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11~20話

おでかけの続き【下】

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「まったく、目の前にあるチャンスくらいちゃんと掴みなさいよねぇ! なーんれあの二人ってば、あんなに遠回りして……」

 あそこでああ言っていたなら、あのときあっちを選んでいれば。
 ブツブツと零しながら、ビーフシチューに沈んだパンの切れ端をスプーンで探す。

「チャンスを掴む……か」

「ヨルグさんもそう思うれしょう?」

「そうだな。大抵の場合、チャンスはたった一度逃せば終わりだ」

「んむんむ」

 ビーフシチューを載せたスプーンを食み、うんうんと頷く。

 劇中の二人には何度も何度もチャンスがあった。それこそ、あんなに掴み損ねたチャンスの回数を、さらに上回ってしっかりと掴ませるくらいに。
 そんなこと現実ではまず起こりえないのに。

「――だからリゼット、また食事に誘ってもいいだろうか?」

「んむんむ、……んむ?」

 あれっ? 私は何か、ヨルグの発言を聞き逃しただろうか? 話が繋がらないのだけれど…………えーと、食事? また、今日みたいに?

「それは嬉しいれすけど……、またハンカチを失くすのはダメれすよ?」

「ああ、肝に銘じておく。今度は『お礼』ではなく、その……『デート』として逢いたいからな」

「デート……」

 ヨルグの口から憧れの単語が飛び出す。
 頼んでいたおかわりのお酒が供されると、何も考えられないまま一息に呑み干した。

「リゼット! そんな呑み方をしては……っ」

「――っぷは」

 さて改めてヨルグの発言について考えましょうかとグラスを置いた途端、頭に粘土を詰め込まれたかのように強烈に思考が鈍くなった。

「ぬぇ……?」

 ヨルグのほうを向きたいのに、ずっしりと重いまぶたがじりじりと視界を狭めていく。
 カクンッ、カクンッ、とシチュー皿が接近する。

「リゼット、もう出よう」

「まら料理が……」

 肩に温かな手のひらを感じ、くったりと身をもたれる。

 今日のお出かけが楽しみすぎて、昨夜はなかなか寝つけなかった。
 そのうえ朝もいつも以上に早く目が覚めて、一日中興奮してはしゃぎまわった挙げ句、お酒も入って……。

 思い当たる節をつらつらと数え上げながら、意識は抗いようもなく、とろりと宙に溶けた。
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