不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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21~30話

ナイショの話《ヨルグ視点》【上】

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 小さな指の示す先――馬車列の先頭では、一台の荷馬車が通行チェックの順を迎えたところだった。

 同行しているのは商人風の男が一人と、護衛らしき男が二人。今は馬車の傍らに立ち手綱を引いていて、荷台にはいくつかの木箱とロール状の布地が山積みになっている。

 布の運搬に護衛二人というのは少々大袈裟な気もするが、心配性の商人であればありえない話ではないだろう。
 門衛の一人が上段の木箱を開けて中身を確認しているものの、入っているのは大量の紡績ぼうせき糸のようだ。

「あの馬車に少年が乗り込むのを見たのか?」

「ううん、乗ってるのが『見える』のよ。……本当はナイショにしなさいって言われてるんだけど、騎士さまは正義の味方だから特別に教えてあげるわ。あのね……」

 手招きされるままに耳を寄せると、少女は聞き取れないほどの小声でコショコショとを打ち明けた。

「わたし、トーシができるの。見えない場所のものが見えるのよ」

「…………透視?」

「そう! でもあの男の子、今は寝ちゃってて目の色が見えないの! きっとなかなか見つけてもらえなくて眠くなっちゃったのね。わたしも隠れながら寝ちゃったことあるから、よくわかるわ」

 少女は訳知り顔でうんうんと頷いている。

 寝ている――つまり、意識のない状態ということか。眠らされているだけであればいいが、最悪の場合……。
 じわりと、背筋に嫌な汗が滲む。

 決して子どもの話を鵜呑みにするわけではない。けれど実際に、この少女が伝えていない王子の服装を言い当てたことは事実。少なくともなんらかの形で王子を目にした可能性は高い。

 少女が何者かとグルになって捜索を妨害しようとしている可能性もゼロとは言い切れないが、人をあざむくならば『透視』よりも、もっと説得力のある言い分を用意しただろう。
 その話の荒唐無稽さが、逆に信用に繋がる。
 なにより今は僅かな手がかりにでもすがるしかない状況だ。

「ねえ、探してるのがあの子なら、早くしないと馬車が門を出ちゃうわ!」

「……ああ。だが勝手な判断で行動はできない。まずは現況を報告して指示をあおぐ」

 この不確実な状況でどう動くか。尾行するにせよ、声をかけるにせよ、まずは隊長の指示をあおぐ必要がある。
 立ち上がって注意深く馬車を見つめながら、右耳の通信機に触れる。

「こちらデファーロット。西門で『対象』らしき少年を目撃したとの情報を入手。状況は――――。はい、――――。――で、――――」

「んもう! ぐずぐず言わずに行動しなさいって、おかあさんもよく言ってるのに!」

 信憑性を損ないかねない『透視発言』については伏せて、目撃談として少女の話を伝える。
 そして下された指示は、すぐに周辺の騎士を応援に向かわせるので、到着を待って複数人で尋問にあたるように、というものだった。

 根拠が子どもの証言のみでは、管轄の違う門衛にまで協力を求めることは難しいらしい。応援の到着までどうやって馬車を足止めしたものかと考えあぐねつつ、諾の返事に口を開きかけたそのとき。
 注視する視線の先に、小さな背中が躍り出た。
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