不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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31~40話

誰かのために【中】

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「ああ、リゼットのパンを基にした。ちっこい子どもなんかが喜びそうだろ」

 ウサギの耳部分はあえて薄く成形されていてカリッカリ、顔はパリふわで、目には甘酸っぱいドライクランベリー。見た目だけでなく味や食感まで楽しめる。
 ムスッと怖い顔をしながらも、おじいちゃんはなかなかどうして子ども好きなのだ。

「んーっ、美味しい! これは間違いなく喜ばれると思うわ。可愛すぎて、食べちゃうのがちょっと可哀想な気もするけど……ふふっ。ヨルグさんもどんどん食べてくださいね。おかわりもたくさんありますから」

 可愛さと美味しさに、クスクスと笑いながらパンを頬張る。
 やっぱりおじいちゃんの焼きたてパンは最高だ!

「ありがとう、パンもシチューもとても美味い。こっちのパンにはベーコンが入っていた」

「ヨルグさんのって……ブタの形?」

 ヨルグのパンを指差しておじいちゃんを見れば、素っ気ない頷きが返ってくる。

「ブタのパンに、ベーコン豚肉……」

 ベーコン入りは美味しそうだけれど、ちょっとその組み合わせはまずくないだろうか。ブタに豚肉を入れるという行為が『可愛らしさ』とは対極に位置するような……いや、だからといって人型パンに入っていたらもっとアウトな気がするけれど……。

「――ま、美味しければいいわよね!」

 冷める前に、と大きな口でパンを頬張る。
 なんといっても『美味しい』は正義なのだ。




 ヨルグから空の器を受け取り、おかわりをよそうため調理台へ向かうと、背後でリンッと鈴の音が鳴った。
 ヨルグの通信機に連絡が入ったらしく話し声が聞こえる。食事中でも休日でも即座に応対しないといけないなんて、大変な仕事だと思う。

 ……あれ? もし呼び出しだとすれば、おかわりを食べている時間はないだろうか?
 鍋のフタを開けて一考していると、ふっと窓の外が暗くなった。

「やだ、雨かしら?」

 調理台前の窓を開けて空を見上げる。雨雲が来たのなら、急いで庭の洗濯物を取り込まなくては。

「……んん?」

 黒い『雨雲』が動いているような気がして空を凝視していると、通信中のヨルグがズイッとこちらに顔を寄せて窓の外を見上げた。
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