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11~20話
二人だけの景色【上】
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城壁の北門を抜けると、馬が緩やかに速度を上げはじめる。
火照りきった頬を撫でる涼風に顔を上げれば、目の前には雄大な自然が広がっていた。
「わぁー!」
どこまでも続く幅広の街道。道の先も見えないほど向こうには、頂を雲に隠した巨大な山々が連なる。
街道を挟んだ一面に背の低い草が青々と生い茂り、点在する木々は自由な形に枝葉を広げて気持ちよさそうに朝日を浴びている。
門を一歩出るだけで、こんなにも自然が溢れていたなんて。
王都に住むと決心して門をくぐったあの日から、一度も王都を出たことはなかった。
別に禁止されているわけではないけれど、出ようとも思わない。おじいちゃん以外どこにも、私を待つ人はいないから。
久しく目にすることのなかった自然の風景は、両手を広げて私を歓迎してくれているかのようだ。
馬車の荷台から見る景色とは全然違う。素足で原っぱを駆けまわったときのような、自然のなかに溶け込む一体感。
空気は光の粒を散らしたようにキラキラと輝き、その光を全身に受け止めながら風を切って進む。
「風が気持ちいいですね!」
進行方向の景色を見つめたまま、風に負けないように声を張りあげる。
「ああ、遠乗り日和だな。このまま行けば昼頃には着くだろう。……速さはどうだ? 怖くはないか?」
「ぜーんぜんっ! もっと速くても大丈夫で――」
話しながらヨルグを振り返ろうとして、あまりの近さにバッと顔を戻した。
ち、近い……!
前髪が風になびいてチラチラと目元が見えていた気がするけれど、まじまじと確認するなんて無理だ。
だって近い! 明るい! よく見える……!
逆光で陰になっていた公園のときとはわけが違う!
「なら、少し速度を上げよう」
ヨルグが足で軽く合図すると、馬が颯爽と駆けはじめた。
爽やかな風が頬の左右を吹き抜け、景色が風とともに流れていく。
耳に聞く風の声。落ちれば無傷では済まないだろう速さにも、不思議と怖さは感じない。
怖さは感じない――けども!
吹きつける風の涼しさを感じるほどに、密着した部分から伝う熱をまざまざと実感してしまう。
先日の外出でも距離が近づいた瞬間はあったものの、極僅かな時間だった。それが今回は、顔を出したばかりの朝日が空のてっぺんに昇るまでずーっとこのままだというのだ。
『近い』が、長い……!
お店のレジカウンター越しに硬貨を受け渡すほんの一瞬、手が触れあうだけだったヨルグと。
こうして一緒にお出かけしているだけでも奇跡みたいなものなのに、両手を回して抱きついて、さらには抱きしめ返すように逞しい腕に背中を支えられている。
こんな光景、夢でさえ見たことはなかった。
果たして私の心臓は、目的地に到着するまで持つのだろうか……。
火照りきった頬を撫でる涼風に顔を上げれば、目の前には雄大な自然が広がっていた。
「わぁー!」
どこまでも続く幅広の街道。道の先も見えないほど向こうには、頂を雲に隠した巨大な山々が連なる。
街道を挟んだ一面に背の低い草が青々と生い茂り、点在する木々は自由な形に枝葉を広げて気持ちよさそうに朝日を浴びている。
門を一歩出るだけで、こんなにも自然が溢れていたなんて。
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久しく目にすることのなかった自然の風景は、両手を広げて私を歓迎してくれているかのようだ。
馬車の荷台から見る景色とは全然違う。素足で原っぱを駆けまわったときのような、自然のなかに溶け込む一体感。
空気は光の粒を散らしたようにキラキラと輝き、その光を全身に受け止めながら風を切って進む。
「風が気持ちいいですね!」
進行方向の景色を見つめたまま、風に負けないように声を張りあげる。
「ああ、遠乗り日和だな。このまま行けば昼頃には着くだろう。……速さはどうだ? 怖くはないか?」
「ぜーんぜんっ! もっと速くても大丈夫で――」
話しながらヨルグを振り返ろうとして、あまりの近さにバッと顔を戻した。
ち、近い……!
前髪が風になびいてチラチラと目元が見えていた気がするけれど、まじまじと確認するなんて無理だ。
だって近い! 明るい! よく見える……!
逆光で陰になっていた公園のときとはわけが違う!
「なら、少し速度を上げよう」
ヨルグが足で軽く合図すると、馬が颯爽と駆けはじめた。
爽やかな風が頬の左右を吹き抜け、景色が風とともに流れていく。
耳に聞く風の声。落ちれば無傷では済まないだろう速さにも、不思議と怖さは感じない。
怖さは感じない――けども!
吹きつける風の涼しさを感じるほどに、密着した部分から伝う熱をまざまざと実感してしまう。
先日の外出でも距離が近づいた瞬間はあったものの、極僅かな時間だった。それが今回は、顔を出したばかりの朝日が空のてっぺんに昇るまでずーっとこのままだというのだ。
『近い』が、長い……!
お店のレジカウンター越しに硬貨を受け渡すほんの一瞬、手が触れあうだけだったヨルグと。
こうして一緒にお出かけしているだけでも奇跡みたいなものなのに、両手を回して抱きついて、さらには抱きしめ返すように逞しい腕に背中を支えられている。
こんな光景、夢でさえ見たことはなかった。
果たして私の心臓は、目的地に到着するまで持つのだろうか……。
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