60 / 213
21~30話
食後のデザート【中】
しおりを挟む
「ごちそうさま。どれもとても美味かった」
「えっと……お腹、無理してませんか?」
「ああ、リズの手料理ならいくらでも食べられる」
私の心配をクスッと笑ってヨルグが答える。
私が食べているあいだは、きっと私の分まで食べ尽くしてしまわないようペースを合わせてくれていたのだろう。
まだ食べられるというヨルグの言葉に、そういえばデザートの焼き菓子まで用意してきたのだったと思い出す。
私は到底入らないけれど、もしかしたらヨルグは食べるだろうか。
そう思って鞄を探ると、指先にカサッと紙の包みが触れた。
「!」
手料理だけではお礼に足りないからと、こっそり用意してみたプレゼント。
ヨルグが好きそうなものはなんだろうと悩み、手作りすることにして、毎晩ちょっとずつ手を進めて今日に間に合わせた。
でも…………。
ヨルグは私が今日のデートをどれだけ楽しみにしていたかなんて、露ほどもわかっていなかった。まさか、来ないかもしれないと思われていたなんて。
私一人が浮かれて、張り切っているだけだとしたら……?
心臓の冷えるような心地にそっと紙の包みから手を離し、奥を探ってクッキーの入った布包みを取り出す。
「デザート代わりにクッキーを焼いてきたんです。まだ食べられそうですか?」
パッと布包みを向いたヨルグは、前髪で顔が見えないにも関わらず嬉しそうな気配を漂わせている。
「それはありがたい。今すぐ食べる、と言いたいところだが……リズはもう満腹だろう?」
「私は作りながらたくさん味見したので」
「では……頂戴してもいいだろうか」
「もちろんです。はい、どうぞ!」
ヨルグは高価な壷でも渡されたみたいに慎重に布包みを受け取ると、恭しい手つきでリボンを解いた。
「…………………………」
「…………ヨルグさん!」
食い入るようにクッキーを見つめていたヨルグが、ハッとして顔を上げる。
「いや、すまない、嬉しすぎて……。これなら料理とは違い、幾分保存がきくのではないかと思ったら……」
「じゃあクッキーも、また作ります!」
「ああ、ありがとう……!」
心底ほっとしたように感謝を伝えられる。
先ほどの発言を思い出して拗ねたいような気持ちになっていたのに、そんなふうに喜ばれたらこちらまで嬉しくなってしまうではないか。
「えっと……お腹、無理してませんか?」
「ああ、リズの手料理ならいくらでも食べられる」
私の心配をクスッと笑ってヨルグが答える。
私が食べているあいだは、きっと私の分まで食べ尽くしてしまわないようペースを合わせてくれていたのだろう。
まだ食べられるというヨルグの言葉に、そういえばデザートの焼き菓子まで用意してきたのだったと思い出す。
私は到底入らないけれど、もしかしたらヨルグは食べるだろうか。
そう思って鞄を探ると、指先にカサッと紙の包みが触れた。
「!」
手料理だけではお礼に足りないからと、こっそり用意してみたプレゼント。
ヨルグが好きそうなものはなんだろうと悩み、手作りすることにして、毎晩ちょっとずつ手を進めて今日に間に合わせた。
でも…………。
ヨルグは私が今日のデートをどれだけ楽しみにしていたかなんて、露ほどもわかっていなかった。まさか、来ないかもしれないと思われていたなんて。
私一人が浮かれて、張り切っているだけだとしたら……?
心臓の冷えるような心地にそっと紙の包みから手を離し、奥を探ってクッキーの入った布包みを取り出す。
「デザート代わりにクッキーを焼いてきたんです。まだ食べられそうですか?」
パッと布包みを向いたヨルグは、前髪で顔が見えないにも関わらず嬉しそうな気配を漂わせている。
「それはありがたい。今すぐ食べる、と言いたいところだが……リズはもう満腹だろう?」
「私は作りながらたくさん味見したので」
「では……頂戴してもいいだろうか」
「もちろんです。はい、どうぞ!」
ヨルグは高価な壷でも渡されたみたいに慎重に布包みを受け取ると、恭しい手つきでリボンを解いた。
「…………………………」
「…………ヨルグさん!」
食い入るようにクッキーを見つめていたヨルグが、ハッとして顔を上げる。
「いや、すまない、嬉しすぎて……。これなら料理とは違い、幾分保存がきくのではないかと思ったら……」
「じゃあクッキーも、また作ります!」
「ああ、ありがとう……!」
心底ほっとしたように感謝を伝えられる。
先ほどの発言を思い出して拗ねたいような気持ちになっていたのに、そんなふうに喜ばれたらこちらまで嬉しくなってしまうではないか。
52
お気に入りに追加
1,017
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる