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21~30話

ナイショの話《ヨルグ視点》【下】

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「おじさんたちー! ねえ、ちょっと待ってちょうだいー!」

「なっ――!」

 小さな身体のどこにそんなエネルギーが詰まっているのか、少女はボールが転げるような速さで馬車のほうへと駆けていく。
 当の男たちは子どもの声など気にも留めず、押印済みの通行許可証を受け取ってさっさと馬車に乗り込みはじめた。

「ねえ、待ってってばー! そこよ! そこの木箱のなかに、男の子が入ってるのー!」

 少女がそう言って木箱の一つを指差した途端、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべて門衛に応じていた男たちの顔から、ふっと笑みが消えた。

 まずい――!

 気付けば、駆け出していた。

 他者のために自身を危険に晒すなど、どうしたらそんな真似ができるのかと、どこか自分には遠い世界のように憧憬の念を抱いていたはずなのに。
 今だって、その動機はわからないのに。

 馬車に乗り込もうとしていた護衛の一人が、先に行くよう馬車に顎をしゃくって少女に向き直る。
 話を聞いてやるような素振りでおもむろに少女に近づき、死角となるようその巨体の影に少女を囲うと――。足元の少女目掛け、ためらいもなく短剣を振り下ろした。


 ――ザクッ!

「っ――」


 頬を生温かなものが伝う。
 左の目元が焼けるように熱い。
 少女と男のあいだの僅かな隙間に強引に身体を割り込ませたせいで、攻撃をかわすほどの余裕はなかった。

 みっともないと眉をひそめる父の顔が浮かぶ。
 それでも、切られたのが目の『下』でよかった。これなら流れる血に視界を塞がれることはない。

 少女を狙ったはずが王国騎士を害してしまった。その事実に男がひるんだ隙に、懐に手を差し入れて思い切りその顎を突き上げた。

 ゴッ――

 立ち上がって即座に剣を構え、門衛へと指示を飛ばす。

「その馬車を行かせるな!」

 無抵抗のこちらが先に攻撃を受けたのだ、王子が居ようと居まいと大義名分は立つ。
 巨体の背に遮られて状況を把握していなかった門衛二人は、思いのほか深い傷からだくだくと血を滴らせる俺と、ふらりと立ち上がり再び攻撃に向かってくる男を見て、大慌てで馬車を止めに向かった。
 同時に駆けつけた騎士仲間が俺に加勢しようとするのを断り、馬車の確認に向かってもらう。


 苦戦しつつもどうにか男を打ち倒して縄で拘束していると、門の向こうから朗報が届いた。

「――を保護! 無事を確認!」

 その知らせに、俺はようやく深く息を吸い込んだ。
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