不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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11~20話

一滴の染みのような【上】

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 足首までしかない浅い小川のなか、裸足で小魚を追い回したことならあるけれど、釣りをするのは初めてだ。大人たちが釣りをするような川幅の広い場所には近寄ってはいけないと教えられていた。


 しかし釣りをすると言ったって、小振りなヨルグの荷物のなかに釣り竿なんて入っている様子はない。どうするつもりなのかと眺めていると、ヨルグは荷物から小さな糸巻きを取り出し、ナイフ片手にしゃがみ込んで作業を始めた。

 落ちていた細い枝を短く折って両端を削り、中心に糸を結びつける。手頃な太さの枝を選んで反対の糸端を結べば、あっという間に釣り竿の完成だ。

「これを使ってくれ」

「すごーい! 釣り竿ってこんなに簡単に作れちゃうんですね!」

 隣にしゃがみ込んで釣り竿を受け取り、ヨルグの器用さに目を輝かせる。
 軽く振って感触を確かめてみても、なんだか使いやすそうな気がする。私の初めての釣り竿!

「さして強度のない簡易的なものだがな。小さな魚相手なら十分通用する」

 話しながら、ヨルグは同じ手順でもう一本針を削りだして糸を結びつけた。

「ありがとうございます! ……あれ? ヨルグさんの分は持ち手を付けないんですか?」

「ああ、このほうが『引き』を感じやすいんだ。……俺の場合は手の皮が厚いからな。直接糸を手繰たぐっても怪我をすることはない」

 そう言って手のひらを見せてくれたので、釣り竿を一旦置いて両手で触れて確かめる。

 私より二回りも大きなヨルグの手。剣だこのある手の皮は、指先で突ついてみてもへこまないほど硬い。

 つんつん、ぐにぐに。

「本当、すっごく硬い……!」

 なるほど、この頑丈な手のひらで剣を握り、悪と戦ってくれているのか。
 押せばへこむぷにぷにな私の手のひらとは大違いだ。

 なでなで、さすさす。

「おっきくて……ごつごつ……」

 長年の鍛錬でつちかった努力の賜物たまものだろう。平和を守る人というのは、手のひらからして頼もしいものらしい。

「立派ですねぇ……」

「…………リズ、その……もう、いいだろうか……」

「へ? あっ、長々とすみません!」

 慌てて手を放せば、ヨルグは解放された手のひらをしばし見つめてぐっと拳を握りしめた。

「リズ――」

「よーっし! いっぱい釣りましょう!」

 すっくと立ち上がって気合いを入れる。
 ヨルグが作ってくれたこの釣り竿があれば、初心者の自分でもたくさん釣れそうな気がしてきた!

「湖が空っぽになるまで釣っちゃいますよ!」

 釣り竿を持った手をぶんぶんと振りながら意気揚々と湖へ踏み出すと、冷静なヨルグが椅子代わりになりそうな倒木のある方へと誘導してくれた。
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