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41~50話
能力の使い方【上】
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「!?」
魔獣はその場にとどまり、鬱陶しいハエでも振り払うみたいにブンブンと首を振っている。
やがて許しがたい敵を見つけたかのように目を血走らせ、親子連れとは別の方向に向かって駆けていってしまった。
……一体何が起こったのだろう。
どうして突然方向を変えたのだろう。
「リズ、市民は――」
緊張感を孕んだヨルグの声に、何か答えなくてはと状況も飲み込めないまま口を開く。
「あ……、た、助かったみたい、です……? 襲われる寸前で、魔獣がなぜか別方向に走っていって……」
背後の魔獣が消えたことに気付いた男女は、それでも足を休めることなく村へと駆けていく。その背中越しに村の柵が見え、ようやくひと心地がついた。
村の周辺には、もう脅威となるような魔獣はいない。
「そうか、間に合ったか……!」
千里眼を解いて視界を戻せば、未だ恐怖に震えている自分の手が見えた。
「本気で襲いかかろうとしてたのに……どうして魔獣は、急に気が変わったんでしょう?」
ともすれば、再び魔獣の気が変わって戻ってきてしまうのではないだろうか。走り去った原因がわからないだけに、手放しで安心することはできない。
「一番近い位置にいた隊員に『忌笛』を使わせた。魔獣の嫌う音を発する笛だ」
「キテキ……」
山仕事に携帯する『熊よけの鈴』みたいなものだろうか。たしかにあの瞬間、魔獣は何かに呼び止められたみたいに足を止めた。
「……でも、逃げ出したっていうより、別の何かに向かって突進していった感じでしたよ。すごく怒った様子で……」
「だろうな。弱い魔獣なら『忌笛』で追い払えるが、ある程度強い魔獣になると不快音に神経を逆撫でされて、逆に襲いかかってくる。そのせいでなかなかに使用する場面を選ぶ笛だ」
「えっ!? じゃあ、あのオオカミ型魔獣は騎士の人のところに向かったんですか!?」
「ああ、今ごろ交戦中だろう。班には五人の騎士がいる。たとえ周囲の魔獣ごと笛の音に釣られて来ようと、問題なく対処できるだけの力はある」
「そんなっ、予想以上にたくさん来ちゃったら大変じゃないですか! すぐに状況を確認しますね!」
私の『視界』の周囲にいた大型魔獣は、オオカミ型一頭だけだった。けれど騎士たちのいる場所付近には、また別の魔獣がいるかもしれない。
騎士の人たちの安全を確認しないと――!
魔獣はその場にとどまり、鬱陶しいハエでも振り払うみたいにブンブンと首を振っている。
やがて許しがたい敵を見つけたかのように目を血走らせ、親子連れとは別の方向に向かって駆けていってしまった。
……一体何が起こったのだろう。
どうして突然方向を変えたのだろう。
「リズ、市民は――」
緊張感を孕んだヨルグの声に、何か答えなくてはと状況も飲み込めないまま口を開く。
「あ……、た、助かったみたい、です……? 襲われる寸前で、魔獣がなぜか別方向に走っていって……」
背後の魔獣が消えたことに気付いた男女は、それでも足を休めることなく村へと駆けていく。その背中越しに村の柵が見え、ようやくひと心地がついた。
村の周辺には、もう脅威となるような魔獣はいない。
「そうか、間に合ったか……!」
千里眼を解いて視界を戻せば、未だ恐怖に震えている自分の手が見えた。
「本気で襲いかかろうとしてたのに……どうして魔獣は、急に気が変わったんでしょう?」
ともすれば、再び魔獣の気が変わって戻ってきてしまうのではないだろうか。走り去った原因がわからないだけに、手放しで安心することはできない。
「一番近い位置にいた隊員に『忌笛』を使わせた。魔獣の嫌う音を発する笛だ」
「キテキ……」
山仕事に携帯する『熊よけの鈴』みたいなものだろうか。たしかにあの瞬間、魔獣は何かに呼び止められたみたいに足を止めた。
「……でも、逃げ出したっていうより、別の何かに向かって突進していった感じでしたよ。すごく怒った様子で……」
「だろうな。弱い魔獣なら『忌笛』で追い払えるが、ある程度強い魔獣になると不快音に神経を逆撫でされて、逆に襲いかかってくる。そのせいでなかなかに使用する場面を選ぶ笛だ」
「えっ!? じゃあ、あのオオカミ型魔獣は騎士の人のところに向かったんですか!?」
「ああ、今ごろ交戦中だろう。班には五人の騎士がいる。たとえ周囲の魔獣ごと笛の音に釣られて来ようと、問題なく対処できるだけの力はある」
「そんなっ、予想以上にたくさん来ちゃったら大変じゃないですか! すぐに状況を確認しますね!」
私の『視界』の周囲にいた大型魔獣は、オオカミ型一頭だけだった。けれど騎士たちのいる場所付近には、また別の魔獣がいるかもしれない。
騎士の人たちの安全を確認しないと――!
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