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41~50話

手の届かない場所【上】

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 日が傾き、赤く染まっていく空。
 どことなく故郷の町を思わせる小さな村のなかには、ぽつぽつと人影が見える。

 農耕具を手に往来を行く老人、庭の洗濯物を取り込む女性、木の枝を振りながら楽しそうに駆けていく子どもたち。
 多少距離があるとはいえ、とても付近の山にドラゴンが飛来したとは思えない平穏さだ。

 火山の後ろは山の連なる山岳地帯。人への被害を食い止めるなら、一番警戒すべきはこの村のはずなのに……。
 村はずれのだだっ広い柵のなかに、半ば放し飼いのような状態で置かれた羊たちを見つけて確信した。

 この村にはまだ――ドラゴンの情報が伝わっていないのだ。

 魔獣を用いた通信機は非常に高価で、本来個人で所有できるようなものではない。地方ともなれば、置いているのは領主のお屋敷か、主要な街の役場くらいのものだろう。

 あの一瞬に空を眺めていた人がいれば、あるいは気付けただろうか。……でも、私だって窓から見た『黒雲』を、ドラゴンだなんて認識はできなかった。
 それほどに馴染みのない、遠い存在。

 素早く周囲を確かめながら、村から続く道をどんどんと火山方向に向かって進んでいく。

 ヨルグの指示で領主の元には連絡が行っているとして、そこから各町村へと伝達されるのにどれくらいの時間がかかるだろう?
 その間に、被害が出ないという保証は?

 ちゃんと役目を果たせた――なんて、のんきに考えていた自分が恥ずかしい。

 どこにいようと、どこにあろうと、『見たいもの』を能力。
 それならば――。

「この付近にいる、『人』を見せて……!」

 両手を胸の前で組み合わせ、神に祈るように小声で唱える。

 ここは村から少し離れた位置。誰もいないのであればそれが一番だ。
 この時間であれば帰宅した人たちはみんな家で過ごすだろうし、明朝までにはきっと伝令も到着しているはず。

 誰も見えなくていい――。
 そんな願いも虚しく、視界は三人の親子連れを映した。

「っ!」

 笑顔で会話しながら村の方角へと歩いていく男女。
 女性の手には敷物や花や木の実の入ったバスケット。男性の背中では、遊び疲れて眠ってしまったのだろう幼い少女が安心しきった顔で揺られている。
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