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41~50話
遠い過去の記憶【中】
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ある日パチンと目が覚めて、それまでの幸せな日々が忽然と消えてなくなってしまいそうな漠然とした不安。
好かれている理由もわからないまま、愛の言葉だけを盲信して人生を決定することはできない。
この両目がなんでも見通せる目だというのなら、ヨルグの心のなかも覗ければいいのに。どんなに金の瞳を見つめても、その熱の奥まではわからない。
「……初めて会った日から、ずっと好きだと言ったのを覚えているか?」
「はい」
コクリと頷く。
ヨルグと初めて会った日のことはよく覚えている。よろよろと歩くヨルグに声をかけ、お腹が空いているというので強引に開店前のパン屋に引っ張り込んだ。
お腹を空かせてふらつく騎士なんて、あとにも先にも見たことがない。
「おそらく『その日』は――リズが想像しているよりも、ずっと昔のことだ」
「昔……? やっぱり、以前どこかで会ったことがあるんですか?」
頬に触れていた手のぬくもりが離れ、ヨルグがのそりと上体を起こす。下りた前髪が目元を覆い、いつも通り顔の上半分が隠されてしまった。
見慣れた姿にどこか安心感を覚える反面、表情が見えなくなったことが残念でもある。
ヨルグはベッドの縁に腰かけたまま、サイドチェストからピンクのハンカチを取り出して私に差し出した。
「このハンカチがわかるか?」
「えっと……以前落として拾われちゃったところを、救出したやつですよね?」
それとも「毎晩の相棒ですよね」という答えが求められているのだろうか?
手渡されたハンカチを見る。
少し色褪せた薄ピンク地に、フリフリとした大振りのレース。拙いクローバーの刺繍からも、このハンカチの元の持ち主が幼い少女だとわかる。
好かれている理由もわからないまま、愛の言葉だけを盲信して人生を決定することはできない。
この両目がなんでも見通せる目だというのなら、ヨルグの心のなかも覗ければいいのに。どんなに金の瞳を見つめても、その熱の奥まではわからない。
「……初めて会った日から、ずっと好きだと言ったのを覚えているか?」
「はい」
コクリと頷く。
ヨルグと初めて会った日のことはよく覚えている。よろよろと歩くヨルグに声をかけ、お腹が空いているというので強引に開店前のパン屋に引っ張り込んだ。
お腹を空かせてふらつく騎士なんて、あとにも先にも見たことがない。
「おそらく『その日』は――リズが想像しているよりも、ずっと昔のことだ」
「昔……? やっぱり、以前どこかで会ったことがあるんですか?」
頬に触れていた手のぬくもりが離れ、ヨルグがのそりと上体を起こす。下りた前髪が目元を覆い、いつも通り顔の上半分が隠されてしまった。
見慣れた姿にどこか安心感を覚える反面、表情が見えなくなったことが残念でもある。
ヨルグはベッドの縁に腰かけたまま、サイドチェストからピンクのハンカチを取り出して私に差し出した。
「このハンカチがわかるか?」
「えっと……以前落として拾われちゃったところを、救出したやつですよね?」
それとも「毎晩の相棒ですよね」という答えが求められているのだろうか?
手渡されたハンカチを見る。
少し色褪せた薄ピンク地に、フリフリとした大振りのレース。拙いクローバーの刺繍からも、このハンカチの元の持ち主が幼い少女だとわかる。
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