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21~30話

手作りのランチ【下】

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 私が今日の日をどれだけ楽しみにしてきたと思っているのか。毎日予定表を見つめては、指折りデート当日を待っていた私の気持ちなんて、ヨルグはちっともわかっていないのだ。

 昼食は何を作れば喜んでもらえるだろうとか、どんな服を着ていこうとか。ピクニックに必要な物を買い足したり、手料理だけではお礼に足りないからと、ちょっとしたプレゼントまで用意してみたりして。

 私の好意なんてバレバレなはずなのに、なんでそんなことを言うのだろう。
 怒りたいような寂しいような気持ちになって、フンッと顔を背ける。

「来ないなんてありえないです! 『デート』ならなおさらっ!」

「それはどういう――いや、リズ。聞いてほし」

 ヨルグの言葉に、リンッと鈴のような高音が重なった。
 ヨルグは前のめりになっていた姿勢を戻し、一呼吸して右耳に手を添える。

「……失礼」

 そう言って後ろを向くと、二言、三言低い声で話をして、こちらに向き直った。

「緊急事態ですか?」

「いいや、すまない。今日が非番だと周知されていなかったらしく、急ぎの用件ではなかった」

「そうですか。よかった……」

 騎士への緊急連絡ともなれば、重大な事件や事故が起こった証だ。心配が無駄に終わったことに、ほっと胸を撫で下ろす。

「耳のって通信機ですよね? お休みの日でも外さないのって、やっぱりいつでも駆けつけられるようにですか?」

 ヨルグの長い前髪から覗く、右耳に付けられた銀のイヤーカフ。騎士の全員が装着しているもので、昔誰かがそれを使って通話していたのを見たことがある。
 仕事帰りでも休日でも四六時中付けているから、気が休まるときがなくて大変そうだと思っていたのだ。

「どちらかと言うと、『外さない』ではなく『外せない』が正しい。血流を感知して作動する魔道具でな。敵に通信が漏れるのを防ぐため、血流が途絶えるか、外そうとすれば壊れる仕組みになっているんだ」

「血流……」

 アクセサリーのような見た目をして、そんなに恐ろしげな機械だったとは。

 耳への血流が途絶える事態ということは、それはつまり……。恐ろしい想像が浮かびかけてブンブンと首を振っていると、鼻先にふわりと香ばしいにおいが届いた。

「あっ、お魚! そろそろ焼けたんじゃないですか!? ちょっと見てきま……って、あれ? そういえばヨルグさん、さっき何か言いかけてませんでしたっけ?」

 通信機の恐ろしさでかき消されてしまったけれど、何かを話している途中だったような気がする。
 靴を手に取りつつ振り返ると、ヨルグがすっと立ち上がった。

「……いいや。魚は俺が見に行こう」

 焚き火へと向かう背中が、ちょっとシュンとして見えたのは気のせいだろうか。
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