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31~40話

位置の特定【下】

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「今から偵察隊を現地の確認に向かわせるが、リズが見たものを疑っているわけではない。それだけは信じてほしい」

「はい。疑われてるなんて思ってませんよ」

 こんなに重大な役割を、私を信じて任せてくれた。むしろ、どうしてここまで信じてもらえるのかと不思議なくらいだ。
 そんなヨルグを私のほうから疑うなんて、あるはずがない。

「ありがとう。今から少々人の出入りが増えて慌ただしくなるが、リズはゆっくりお茶でも飲んでいてほしい。挨拶も必要ない」

 ヨルグはそう言うと、通信機でどこかに連絡を入れながらローテーブルに広げていた地図を取り上げ、脇にどかされていたティーセットを私の前に置き直してくれた。

「はい……」

 おじいちゃんと交わした『私の側についている』との約束があるせいで、ヨルグは席を外すことができないのだろう。行動を制限しているようで申し訳なくも思うけれど、実際この場に一人で取り残されるのは恐ろしいのでヨルグの言葉に甘える。もし一人でいて急な訪問者でもあろうものなら、心臓が口から飛び出しかねない。

 ……私は、ちゃんと役目を果たすことができたのだ。
 小さな達成感を胸に、すっかりぬるくなった紅茶に口をつけた。



「――――伯爵領に、至急――――」
「結界管理部への――――、――――」
「第三の分隊が近くに、――――。――――、魔獣の動きを――――」

 もはや閉じることなく開け放たれたままの扉から、入室した人々は驚いたように私を一瞥いちべつしたあと、すぐさま執務机に広げられた地図に向き直ってヨルグと話し込む。
 ヨルグは普段のオドオドした態度が嘘のようにハキハキとして迷いなく、通信で、対面で、各所に指示を飛ばしていた。


「かっこいい……」

 バターの香り立つクッキーの欠片とともに、膨らんだ感情がポロリと口からこぼれ落ちる。

 こうして、ヨルグが職場の人と関わる姿を見るのは初めてだ。判断力があって、的確で、頼もしく。その堂々とした姿に、やはり本当に騎士なのだと実感する。
 そのうえさらに、人々を想う優しい心まで兼ね備えているなんて……そんなのもう、好きになるなというほうが無理な話だ。

 今まで誰とも付き合ったことがないと言っていたけれど、きっと告白だけなら数えきれないほどされてきただろう。美しく着飾った、私より地位も教養もある女性たちに――。

 ……もっと、私にも手伝えることはないだろうか。

 たくさん役に立てればヨルグの隣に並ぶ資格が得られるなんて、そんな単純なものではないけれど。対処に奔走する人々の横で、何もせずにお茶を飲んでいるというのも性に合わないのだ。

 たとえば……そう、山を下りてきた魔獣の位置や数を伝えるとか。うん、偵察隊の役にも立てるだろうし、我ながらなかなかいい思いつきだと思う。

 ヨルグの雄姿を目に焼きつけて、そっとまぶたを閉じる。

 行ったことのない場所。
 見たことのない景色。

 いけるだろうか……。
 先ほど遥か下方に小さく見えただけの村を、強く思い浮かべる。


 ――そうして目を開けば、見たこともない村ののどかな風景が広がっていた。
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