不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている（※のぞきは犯罪です）

31～40話

下着の役割とは？【上】

　紐……、枠……、網……。
　ハンガーに吊るされた商品を見ながら、私のなかの下着の概念が揺らぎはじめる。

「えっと……これとか、全部見えちゃってますよね……？」

「逆にぃ、見せずにどうするんですぅ～？」

　よかった、私の目にだけ映らない新素材ではなかったらしい。しかし私の知る『下着』とは、隠すための装備だったはず……。

「肉体は女の武器ですしぃ、若いうちは特にバンバン見せつけていかないとぉ～。下着次第でいくらでも攻撃力アップできるのでぇ～」

「武器……、攻撃力アップ……」

　目の前の『枠』を見つめる。
　攻撃力に特化した結果、防御力は消失したようだ。これが諸刃の剣……。

「お客さんの肌の色ならぁ、この辺の色とか似合いそう～。これとかぁ～、こっちもぉ～」

「いえ、あのっ、私そういうス・ッ・キ・リ・し・た・の・は似合わないかと……っ」

　おおよそ下着とは思えない紐をあてがわれそうになって後ずされば、背後の棚に当たって逃げ場を失った。

　どれもこれも風通しがよすぎるのだ。
　ここに私の知る『下着』はない！　お家に帰りたい！

「たしかにちょ～っとお胸が寂しいのでぇ、シンプルなものよりこっちのぉ～」

　泣きたい……！






「っはぁぁ、やっと解放された……」

　特別何をしたわけでもないのに、ぐったりとしてお店を出る。
　そして今さらながら気付いたのだけれど、ヨルグを興奮させるのが目的ならばセクシーな下着よりも、ハンカチを巻きつけておくほうがよっぽど効果的だろう。

　気を取り直して深く息を吸い込む。
　ああ、外の空気が美味しい。すぐそこは娼館街だけど――――って！

「ヨルグさん！？」

　視界の端を見慣れた長身が霞めた気がしてバッと顔を向ける。
　通りを横切って消えた影を追うように目を凝・ら・せ・ば・、建物に遮さえぎられた先にヨルグの姿を見つけた。

「やっぱり、ヨルグさんだわ……」

　騎士服を着ていることから、遊びに来たわけではないとわかる。特に急いでいる様子もないので見回りの途中か何かだろう。
　元々今日はヨルグに食事の誘いを受けていたはずなのに……。日程を融通しやすいと言っていた通り、私との予定に合わせて休みを都合してくれるつもりだったようだ。