不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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41~50話

能力の使い方【中】

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「……リズ、能力を使うのは待ってほしい」

 深刻な声に、遠くへやろうとしていた視線をヨルグへと向ける。
 震えていた両手を包み込むように握られて、長い前髪越しにもわかる力強い眼差しが、真っ直ぐに私を捉えた。

「協力を頼んだ俺が言えたことではないが……先ほども、下手をすれば凄惨な現場を目の当たりにしていたかもしれない」

「…………」

 ヨルグの言う通りだ。親子連れが助かったのはすべてが奇跡的にうまく運んだ結果であって、あのまま襲われる現場を目撃していた可能性も十分にある。
 なったかもしれない恐怖に、ブルリと背筋が震える。

「もしも『見えた相手』が助けられなかったとき……、優しいリズの心はきっと、一生癒えないほどの深い傷を負う」

「それは…………。でも、誰かが助けないと――!」

「ああ。だからこそは、騎士である我々に任せてほしい。そのために日々、どんな状況にも応じられるよう訓練を積んでいる。……人の生死は、リズ一人で背負うにはあまりにも重すぎる」

 そうか……。ヨルグは市民だけでなく、私の心まで守ろうとしてくれているのだ。

 私にしか見えないのだから、私が頑張らなくては! ――なんて、とんだ思い上がりだった。
 実際には『助けられない』覚悟もないまま、役に立ちたいと勝手に能力を使い、危機的状況を前にパニックにおちいって。
 ヨルグが的確な指示を出して助けてくれなかったら、あの親子も――それを見た私も、取り返しのつかない傷を負っていたことだろう……。

「わ、私、ごめんなさ……」

「――それでも、市民の命を救えたのはリズのおかげだ。迅速な火山の特定によっても、さらに多くの命が救われる。本当にありがとう。騎士団を代表してお礼を言わせてほしい」

「……!」

 力強く握られた手に、知らず知らず伏せていた視線を上げる。
 ヨルグは私を労るように、優しい笑みを浮かべて言った。

「誰も傷つかずに済んだのであれば、それ以上のことはない。……もう少しだけ待っていてくれるか? 仕事が一区切りついたら夕食にしよう」

 『くぅ』と、返事をしたのは私のお腹だった。
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