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11~20話
一滴の染みのような【下】
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どういうこと……?
今のヨルグの返答に、『隊長』だと知っている私を訝る様子はなかった。それどころか、私が知っているのが当然かのような口振り。
「……私、ヨルグさんが『隊長』だって、先日人から聞いて初めて知ったんですけど……」
「っ!?」
口元に浮かんだ笑みが消える。
焦ったようにはくはくと口を開閉したヨルグは、釣り糸を手放し身体ごとしっかりと私に向き直った。
「すまない! 隠しているつもりはなかったんだ! てっきり伝わっているものとばかり……!」
「伝わって……?」
「ああ。その……リズとは毎朝、騎士服姿で会っていただろう?」
「はい」
素直に頷きを返す。
それが、私が『知っている』こととどう関係があるのだろう。
「騎士服の肩章は階級によって色が変わるんだ。一般の騎士は黒色だが、副隊長は白色、隊長は銀色、騎士団総長は金色になる。多くの場合肩章の色で判断されるものだから、自ら階級を名乗る機会が少なく……完全に伝え忘れていた! 本当にすまない!」
頭を下げたヨルグのつむじを見つめ、あんなに悩んだ日々が嘘のような呆気ない結末に、ひゅるひゅると脱力する。……たしかに、街中で見かける警らの騎士とは肩のフサフサの色が違った気がする。
よくよく思い返せば、ヨルグから『騎士』だと名乗られたこともなかったはずだ。そんなものは騎士服姿を見ればわかることで、お互い暗に伝わっているとの了解がある。
肩章に関しては、ヨルグにとっての前提の範囲が少し広かったというだけのことだろう。
「なんだ……」
――なぁんだ!
伝える必要のない他人だと思われていたわけでも、隠されていたわけでもなかった!!
答えは最初から見えていたのだ。
悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくもなるけれど、私以上におろおろと慌てふためくヨルグを見ていると、こんなにも心を割いてもらえているのだという実感に嬉しさが込み上げる。
ヨルグは私を――私の心を、どうでもいいものだなんて思っていなかった!
「本当に、隠してたわけじゃないんですよね?」
「剣に誓って」
騎士が剣に誓うのなら、きっと最大級の誓いだろう。
「じゃあ、ヨルグさんは隊長で……『貴族』なんですね?」
核心に触れれば、ヨルグはためらう素振りもなくコクリと頷いた。
「ああ。次男だから家を継ぎはしないが、実家は子爵家だ」
「やっぱり……」
貴族という絶対的な格差にそれでもあまりショックを感じないのは、こうして面と向かい合って話してくれるヨルグとの心に距離を感じないからだろうか。
それとも単純に、爵位を継ぐわけではないと聞いて安心したからだろうか。
「……これからも今まで通り、仲良くしてくれますか?」
「こちらの台詞だ。重要な話を伝え忘れる愚か者だが……、呆れずに付き合ってもらえると嬉しい……」
「ふふっ」
全部話してくれたからといって、ヨルグが手の届かない存在であることには変わりないはずなのに。
今はただ、しょんぼりと項垂れるヨルグが愛おしくて愛おしくて。抱きしめたいと暴れる恋心を抑えるのに必死だった。
今のヨルグの返答に、『隊長』だと知っている私を訝る様子はなかった。それどころか、私が知っているのが当然かのような口振り。
「……私、ヨルグさんが『隊長』だって、先日人から聞いて初めて知ったんですけど……」
「っ!?」
口元に浮かんだ笑みが消える。
焦ったようにはくはくと口を開閉したヨルグは、釣り糸を手放し身体ごとしっかりと私に向き直った。
「すまない! 隠しているつもりはなかったんだ! てっきり伝わっているものとばかり……!」
「伝わって……?」
「ああ。その……リズとは毎朝、騎士服姿で会っていただろう?」
「はい」
素直に頷きを返す。
それが、私が『知っている』こととどう関係があるのだろう。
「騎士服の肩章は階級によって色が変わるんだ。一般の騎士は黒色だが、副隊長は白色、隊長は銀色、騎士団総長は金色になる。多くの場合肩章の色で判断されるものだから、自ら階級を名乗る機会が少なく……完全に伝え忘れていた! 本当にすまない!」
頭を下げたヨルグのつむじを見つめ、あんなに悩んだ日々が嘘のような呆気ない結末に、ひゅるひゅると脱力する。……たしかに、街中で見かける警らの騎士とは肩のフサフサの色が違った気がする。
よくよく思い返せば、ヨルグから『騎士』だと名乗られたこともなかったはずだ。そんなものは騎士服姿を見ればわかることで、お互い暗に伝わっているとの了解がある。
肩章に関しては、ヨルグにとっての前提の範囲が少し広かったというだけのことだろう。
「なんだ……」
――なぁんだ!
伝える必要のない他人だと思われていたわけでも、隠されていたわけでもなかった!!
答えは最初から見えていたのだ。
悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくもなるけれど、私以上におろおろと慌てふためくヨルグを見ていると、こんなにも心を割いてもらえているのだという実感に嬉しさが込み上げる。
ヨルグは私を――私の心を、どうでもいいものだなんて思っていなかった!
「本当に、隠してたわけじゃないんですよね?」
「剣に誓って」
騎士が剣に誓うのなら、きっと最大級の誓いだろう。
「じゃあ、ヨルグさんは隊長で……『貴族』なんですね?」
核心に触れれば、ヨルグはためらう素振りもなくコクリと頷いた。
「ああ。次男だから家を継ぎはしないが、実家は子爵家だ」
「やっぱり……」
貴族という絶対的な格差にそれでもあまりショックを感じないのは、こうして面と向かい合って話してくれるヨルグとの心に距離を感じないからだろうか。
それとも単純に、爵位を継ぐわけではないと聞いて安心したからだろうか。
「……これからも今まで通り、仲良くしてくれますか?」
「こちらの台詞だ。重要な話を伝え忘れる愚か者だが……、呆れずに付き合ってもらえると嬉しい……」
「ふふっ」
全部話してくれたからといって、ヨルグが手の届かない存在であることには変わりないはずなのに。
今はただ、しょんぼりと項垂れるヨルグが愛おしくて愛おしくて。抱きしめたいと暴れる恋心を抑えるのに必死だった。
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