不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている（※のぞきは犯罪です）

31～40話

おばあちゃんのこと【上】

「私っ、何かの役に立てませんか！？　見えない場所のものを見る、透視の力があるんです！」

　ドアに向いていたヨルグが振り返る――その僅かな時間さえも永遠のように感じる。

　言った。
　言ってしまった。

　生まれつき持っていた、私にとっては当たり前の能力。
　透視が誰にでもできることではないのだと、特別な能力なのだと両親から告げられたときにはひどく驚いた。青いと思っていた空が、実はみんなには赤く見えているのだと聞かされるくらいに。
　同じ能力は持たなくても、両親が私の『見たもの』を疑うことはなかった。そもそも探し物の在りかやお菓子の隠し場所など、数や種類までピタリと言い当ててしまうのだから疑う余地もなかったのだろう。

　ヨルグは……違・う・色・の・空・が見える私でも、受け入れてくれるだろうか。
　いつでも優しいヨルグだけれど、優しさと信じてくれるかどうかは別問題。どんなに怖くても、もう打ち明ける前には戻れないのだ。

「……リズ」

「あっ、あのっ！　この力を使うと建物の向こう側にいる人を見たりできるんですよ！　偵察に同行させてもらえれば、ほらっ、ドラゴンが火口内部にいても見えるのでっ！　移動中の魔獣だって見えると思いますし、きっとお役に立てると思うんです！」

　ヨルグの言葉を聞くのが怖くて、早口にまくしたてる。

　お願い、疑わないで。……嫌わないで。
　何も言わずに協力させて。
　いつものように働きに出た山で、急に魔獣と遭遇したらどうなる！？　家族の帰りを待つ寂しさなら、痛いほど知っているから……。

　見知らぬ誰かを守るため。
　そして同じくらい、いつも助けてくれるヨルグの力になりたい。

「……リズ、移動を余儀なくされた魔獣たちは気が立って凶暴化している可能性が高い。訓練された騎士であっても、火山への接近には大変な危険が伴ともなうんだ」

「でっ、でも！　透視するだけなら、ほんの一瞬近づければ――」

「ダメだ。市民を守るためにリズを危険に晒していては意味がない」

　そんな……。
　信じてもらえない可能性は考えていたけれど、協力させてもらえないなんて思ってもみなかった。