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1~10話
恋のはじまり【中】
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「ヨルグさん――ふふっ! 髪がぐしゃぐしゃ!」
「えっ!?」
前髪は左に流れ、頭頂部は右に跳ねたり、くるりと輪を描いたり、つむじ風に頭を突っ込んだかのような揉みくちゃっぷりだ。
やっぱり、ヨルグに身を挺して守ってもらえてよかった。せっかくおしゃれした髪型が台無しにされてしまっては困る。
私は膝立ちになると、子犬から守ってくれた頼もしい騎士の髪を両手で整えてあげた。
「ふふっ、私のためにありがとうございます」
「いや、これくらい……」
自分より少し硬めの髪が、さらさらと指の間をすり抜ける。
黒だと思っていた髪色は、日の光に青く反射する紺色だったらしい。
「こうやってヨルグさんに守ってもらうのは二回目ですね」
「まさか、覚えているのか……?」
「忘れるわけないですよ! うちのお店の前で、酔っぱらいから助けてくれたじゃないですか!」
絶対に忘れるはずがない。
なにせ、その瞬間恋に落ちたのだから。
あれはヨルグが常連になって少し経った、ある日の早朝。
「おい! こっちゃあ呑みすぎて吐きそうらってのに、朝っぱらから不味そうなパンのにおい撒き散らしてんじゃねぇ!」
明け方近くまで呑んでいたのか全身から強烈な酒精臭を放つ酔っぱらいが、店先を掃除中の私に難癖をつけてきたのだ。
厳つい体格、太い腕。
たとえ呂律が回らないほど酔っていようと、私に勝ち目なんてないとわかる。
けれど、聞き捨てならなかった。
「うちのパンが不味そうですって!? 食べたこともないくせに勝手なこと言わないで! おじいちゃんのパンはものすごーく美味しいんだから!」
「あぁん? そこまれ言うなら食わせてみろよ」
「あんたに食べさせるパンなんてないわよ!」
タダで味見してやろうと下卑た笑いを浮かべていた酔っぱらいが、ヒクリと口元を引きつらせる。
「なんらと!? この女ぁ……!」
まあ、私にもちょーっぴり反省点はあるだろう。
でも先にうちのパンを貶した酔っぱらいが悪い。悪いったら悪い。
「えっ!?」
前髪は左に流れ、頭頂部は右に跳ねたり、くるりと輪を描いたり、つむじ風に頭を突っ込んだかのような揉みくちゃっぷりだ。
やっぱり、ヨルグに身を挺して守ってもらえてよかった。せっかくおしゃれした髪型が台無しにされてしまっては困る。
私は膝立ちになると、子犬から守ってくれた頼もしい騎士の髪を両手で整えてあげた。
「ふふっ、私のためにありがとうございます」
「いや、これくらい……」
自分より少し硬めの髪が、さらさらと指の間をすり抜ける。
黒だと思っていた髪色は、日の光に青く反射する紺色だったらしい。
「こうやってヨルグさんに守ってもらうのは二回目ですね」
「まさか、覚えているのか……?」
「忘れるわけないですよ! うちのお店の前で、酔っぱらいから助けてくれたじゃないですか!」
絶対に忘れるはずがない。
なにせ、その瞬間恋に落ちたのだから。
あれはヨルグが常連になって少し経った、ある日の早朝。
「おい! こっちゃあ呑みすぎて吐きそうらってのに、朝っぱらから不味そうなパンのにおい撒き散らしてんじゃねぇ!」
明け方近くまで呑んでいたのか全身から強烈な酒精臭を放つ酔っぱらいが、店先を掃除中の私に難癖をつけてきたのだ。
厳つい体格、太い腕。
たとえ呂律が回らないほど酔っていようと、私に勝ち目なんてないとわかる。
けれど、聞き捨てならなかった。
「うちのパンが不味そうですって!? 食べたこともないくせに勝手なこと言わないで! おじいちゃんのパンはものすごーく美味しいんだから!」
「あぁん? そこまれ言うなら食わせてみろよ」
「あんたに食べさせるパンなんてないわよ!」
タダで味見してやろうと下卑た笑いを浮かべていた酔っぱらいが、ヒクリと口元を引きつらせる。
「なんらと!? この女ぁ……!」
まあ、私にもちょーっぴり反省点はあるだろう。
でも先にうちのパンを貶した酔っぱらいが悪い。悪いったら悪い。
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