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21~30話

満月の瞳【中】

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 大事そうにベッドサイドにしまわれているピンクのハンカチ。
 愛おしげに見つめ、撫でて、口づける、大切な人との思い出のハンカチ。

 ヨルグが一番愛しているのは、あのハンカチの本当の持ち主ではないのだろうか……。

 ハンカチの主は、もしかしたら……すでに結婚してしまったか、遠い地に行ってしまったか何かで、もう想いを伝えることのできない相手なのかもしれない。
 ヨルグは嘘をつく人ではない。器用に気持ちを切り替えて立ち振る舞えるような人でも、ないように思う。だからきっと、私のことが好きだというのも本心だ。

 でも――もしも今後、ハンカチの主がヨルグの前に現れるようなことがあったら?
 そのときヨルグの瞳に、私は映っていられるだろうか――?

「わ……私…………」

 何を迷う必要がある。
 一番になりたいなんて無謀な願いは捨てて、手放しで飛び込めばいい。
 大好きな人に好きだと言われ、答えなんて決まりきっているのに、喉の奥に張りついた言葉が出てこない。

「返事は今すぐでなくていい。……いいや、違うな。もう少しだけ俺に、期待を抱いて過ごす時間を許してほしい。こうしてリズに愛を捧げる男がいるのだと……少しでも意識してもらえたなら嬉しい」

「……っ」

 答えたいのに、答えられなくて。
 つかえてしまった喉の代わりに、たくましい腕のなかでヨルグにもたれてしがみつく。

「リズっ!?」

 ずっと私を抱き止めたままでいて、どうして今さら動揺しているのか。
 私の好意だってものすごくわかりやすかったはずなのに、振られる前提のような口ぶりなのも不服でならない。

 跳びはねて駆け回りたいほどの嬉しさと、未熟な恋心ではうまく消化できない小さなモヤモヤと。言葉にできないごちゃ混ぜの心が、触れた部分から丸ごと伝わってしまえばいい。
 そうすれ、私がどれほどヨルグを想っているかも伝わるのに――。

 時間を置こうと置くまいと、答えは最初から決まっている。ヨルグからの告白を断るなんてありえない。
 それでももう少し、『思い出』を思い出と割り切るための時間が欲しい。
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