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41~50話
遠い過去の記憶【上】
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けっこん……。
ケッコン……?
「ケッコンっていうと……あの? 永遠の愛を誓いあったり幸せな家庭を築いたりする、あの『結婚』ですか?」
「ああ。リズの幸せが、俺とともにあれば嬉しい」
不安そうに眉尻を下げながらも、ヨルグの眼差しは真剣そのもので。些細な反応も見落とすまいするかのように、真っ直ぐ私を見つめている。
実をいうと、直前の『長きに渡る重い愛情』というものもピンと来ていないのだ。
ヨルグと出逢ってから一年と数ヶ月。長いといえば長いけれど、『長きに渡る』とは少々大袈裟な気もする。
もちろん軽い愛情よりも重い愛情のほうが嬉しいので問題はないし、ヨルグとの結婚だって私自身、何度夢に見たかわからない。
でも……。
果たして私は、それほどまでに想ってもらえるような何かをしただろうか?
「……ヨルグさんは、私のどこが好きなんですか?」
あの日パンをあげたことは、ヨルグにとって人生を決定するほど重要なことだったのだろうか。
能力があることを除けば、私はごくごく普通の庶民の娘だ。
パンの合計金額が素早く暗算できるとか、「リゼットちゃんの笑顔を見てると元気になるわ」とよく言われるとか、それなりに取り柄はあると思うけれど飛び抜けてどうというものはない。
対してヨルグは、国の平和を守るヒーローであり乙女の憧れの的、王国唯一の王立騎士団に所属する立派な騎士だ。しかも貴族で、隊長職。
背もスラッと高くて格好いいし、性格も穏やかで優しいし、こう見えて力も強くて勇敢で非常に頼りになる。
もはや、ヨルグを好きにならない女性なんていないのでは……?
振り向いてもらえることはないと思いながら諦めることもできず。手に入らないのならせめてもの思い出に近しい人にしか見せない姿を見たいと、こっそり寝室を覗き見ていた。
それほど大好きな相手と、想い通じあっただけでも奇跡みたいなものなのに。
そのうえ私の能力を聞いても僅かも疑うことなく、当たり前のように受け入れてなお「結婚したい」とまで言ってくれる。
本当に夢のようで――だからこそ、怖い。
ケッコン……?
「ケッコンっていうと……あの? 永遠の愛を誓いあったり幸せな家庭を築いたりする、あの『結婚』ですか?」
「ああ。リズの幸せが、俺とともにあれば嬉しい」
不安そうに眉尻を下げながらも、ヨルグの眼差しは真剣そのもので。些細な反応も見落とすまいするかのように、真っ直ぐ私を見つめている。
実をいうと、直前の『長きに渡る重い愛情』というものもピンと来ていないのだ。
ヨルグと出逢ってから一年と数ヶ月。長いといえば長いけれど、『長きに渡る』とは少々大袈裟な気もする。
もちろん軽い愛情よりも重い愛情のほうが嬉しいので問題はないし、ヨルグとの結婚だって私自身、何度夢に見たかわからない。
でも……。
果たして私は、それほどまでに想ってもらえるような何かをしただろうか?
「……ヨルグさんは、私のどこが好きなんですか?」
あの日パンをあげたことは、ヨルグにとって人生を決定するほど重要なことだったのだろうか。
能力があることを除けば、私はごくごく普通の庶民の娘だ。
パンの合計金額が素早く暗算できるとか、「リゼットちゃんの笑顔を見てると元気になるわ」とよく言われるとか、それなりに取り柄はあると思うけれど飛び抜けてどうというものはない。
対してヨルグは、国の平和を守るヒーローであり乙女の憧れの的、王国唯一の王立騎士団に所属する立派な騎士だ。しかも貴族で、隊長職。
背もスラッと高くて格好いいし、性格も穏やかで優しいし、こう見えて力も強くて勇敢で非常に頼りになる。
もはや、ヨルグを好きにならない女性なんていないのでは……?
振り向いてもらえることはないと思いながら諦めることもできず。手に入らないのならせめてもの思い出に近しい人にしか見せない姿を見たいと、こっそり寝室を覗き見ていた。
それほど大好きな相手と、想い通じあっただけでも奇跡みたいなものなのに。
そのうえ私の能力を聞いても僅かも疑うことなく、当たり前のように受け入れてなお「結婚したい」とまで言ってくれる。
本当に夢のようで――だからこそ、怖い。
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