上 下
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11~20話

唯一の呼び名【下】

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 おじさんがまだまだ現役なものだから、今のところは見習いという名目で重たい小麦粉の搬入など重労働に駆り出されている。
 根性を叩き上げようというおじさんの意志とは裏腹に、バレないサボり方の手腕に磨きがかかっていく気のする日々である。

「なんだよ、客なら文句ないだろ。ほらよ!」

 テオは一番安いパンを引っ掴むと、レジ台にベチンッと硬貨を叩きつけた。

「あら、お客さんならいつでも歓迎だわ! 毎度ありがとうございます♪」

「ったく、調子のいい……」

 ニッコリと笑顔を向ければジトリとした視線が返ってくる。
 しかし特に気にした様子もなく、テオはレジ台に腰をもたれかけると買ったばかりのパンを嚙りながら、内緒話のように顔を寄せた。

「なぁ……昨日デートしてた相手って、不能隊長だろ?」

「フノー隊長? そんな人知らないけど?」

「この目で見たんだ、誤魔化そうとしたって無駄だぜ。仲良く腕なんか組んで、劇場に入ってったろ」

 腕を組んで劇場に行った相手なんて、考えるまでもなく一人しかいないけれど……。

「もしかして、ヨルグさんのこと?」

「そーだよ。やっぱ不能隊長じゃんか!」

 そら見たことかとテオが声を上げる。
 初めの内緒話のような雰囲気はなんだったのか。

「さっきから、なんなのよそれ? フノー隊長、フノー隊長って。ヨルグさんは『ヨルグ=デファーロット』って名前だし、たぶん下っ端騎士だと思うわ?」

 あのおどおどした性格だ。ヨルグはきっと、高額なお給料に釣られて入団した庶民上がりの騎士に違いない。
 だから庶民の私と話も合うし、そもそも隊長や副隊長なんて偉い役職に就けるのは貴族だけだと聞く。
 ヨルグが隊長だなんて、まったく人違いもはなはだしい。

「だぁーから、デファーロット隊長っつったら、騎士団第二部隊の隊長だろ? まさか、んなことも知らねーで付き合ってんの?」
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