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31~40話

私の能力【上】

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「ヨルグさんが……、私を……」

 ベチンッと両手で顔を覆い、抑えきれない幸福感にじたばたと身悶える。今朝起きてからもう何度こんなことを繰り返しただろう。

 昨日のデートで、ヨルグは私のことを愛していると言った。初めて会った日からずっと好きだったと。

 興奮になかなか寝つけない夜を越えて、朝。
 「夢っ!?」と叫びながら跳ね起きた私は、卓上のカップにヨルグから貰った白い花が浮かべられているのを見て、昨日の告白が夢ではなかったと胸を撫で下ろした。

「ってことは……あとは私が気持ちを伝えさえすれば、晴れて恋人同士に……っ!」

 んふふふふ、と笑いが漏れてしまう。

 ずっと、ヨルグには他に想う女性ひとがいるのだと思っていた。
 ヨルグが大事にしているピンクのハンカチの持ち主であり、かつての恩人だというその人。

 毎晩ヨルグのを覗くたび、ドキドキと高揚する気持ちの奥で、他の女性に寄せられる慕情を見ているのだという切なさを感じていた。私への告白さえも、本命を諦めた結果ではないかと勘ぐって。
 ――けれど昨夜、私が贈ったばかりのハンカチが登場したことで気付いたのだ。

 ずっと敵わないと思っていたライバルは、『ハンカチ』そのものだったのだと!

 一体誰が予想できただろう!?
 ヨルグは愛着のあるピンクのハンカチではなく、あげたばかりの黒いハンカチに対してもあんなにも興奮していた。それはつまり、『ハンカチ』でありさえすれば贈り主は問わないということ。
 毎晩ヨルグを覗き見ていた私だからこそ気付けた衝撃の事実である。

 結果的に、私が贈ったハンカチも早速私のライバルになってしまったわけだけれど……それはそれ。
 ハンカチと交際や結婚ができるわけでもなければ、ハンカチ相手のを「浮気だわ!」なんて責めるつもりもない。
 人間の女性のなかで私を一番好きだと思ってくれていれば、それで十分だ。

 ヨルグの『想い人』問題が解決した今、二人の幸せな交際に影を落とすものはない。



 弾む足取りで階段を下り、にやける顔をグニグニと直しながら厨房に顔を出す。

「おじいちゃん、おはよう! 素晴らしい朝ね!」

「おう、おはよう」

 おじいちゃんはチラリとこちらを見てそう言うと、再び引き出しを漁りだした。
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