34 / 200
11~20話
昨夜の失態【上】
しおりを挟む
えーと、昨夜はどうやって帰宅したんだっけ。
なぜかヨルグと食べていた夕食の途中から記憶がない。
不可思議な現象に首を捻りながらも、身仕度を済ませておじいちゃんの待つ厨房に戻った。
「ねえ、おじいちゃん。私って昨日どうやって帰ってきたんだったっけ……?」
空白の記憶についてさりげなーく質問すると、「はぁぁ……」と呆れたようなため息が返ってきた。
「酔って眠りこけたのを、デファーロットに抱えられて帰ってきたんだ」
「ヨルグさんに!!?」
思いもよらない言葉に目を剥く。
一瞬おじいちゃんが冗談を言って驚かせようとしているのかと思ったけれど、すぐさまそんなことは槍が降ってもありえないと思い直す。
「もう成人してんだ。酒を呑むのぁ自由だが、人様に迷惑はかけんじゃねえぞ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝る相手が違ぇだろ」
「うぅ……」
信じられない。信じたくない。
あろうことか好きな人とのお出かけの真っ最中に眠り込んだうえ、家にまで運ばせてしまうだなんて。
しかも何がショックって、ヨルグに抱っこされたときのことをこれっぽっちも覚えていないのだ。
せめて抱きしめる腕の感触くらい思い出せないだろうかと記憶を探るけれど、幸せな夢見の余韻しか残っていない。抱き上げられても目覚めないほどに酔っ払った自分が恨めしい。
一人眠ってしまった私を見てヨルグはどう思っただろう……。
だらしない娘だと幻滅されたかもしれない。
一緒に外出なんてするんじゃなかったと後悔したかもしれない。
もう関わるのも嫌だと思われていたらどうしよう!?
考えれば考えるほど、その結論しかないように思えてくる。
「ヨルグさん、私のこと何か言ってた?」
「……いんや」
「そう……」
やっぱり、伝言を残す価値もないほど嫌われてしまったのでは……。
年上のヨルグに女性として意識してもらえるよう、大人っぽくなろうと思っていたはずなのに。
いざ蓋を開けてみれば散々はしゃぎ回ったあげく食事中にぐっすりなんて、これでは丸っきりお子様ではないか。――しかも幼児!
「んなことより、ほら。そろそろ焼き上がるぞ」
「こんな時間からパンを焼きはじめてるの?」
香ばしいにおいにスンスンと鼻を鳴らす。
こんなに早くに焼き上げたら、開店する頃にはすっかり冷めてしまうのに。
「リゼットの土産だ。俺と食べるってんでわざわざ持って帰ってきたんだろ? 一晩経って固くなっちまってたからな、軽く水振ってスチームで焼き直してたとこだ」
「!!! ありがとう、おじいちゃん! あっ、私ハムとチーズ取ってくる!」
焼き上がるパンを待たせないよう、家屋のキッチン目指して飛び出した。
なぜかヨルグと食べていた夕食の途中から記憶がない。
不可思議な現象に首を捻りながらも、身仕度を済ませておじいちゃんの待つ厨房に戻った。
「ねえ、おじいちゃん。私って昨日どうやって帰ってきたんだったっけ……?」
空白の記憶についてさりげなーく質問すると、「はぁぁ……」と呆れたようなため息が返ってきた。
「酔って眠りこけたのを、デファーロットに抱えられて帰ってきたんだ」
「ヨルグさんに!!?」
思いもよらない言葉に目を剥く。
一瞬おじいちゃんが冗談を言って驚かせようとしているのかと思ったけれど、すぐさまそんなことは槍が降ってもありえないと思い直す。
「もう成人してんだ。酒を呑むのぁ自由だが、人様に迷惑はかけんじゃねえぞ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝る相手が違ぇだろ」
「うぅ……」
信じられない。信じたくない。
あろうことか好きな人とのお出かけの真っ最中に眠り込んだうえ、家にまで運ばせてしまうだなんて。
しかも何がショックって、ヨルグに抱っこされたときのことをこれっぽっちも覚えていないのだ。
せめて抱きしめる腕の感触くらい思い出せないだろうかと記憶を探るけれど、幸せな夢見の余韻しか残っていない。抱き上げられても目覚めないほどに酔っ払った自分が恨めしい。
一人眠ってしまった私を見てヨルグはどう思っただろう……。
だらしない娘だと幻滅されたかもしれない。
一緒に外出なんてするんじゃなかったと後悔したかもしれない。
もう関わるのも嫌だと思われていたらどうしよう!?
考えれば考えるほど、その結論しかないように思えてくる。
「ヨルグさん、私のこと何か言ってた?」
「……いんや」
「そう……」
やっぱり、伝言を残す価値もないほど嫌われてしまったのでは……。
年上のヨルグに女性として意識してもらえるよう、大人っぽくなろうと思っていたはずなのに。
いざ蓋を開けてみれば散々はしゃぎ回ったあげく食事中にぐっすりなんて、これでは丸っきりお子様ではないか。――しかも幼児!
「んなことより、ほら。そろそろ焼き上がるぞ」
「こんな時間からパンを焼きはじめてるの?」
香ばしいにおいにスンスンと鼻を鳴らす。
こんなに早くに焼き上げたら、開店する頃にはすっかり冷めてしまうのに。
「リゼットの土産だ。俺と食べるってんでわざわざ持って帰ってきたんだろ? 一晩経って固くなっちまってたからな、軽く水振ってスチームで焼き直してたとこだ」
「!!! ありがとう、おじいちゃん! あっ、私ハムとチーズ取ってくる!」
焼き上がるパンを待たせないよう、家屋のキッチン目指して飛び出した。
30
お気に入りに追加
1,019
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~
南田 此仁
恋愛
突然異世界へと転移し、状況もわからぬままに拐われ愛玩奴隷としてオークションにかけられたマヤ。
険しい顔つきをした大柄な男に落札され、訪れる未来を思って絶望しかけたものの……。
跪いて手足の枷を外してくれたかと思えば、膝に抱き上げられ、体調を気遣われ、美味しい食事をお腹いっぱい与えられて風呂に入れられる。
温かい腕に囲われ毎日ただひたすらに甘やかされて……あれ? 奴隷生活って、こういうものだっけ———??
奴隷感なし。悲壮感なし。悲しい気持ちにはなりませんので安心してお読みいただけます☆
シリアス風な出だしですが、中身はノーシリアス?のほのぼの溺愛ものです。
■R18シーンは ※ マーク付きです。
■一話500文字程度でサラッと読めます。
■第14回 アルファポリス恋愛小説大賞《17位》
■第3回 ジュリアンパブリッシング恋愛小説大賞《最終選考》
■小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にて30000ポイント突破
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる