39 / 210
11~20話
唯一の呼び名【下】
しおりを挟む
おじさんがまだまだ現役なものだから、今のところは見習いという名目で重たい小麦粉の搬入など重労働に駆り出されている。
根性を叩き上げようというおじさんの意志とは裏腹に、バレないサボり方の手腕に磨きがかかっていく気のする日々である。
「なんだよ、客なら文句ないだろ。ほらよ!」
テオは一番安いパンを引っ掴むと、レジ台にベチンッと硬貨を叩きつけた。
「あら、お客さんならいつでも歓迎だわ! 毎度ありがとうございます♪」
「ったく、調子のいい……」
ニッコリと笑顔を向ければジトリとした視線が返ってくる。
しかし特に気にした様子もなく、テオはレジ台に腰をもたれかけると買ったばかりのパンを嚙りながら、内緒話のように顔を寄せた。
「なぁ……昨日デートしてた相手って、不能隊長だろ?」
「フノー隊長? そんな人知らないけど?」
「この目で見たんだ、誤魔化そうとしたって無駄だぜ。仲良く腕なんか組んで、劇場に入ってったろ」
腕を組んで劇場に行った相手なんて、考えるまでもなく一人しかいないけれど……。
「もしかして、ヨルグさんのこと?」
「そーだよ。やっぱ不能隊長じゃんか!」
そら見たことかとテオが声を上げる。
初めの内緒話のような雰囲気はなんだったのか。
「さっきから、なんなのよそれ? フノー隊長、フノー隊長って。ヨルグさんは『ヨルグ=デファーロット』って名前だし、たぶん下っ端騎士だと思うわ?」
あのおどおどした性格だ。ヨルグはきっと、高額なお給料に釣られて入団した庶民上がりの騎士に違いない。
だから庶民の私と話も合うし、そもそも隊長や副隊長なんて偉い役職に就けるのは貴族だけだと聞く。
ヨルグが隊長だなんて、まったく人違いも甚だしい。
「だぁーから、デファーロット隊長っつったら、騎士団第二部隊の隊長だろ? まさか、んなことも知らねーで付き合ってんの?」
根性を叩き上げようというおじさんの意志とは裏腹に、バレないサボり方の手腕に磨きがかかっていく気のする日々である。
「なんだよ、客なら文句ないだろ。ほらよ!」
テオは一番安いパンを引っ掴むと、レジ台にベチンッと硬貨を叩きつけた。
「あら、お客さんならいつでも歓迎だわ! 毎度ありがとうございます♪」
「ったく、調子のいい……」
ニッコリと笑顔を向ければジトリとした視線が返ってくる。
しかし特に気にした様子もなく、テオはレジ台に腰をもたれかけると買ったばかりのパンを嚙りながら、内緒話のように顔を寄せた。
「なぁ……昨日デートしてた相手って、不能隊長だろ?」
「フノー隊長? そんな人知らないけど?」
「この目で見たんだ、誤魔化そうとしたって無駄だぜ。仲良く腕なんか組んで、劇場に入ってったろ」
腕を組んで劇場に行った相手なんて、考えるまでもなく一人しかいないけれど……。
「もしかして、ヨルグさんのこと?」
「そーだよ。やっぱ不能隊長じゃんか!」
そら見たことかとテオが声を上げる。
初めの内緒話のような雰囲気はなんだったのか。
「さっきから、なんなのよそれ? フノー隊長、フノー隊長って。ヨルグさんは『ヨルグ=デファーロット』って名前だし、たぶん下っ端騎士だと思うわ?」
あのおどおどした性格だ。ヨルグはきっと、高額なお給料に釣られて入団した庶民上がりの騎士に違いない。
だから庶民の私と話も合うし、そもそも隊長や副隊長なんて偉い役職に就けるのは貴族だけだと聞く。
ヨルグが隊長だなんて、まったく人違いも甚だしい。
「だぁーから、デファーロット隊長っつったら、騎士団第二部隊の隊長だろ? まさか、んなことも知らねーで付き合ってんの?」
32
お気に入りに追加
1,017
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる