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41~50話

見たことのある【上】

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「あのっ! お、お風呂の前に、その……、しなくていいんですか……?」

 今見えているヨルグの腰には、剣なんて携えられていない。
 は上衣の裾に隠れてよく見えないけれど……剣の柄じゃないとすればさっきの『硬さ』の正体は、毎晩見てきたアレのはずで。

「『いつもの』? ――ああ、おやすみの挨拶を忘れていたな」

「そうじゃなくてっ」

「?」

 私の額に口づけようと屈みかけたヨルグが首を傾げる。

 触れる前から興奮状態だったあの晩、今にもはち切れそうなほどに押し上げられた下穿きは、ものすごく窮屈そうだった。いつもより性急に脱いでいたことからしても、きっと相当苦しかったに違いない。

 今だって苦しい思いをしているはずなのに。
 ヨルグはそんな辛さをおくびにも出さず、私を気遣って退室しようとしているのだ。ハンカチが置いてあるこの部屋から――。

「毎晩、ここでしてるじゃないですか……。ハ、ハンカチを見ながら」

「ここで……ハンカチを…………」

 私を泊めることになったせいで、毎晩の習慣が脅かされ、苦しさを我慢した挙げ句に、最愛の『ハンカチ』とも触れ合えず……。
 私がいることでヨルグが苦しい思いをするなんて、そんなのは嫌だ。

 ヨルグには、私を気遣うことなくいつも通りに過ごしてほしい。
 私に遠慮して毎晩の習慣を行えないというのなら……私から、『知っている』と伝えるから。

 家を覗いていたと伝えたとき、ヨルグは覗かれていた事実に嫌悪感を示したりはしなかった。そんなヨルグならきっと、これを聞いても私を嫌ったりはしない。……と、思う……のだけれど……。
 どうか嫌われませんように!

 ――ドサッ

「!?」

 見上げた視界から忽然とヨルグの姿が消えた。
 驚いて見渡せば、仰向けにベッドに倒れ込んだヨルグが両手で顔を覆っている。

「ヨルグさん!? どうしたんですか!?」

 慌てて大きなベッドに乗り上げ、四つ這いでヨルグの顔の近くに向かう。

 室内灯に晒された耳と首筋は、先ほどの名残りなのか燃え上がりそうなほど真っ赤に染まっていて、なにやらうめき声らしきものも聞こえてくる。
 とりあえず、意識を失って倒れたわけではないらしい。

「立ちくらみですか? 水でも持ってきましょうか?」

「…………ろう……」

「えっ?」

 両手の奥からポソポソと聞こえる声を聞き取ろうと、ヨルグの顔に耳を寄せる。

「毎晩気持ち悪かっただろう……」

「気持ち悪い?」

 ヨルグは毎晩すごく気持ちよさそうだったけれど……これは私に対して投げかけられた質問のようだ。
 気持ち悪いとは……、はて?

「せっかくリズが贈ってくれたハンカチに対し……俺は、幾度となく…………」

「――ああ!」

 ヨルグの発言にピンと来る。
 ようやく話が見えてきた!
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