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41~50話
見たことのある【下】
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「私、ヨルグさんがハンカチに興奮するタイプでも気持ち悪いなんて思いませんよ! 本当に全然っ、まーったく! むしろほら、他の女性と浮気されちゃう心配がなくて安心っていうか!」
こんな趣味趣向くらいで、大好きなヨルグを気持ち悪く思うわけがないのに。
ヨルグの隣にペタリと座り込んで「さすがに『ハンカチになってくれ』って言われたら難しいですけど」やら「ハンカチとならうまく付き合っていける気がします」やら話していると、ヨルグもだんだん落ち着いてきたのか、顔を覆っていた手をずらして金色の瞳をこちらに向けた。
「その『ハンカチに興奮する』とは、なんの話だ……?」
「えっ? だから、ヨルグさんが生身の女性には興奮しなくて、ハンカチにだけ興奮しちゃう性質だっていう……。あっ、もちろん私を好きだって言ってくれた気持ちは信じてますからね!? 男性の身体と心は別ものだって、聞いたことありますし!!」
「…………。っはぁぁ……」
詰めていた息を吐き出すような、盛大なため息。ヨルグの顔を覆っていた両手がパタリと投げ出される。
前髪がサラサラと下に流れると、仰向けのヨルグの顔が室内灯に照らし出された。
高い鼻梁、鋭い切れ長の双眸に、困ったように下がる眉。
……やっぱり。
思っていた以上の格好よさにドキドキと高鳴る胸の奥で、遠い記憶をくすぐられるような、ふしぎな感覚がする。
「ヨルグさんと……昔、どこかで会ったことがある気がします」
ぼんやりと天井を見つめていた目が、驚いたように見開かれてこちらに向く。
「あっ、私の勘違いかもしれないんですけど! その、ちょっと見覚えがあるような気がしただけで!」
おかしなことを口にしてしまったと慌てる私の頬に、そっとヨルグの手のひらが添えられた。
「リズ……、もし俺が本当にハンカチにしか性的興奮を抱かない変態だったとしても、受け入れてくれるつもりなのか……?」
「はい、なんにも問題ないですから……」
壊れ物のように優しく頬を包む大きな手のひら。仰向けに寝そべったヨルグに真っ直ぐ見つめられて、静かな金色の奥にたゆたう熱に僅かにたじろぐ。
「ヨ、ヨルグさんが『能力』ごと私を受け入れてくれたみたいに……私だって、ヨルグさんの全部を受け止めたいんです」
今ならわかる。
きっと『能力を受け入れてもらうこと』は、私にとって何よりも重要なことだったのだ。
両親との思い出であり、私という存在の一部であり、一人で抱えつづけるには大きすぎる秘密。
告白の返事の前に頑なに『能力』を打ち明けることを優先した理由は、黙っていてもいずれバレてしまいそうだから、だけではなかった。
本当に大事なことだったから……きっと自分でも無意識に、深刻に捉えることを避けていたのだ。もしも拒絶されたとき、心が真っ二つになってしまわないように。
そんな私を受け入れてくれたヨルグだからこそ、何もかもを愛したいと思うし、何もかもを差し出せる気がする。
「俺のすべてを受け止めてくれるのか……? 毎晩あんなことをするような男でも?」
「はい」
「長きに渡る重い愛情だとしても?」
「はい」
「結婚してほしいと言っても?」
「はい…………えっ?」
最後の言葉に、首肯する首が止まった。
こんな趣味趣向くらいで、大好きなヨルグを気持ち悪く思うわけがないのに。
ヨルグの隣にペタリと座り込んで「さすがに『ハンカチになってくれ』って言われたら難しいですけど」やら「ハンカチとならうまく付き合っていける気がします」やら話していると、ヨルグもだんだん落ち着いてきたのか、顔を覆っていた手をずらして金色の瞳をこちらに向けた。
「その『ハンカチに興奮する』とは、なんの話だ……?」
「えっ? だから、ヨルグさんが生身の女性には興奮しなくて、ハンカチにだけ興奮しちゃう性質だっていう……。あっ、もちろん私を好きだって言ってくれた気持ちは信じてますからね!? 男性の身体と心は別ものだって、聞いたことありますし!!」
「…………。っはぁぁ……」
詰めていた息を吐き出すような、盛大なため息。ヨルグの顔を覆っていた両手がパタリと投げ出される。
前髪がサラサラと下に流れると、仰向けのヨルグの顔が室内灯に照らし出された。
高い鼻梁、鋭い切れ長の双眸に、困ったように下がる眉。
……やっぱり。
思っていた以上の格好よさにドキドキと高鳴る胸の奥で、遠い記憶をくすぐられるような、ふしぎな感覚がする。
「ヨルグさんと……昔、どこかで会ったことがある気がします」
ぼんやりと天井を見つめていた目が、驚いたように見開かれてこちらに向く。
「あっ、私の勘違いかもしれないんですけど! その、ちょっと見覚えがあるような気がしただけで!」
おかしなことを口にしてしまったと慌てる私の頬に、そっとヨルグの手のひらが添えられた。
「リズ……、もし俺が本当にハンカチにしか性的興奮を抱かない変態だったとしても、受け入れてくれるつもりなのか……?」
「はい、なんにも問題ないですから……」
壊れ物のように優しく頬を包む大きな手のひら。仰向けに寝そべったヨルグに真っ直ぐ見つめられて、静かな金色の奥にたゆたう熱に僅かにたじろぐ。
「ヨ、ヨルグさんが『能力』ごと私を受け入れてくれたみたいに……私だって、ヨルグさんの全部を受け止めたいんです」
今ならわかる。
きっと『能力を受け入れてもらうこと』は、私にとって何よりも重要なことだったのだ。
両親との思い出であり、私という存在の一部であり、一人で抱えつづけるには大きすぎる秘密。
告白の返事の前に頑なに『能力』を打ち明けることを優先した理由は、黙っていてもいずれバレてしまいそうだから、だけではなかった。
本当に大事なことだったから……きっと自分でも無意識に、深刻に捉えることを避けていたのだ。もしも拒絶されたとき、心が真っ二つになってしまわないように。
そんな私を受け入れてくれたヨルグだからこそ、何もかもを愛したいと思うし、何もかもを差し出せる気がする。
「俺のすべてを受け止めてくれるのか……? 毎晩あんなことをするような男でも?」
「はい」
「長きに渡る重い愛情だとしても?」
「はい」
「結婚してほしいと言っても?」
「はい…………えっ?」
最後の言葉に、首肯する首が止まった。
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