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31~40話

一歩踏み込むその先は【上】

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 告白された翌日というのは、一体どんな顔をして会えばいいのだろう? ――特に、やましい秘密を抱えている場合。

「んぃっ、いいぃいらっしゃいませっ、ヨルグさん!」

 来ることなんてわかりきっていたはずなのに、いつものように朝一で来店したヨルグを前に盛大にうろたえる。

「おはよう、リズ」

 ああ……もうダメだ。
 ヨルグが私のことを好きだと思うだけで、名前を呼ぶ声さえも甘さを帯びて聞こえてきた。とんだ自意識過剰である。

 こんなとき、しれっと何食わぬ顔をしていればいいのだろうか。……全然できる気はしないけれど。
 それとも告白が嬉しかったことを伝えるべく、頬が緩むに任せてニヤニヤしていればいいのだろうか。……こっちは簡単にできそうだ。
 どうにも表情が定まらず、レジを確認しているふりをして顔を伏せる。

 私の戸惑いとヨルグの希望もあって、告白の返事は現在保留中。
 けれど唯一の懸念材料だった『想い』問題が解決した今、私の迷いはなくなった。

 ヨルグに、『私も好きです』と伝えるのだ!

 ――と、その前に。
 私の秘密についても伝えておく必要があるだろう。

 付き合う相手に隠し事はしたくない? 何もかもさらけ出してありのままを受け入れてほしい? そんな思いも、もちろんあるにはある。
 けれど、打ち明けようと思う一番の動機はそれじゃない。

 透視のことを隠したまま付き合いはじめたところで、ヨルグといるときにうっかり透視を使ってボロを出す予感しかしないのである……!

 ヨルグの部屋を覗いていることだって、聞かれないから隠し通せているだけで、『俺の部屋を覗いていないか?』なんて質問された日には切り抜けられる気がしない。

 もしも交際後に透視能力がバレたとして。それまで親密に付き合っていた相手に急に態度をひるがえされたら――きっと、一生立ち直れないと思う。
 自分を全否定された気持ちになって、人に心を寄せることが怖くなるだろう。

 それならば、最初からすべてを伝えたうえでヨルグの判断に任せてしまいたいのだ。私を能力ごと受け入れられるか、受け入れられないか。
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