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11~20話

昨夜の失態【上】

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 えーと、昨夜はどうやって帰宅したんだっけ。
 なぜかヨルグと食べていた夕食の途中から記憶がない。

 不可思議な現象に首を捻りながらも、身仕度を済ませておじいちゃんの待つ厨房に戻った。

「ねえ、おじいちゃん。私って昨日どうやって帰ってきたんだったっけ……?」

 空白の記憶についてさりげなーく質問すると、「はぁぁ……」と呆れたようなため息が返ってきた。

「酔って眠りこけたのを、デファーロットに抱えられて帰ってきたんだ」

「ヨルグさんに!!?」

 思いもよらない言葉に目を剥く。
 一瞬おじいちゃんが冗談を言って驚かせようとしているのかと思ったけれど、すぐさまそんなことは槍が降ってもありえないと思い直す。

「もう成人してんだ。酒を呑むのぁ自由だが、人様に迷惑はかけんじゃねえぞ」

「ご、ごめんなさい……」

「謝る相手が違ぇだろ」

「うぅ……」

 信じられない。信じたくない。
 あろうことか好きな人とのお出かけの真っ最中に眠り込んだうえ、家にまで運ばせてしまうだなんて。

 しかも何がショックって、ヨルグに抱っこされたときのことをこれっぽっちも覚えていないのだ。
 せめて抱きしめる腕の感触くらい思い出せないだろうかと記憶を探るけれど、幸せな夢見の余韻しか残っていない。抱き上げられても目覚めないほどに酔っ払った自分が恨めしい。

 一人眠ってしまった私を見てヨルグはどう思っただろう……。
 だらしない娘だと幻滅されたかもしれない。
 一緒に外出なんてするんじゃなかったと後悔したかもしれない。
 もう関わるのも嫌だと思われていたらどうしよう!?

 考えれば考えるほど、その結論しかないように思えてくる。

「ヨルグさん、私のこと何か言ってた?」

「……いんや」

「そう……」

 やっぱり、伝言を残す価値もないほど嫌われてしまったのでは……。

 年上のヨルグに女性として意識してもらえるよう、大人っぽくなろうと思っていたはずなのに。
 いざ蓋を開けてみれば散々はしゃぎ回ったあげく食事中にぐっすりなんて、これでは丸っきりお子様ではないか。――しかも幼児!

「んなことより、ほら。そろそろ焼き上がるぞ」

「こんな時間からパンを焼きはじめてるの?」

 香ばしいにおいにスンスンと鼻を鳴らす。
 こんなに早くに焼き上げたら、開店する頃にはすっかり冷めてしまうのに。

「リゼットの土産だ。俺と食べるってんでわざわざ持って帰ってきたんだろ? 一晩経って固くなっちまってたからな、軽く水振ってスチームで焼き直してたとこだ」

「!!! ありがとう、おじいちゃん! あっ、私ハムとチーズ取ってくる!」

 焼き上がるパンを待たせないよう、家屋のキッチン目指して飛び出した。
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